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第6回 | フォードの最新車デザイン・性能情報をお届け

マスタング ブリット──蘇るS.マックイーンの相棒

映画とカーアクションは切っても切り離せない関係にある。『バニシング・ポイント』(1974年)、『ザ・ドライバー』(1978年)、『L.A.大捜査線/狼たちの街』(1985年)…。これらは今も語り継がれるカーアクション映画の名作だ。そのなかでも、古典というべき作品が『ブリット』(1968年)だろう。この映画でスティーブ・マックイーンが駆った1968年型のフォード『マスタングGT390』は、史上最も有名な『マスタング』となり、世界中に大きなインパクトを与えた。フォードが2018年1月に発表した『マスタング ブリット』2019年モデルは、その伝説の劇中車をモチーフとしている。

マックイーンが操って映画史に残るカーチェイスを繰り広げた『マスタングGT390』

映画『ブリット』では、スティーブ・マックイーンが演じたサンフランシスコ市警の刑事、フランク・ブリットがハイランドグリーンに塗装された『マスタングGT390』を駆り、殺し屋の乗るダッジ『チャージャー』と死闘を演じた。

劇中のカーチェイスは、ノンストップで7分間も続く。特に前半の街中のシーンでは、舞台となったサンフランシスコの坂道を利用して『マスタングGT390』と『チャージャー』が宙を飛びまくり、大迫力のカーアクションが繰り広げられる。

このカーチェイスをより見ごたえのあるものにした仕掛けが、当時としては画期的だったカメラワークだ。カメラを運転席と助手席の間に置き、正面に向けて撮影することで、乗員と同じ視点の映像を実現したのである。あまりにクルマが飛び跳ねるので、観ていて車酔いに近い状態になった記憶がある(下の写真は撮影に使われた『マスタングGT390』)。

この『ブリット』のヒットに好景気も相まって、初代『マスタング』はアメリカの自動車史に残る大ベストセラーを記録。2001年には、5代目『マスタング』に『ブリット』の劇中車と同じカラーなどを施した限定車も登場した。

今回の『マスタング ブリット』2019年モデルは、それ以来の「ブリット仕様車」となる。

映画『ブリット』と同じ“グリーンメタリック”を纏った『マスタング ブリット』

まず目を奪われるのは「グリーンメタリック」のボディカラーである。もちろん、この印象的な色は映画の『マスタングGT390』をイメージしたものだ。

フロントグリルにも映画へのオマージュが見て取れる。アメ車に詳しい人ならご存じだろうが、通常、『マスタング』のフロントグリルには馬のエンブレムが装着される(「マスタング」は野生馬を意味する)。しかし、『マスタング ブリット』には、映画と同様にあえてエンブレムを付けない演出が施された。

また、MT(マニュアルトランスミッション)のシフトノブも、映画と同じホワイトのボールシフトノブが装備されている。

パワーユニットには、専用チューンを受けた5.0LのV型8気筒自然吸気エンジンを搭載。最大出力475hp、最大トルク58.1kgmを発生する。最高速度はベース車両の『マスタングGT』よりも13km/h速い262km/hとなった。

ワールドプレミアにプレゼンターとして登場したスティーブ・マックイーンの孫娘

『マスタング ブリット』2019年モデルが初公開されたのは、2018年1月のデトロイトモーターショー。そこへプレゼンターとして登場したのが、スティーブ・マックイーンの孫娘であり、女優のモリー・マックィーンである。

(C) NAIAS

モリー・マックィーンは、フォードのオフィシャル動画(下のリンク)でも『マスタング ブリット』のハンドルを握り、『ブリット』の殺し屋と似た風貌の2人組と駐車場でカーチェイスを演じている。

まさしくカーアクション映画の古典に対するオマージュが満載なのだが、残念ながら、日本ではフォード車は正規ディーラーを通じて入手できない。そもそも、『マスタング ブリット』は価格も正式にアナウンスされていない。

ちなみに、シリアルナンバー001の『マスタング ブリット』は、名車オークションの「バレットジャクソン・オークション」に出品され、その売り上げが慈善団体に寄付された。落札額は30万ドル(約3280万円)だったという。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Ford Motor Company
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第10回 | フォードの最新車デザイン・性能情報をお届け

マスタング シェルビーGT500──これぞマッスルカーだ

フォードは北米市場でセダン系車種の生産を終了し、今後はSUVとピックアップトラックに注力する方針を明らかにしている。2020年以降の「Ford」ブランドは、SUVとピックアップトラックがラインナップの大半を占めることになるのだ。ただし、例外の車種もある。その筆頭が『マスタング』だ。このクルマは、フォードの歴史に燦然と輝く大ヒットモデルであり、今も世界中に多くの根強いファンをもつ。逆にいうと、SUVとピックアップトラック以外のフォード車に乗りたければ、もう『マスタング』しか選択肢がなくなるかもしれない。そうしたなか、フォードから途轍もないモデルが登場した。700馬力を誇るマスタング史上最強のマッスルカー、『マスタング・シェルビーGT500』である。

初代は最高出力355hpの V8エンジンを搭載する1967年登場の『シェルビーGT500』

今年1月にデトロイトで開催された自動車ショーでフォードが発表した新型『マスタング・シェルビーGT500』は、多くのファンとメディアを唸らせた。フォードのモータースポーツ部門であるフォード・パフォーマンスによって設計されたそのクルマは、間違いなくフォード史上もっともパワフルで速い、「史上最強のマスタング」だったからだ。

