マックイーンが操って映画史に残るカーチェイスを繰り広げた『マスタングGT390』
映画『ブリット』では、スティーブ・マックイーンが演じたサンフランシスコ市警の刑事、フランク・ブリットがハイランドグリーンに塗装された『マスタングGT390』を駆り、殺し屋の乗るダッジ『チャージャー』と死闘を演じた。
劇中のカーチェイスは、ノンストップで7分間も続く。特に前半の街中のシーンでは、舞台となったサンフランシスコの坂道を利用して『マスタングGT390』と『チャージャー』が宙を飛びまくり、大迫力のカーアクションが繰り広げられる。
このカーチェイスをより見ごたえのあるものにした仕掛けが、当時としては画期的だったカメラワークだ。カメラを運転席と助手席の間に置き、正面に向けて撮影することで、乗員と同じ視点の映像を実現したのである。あまりにクルマが飛び跳ねるので、観ていて車酔いに近い状態になった記憶がある(下の写真は撮影に使われた『マスタングGT390』)。
この『ブリット』のヒットに好景気も相まって、初代『マスタング』はアメリカの自動車史に残る大ベストセラーを記録。2001年には、5代目『マスタング』に『ブリット』の劇中車と同じカラーなどを施した限定車も登場した。
今回の『マスタング ブリット』2019年モデルは、それ以来の「ブリット仕様車」となる。
映画『ブリット』と同じ“グリーンメタリック”を纏った『マスタング ブリット』
まず目を奪われるのは「グリーンメタリック」のボディカラーである。もちろん、この印象的な色は映画の『マスタングGT390』をイメージしたものだ。
フロントグリルにも映画へのオマージュが見て取れる。アメ車に詳しい人ならご存じだろうが、通常、『マスタング』のフロントグリルには馬のエンブレムが装着される(「マスタング」は野生馬を意味する)。しかし、『マスタング ブリット』には、映画と同様にあえてエンブレムを付けない演出が施された。
また、MT(マニュアルトランスミッション)のシフトノブも、映画と同じホワイトのボールシフトノブが装備されている。
パワーユニットには、専用チューンを受けた5.0LのV型8気筒自然吸気エンジンを搭載。最大出力475hp、最大トルク58.1kgmを発生する。最高速度はベース車両の『マスタングGT』よりも13km/h速い262km/hとなった。
ワールドプレミアにプレゼンターとして登場したスティーブ・マックイーンの孫娘
『マスタング ブリット』2019年モデルが初公開されたのは、2018年1月のデトロイトモーターショー。そこへプレゼンターとして登場したのが、スティーブ・マックイーンの孫娘であり、女優のモリー・マックィーンである。
モリー・マックィーンは、フォードのオフィシャル動画(下のリンク)でも『マスタング ブリット』のハンドルを握り、『ブリット』の殺し屋と似た風貌の2人組と駐車場でカーチェイスを演じている。
まさしくカーアクション映画の古典に対するオマージュが満載なのだが、残念ながら、日本ではフォード車は正規ディーラーを通じて入手できない。そもそも、『マスタング ブリット』は価格も正式にアナウンスされていない。
ちなみに、シリアルナンバー001の『マスタング ブリット』は、名車オークションの「バレットジャクソン・オークション」に出品され、その売り上げが慈善団体に寄付された。落札額は30万ドル(約3280万円)だったという。
Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Ford Motor Company
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)