『マスタング・シェルビーGT500』を紹介するには、まず「シェルビーGT(シェルビー・マスタング)」というモデルの成り立ちについて説明しておく必要があるだろう。

初代『マスタング』は、1964年に発売されると瞬く間に世界のスポーツカー市場を席巻したアメリカ自動車史の金字塔だ。迫力あるスタイリングとパワフルなエンジンは、アメリカ人の意志を示した力強さの象徴でもあった。この初代『マスタング』をベースにレース用のチューンアップを施したのが、1965年に誕生した『シェルビーGT350』である。

1965年当時、アメリカの自動車レース統括組織である「SCCA」主催のプロダクションレース(市販車改造レース)に出場するには、「100台以上の製造と一般販売」の実績によってホモロゲーション(承認)を得る必要があった。そこで、フォードはレーシングドライバーでありカーデザイナーでもあったキャロル・シェルビーに『マスタング』のチューンナップを依頼する。シェルビーが手がけたロードカーの『シェルビーGT350』はヒットモデルとなり、2年後には排気量7000ccのV8エンジンに換装して最高出力を355hpにアップした『シェルビーGT500』も登場。空力を見直してスタイリング面も魅力的になった『シェルビーGT500』は、まさにマッスルカーの名にふさわしい存在となった。

「シェルビー・マスタング」はその後、1969年に生産を終了するが、2007年に6代目『マスタング』をベースに復活。そして今回、「シェルビー・マスタング」シリーズの頂きに立つ「シェルビーGT500」の2020年モデルがデトロイトでお披露目されたのだ。

最高出力はなんと700馬力。加速力はスーパーカークラスで日産『GT-R』よりも速い

注目すべきは、やはりパワートレインだろう。イートン社のルーツ式スーパーチャージャーを備える5.2LのV型8気筒エンジンには専用チューンが施され、その最高出力はじつに700hp超を発揮する。この強力な心臓部に組み合わされるトランスミッションは、TREMEC製の7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)で、ギアシフト時のラグはわずか0.1秒未満とされている。これは間違いなく生身の人間をしのぐ速さだ。

このDCTは、「フルオートマチック」「セミオート・パドルシフトモード」「フルマニュアル・パドルシフト」の3種類のモードから選択することができる。マニュアルミッションを選べることにうれしさを感じる『マスタング』ファンは多いに違いない。

そのパフォーマンスは圧倒的といってよく、0-60マイル(97km/h)加速は3秒台半ば、0-400mの加速は11秒以下という強烈さ。これはまさにスーパースポーツ級で、0-400mにいたってはFR(後輪駆動)でありながら4WDの日産『GT-R』を上回るほどだ。開発チームはストリートモデル最強を目指したとのことだが、その言葉も納得できる。

戦闘機からインスピレーションを得たエクステリアは、機能的かつマッシブで威嚇的

2020年型『シェルビーGT500』の開発を担ったのは、前述したとおり、フォードのモータースポーツ部門のフォード・パフォーマンスだ。開発チームはアメリカ・ノースカロライナ州にあるフォードのモータースポーツテクニカルセンターを活用し、トップクラスのレーシングチームと同様に風洞実験を重ねてこのクルマのスタイリングを完成させた。その筋肉質で威嚇的でさえあるエクステリアは、戦闘機から着想を得ているという。

上下2段のダブルフロントグリルは、開口面積が『シェルビーGT350』から2倍以上も拡大され、冷却効率を50%以上増やすために6つの熱交換器が収められた。ボンネット上で目を引く31×28インチもの大きなルーバー付きフードベントは、風による排熱効果を高めるのと同時に、よりフロントのダウンフォースを得られる形状になっている。

マッスルカーは加速性能ばかりに目がいきがちだが、この『シェルビーGT500』はけっしてドラッグレースだけが得意な直線番長ではない。テストロードやサーキットでの試走を繰り返し、サスペンション・ジオメトリーはボディ設計から見直した。さらに、各種ドライブモードを選択できる専用開発のECU(エンジンコントロールユニット)と併せ、サーキットでのコーナリング性能の高さも重要なアピールポイントとなっているのだ。

強大なパワーを支える足元には、20インチホイールにカスタムメイドのミシュランタイヤを装着し、16.5インチ(420mm)という大径のディスクブレーキを備える。さらに、オプションでカーボンファイバー・トラックパッケージを選択すると、専用開発のミシュラン・パイロット・スポーツ2を履いたカーボンファイバー製ホイールに変更される。パッケージには、角度調整が可能なカーボンファイバー製GT4リヤウイング&スプリッターが含まれるが、その場合は軽量化のためにリヤシートが取り除かれるという。

なお、歴代の「シェルビー・マスタング」に受け継がれてきた"COBRA"のバッジとボディのストライプは、2020年モデルの『シェルビーGT500』でも健在である。

キャロル・シェルビーはオリジナルの『GT500』こそ「本物のクルマ」と呼んでいた

内装は基本的に『GT350』を継承した。しかし、ダークスレートスエードとカーボンファイバー製のインパネ、サイドボルスタリング式のレカロ製シートがレーシーな雰囲気を演出し、12インチのフルカラーメーターや8インチタッチスクリーンを組み合わせる新世代インフォテイメントシステム、12スピーカーを駆動するバング&オルフセンのオーディオセットが2020年モデルの『シェルビーGT500』であることを主張している。

キャロル・シェルビーは2012年に亡くなってしまったが、生前にはオリジナルの『シェルビーGT500』を「私が誇りに思う本物のクルマ」と呼んでいたという。2020年モデルの『シェルビーGT500』にいったいどんな感慨を持っただろうかとついつい思いを馳せてしまうが、現代にその名が受け継がれていることは開発者として名誉なことに違いない。『シェルビーGT500』2020年モデルは、今年後半に北米で発売される見込みだ。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ford Motor Company
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
2020 Ford Mustang Shelby GT500 オフィシャル動画
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