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第10回 | フォードの最新車デザイン・性能情報をお届け

マスタング シェルビーGT500──これぞマッスルカーだ

フォードは北米市場でセダン系車種の生産を終了し、今後はSUVとピックアップトラックに注力する方針を明らかにしている。2020年以降の「Ford」ブランドは、SUVとピックアップトラックがラインナップの大半を占めることになるのだ。ただし、例外の車種もある。その筆頭が『マスタング』だ。このクルマは、フォードの歴史に燦然と輝く大ヒットモデルであり、今も世界中に多くの根強いファンをもつ。逆にいうと、SUVとピックアップトラック以外のフォード車に乗りたければ、もう『マスタング』しか選択肢がなくなるかもしれない。そうしたなか、フォードから途轍もないモデルが登場した。700馬力を誇るマスタング史上最強のマッスルカー、『マスタング・シェルビーGT500』である。

初代は最高出力355hpの V8エンジンを搭載する1967年登場の『シェルビーGT500』

今年1月にデトロイトで開催された自動車ショーでフォードが発表した新型『マスタング・シェルビーGT500』は、多くのファンとメディアを唸らせた。フォードのモータースポーツ部門であるフォード・パフォーマンスによって設計されたそのクルマは、間違いなくフォード史上もっともパワフルで速い、「史上最強のマスタング」だったからだ。

『マスタング・シェルビーGT500』を紹介するには、まず「シェルビーGT(シェルビー・マスタング)」というモデルの成り立ちについて説明しておく必要があるだろう。

初代『マスタング』は、1964年に発売されると瞬く間に世界のスポーツカー市場を席巻したアメリカ自動車史の金字塔だ。迫力あるスタイリングとパワフルなエンジンは、アメリカ人の意志を示した力強さの象徴でもあった。この初代『マスタング』をベースにレース用のチューンアップを施したのが、1965年に誕生した『シェルビーGT350』である。

1965年当時、アメリカの自動車レース統括組織である「SCCA」主催のプロダクションレース(市販車改造レース)に出場するには、「100台以上の製造と一般販売」の実績によってホモロゲーション(承認)を得る必要があった。そこで、フォードはレーシングドライバーでありカーデザイナーでもあったキャロル・シェルビーに『マスタング』のチューンナップを依頼する。シェルビーが手がけたロードカーの『シェルビーGT350』はヒットモデルとなり、2年後には排気量7000ccのV8エンジンに換装して最高出力を355hpにアップした『シェルビーGT500』も登場。空力を見直してスタイリング面も魅力的になった『シェルビーGT500』は、まさにマッスルカーの名にふさわしい存在となった。

「シェルビー・マスタング」はその後、1969年に生産を終了するが、2007年に6代目『マスタング』をベースに復活。そして今回、「シェルビー・マスタング」シリーズの頂きに立つ「シェルビーGT500」の2020年モデルがデトロイトでお披露目されたのだ。

最高出力はなんと700馬力。加速力はスーパーカークラスで日産『GT-R』よりも速い

注目すべきは、やはりパワートレインだろう。イートン社のルーツ式スーパーチャージャーを備える5.2LのV型8気筒エンジンには専用チューンが施され、その最高出力はじつに700hp超を発揮する。この強力な心臓部に組み合わされるトランスミッションは、TREMEC製の7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)で、ギアシフト時のラグはわずか0.1秒未満とされている。これは間違いなく生身の人間をしのぐ速さだ。

このDCTは、「フルオートマチック」「セミオート・パドルシフトモード」「フルマニュアル・パドルシフト」の3種類のモードから選択することができる。マニュアルミッションを選べることにうれしさを感じる『マスタング』ファンは多いに違いない。

そのパフォーマンスは圧倒的といってよく、0-60マイル(97km/h)加速は3秒台半ば、0-400mの加速は11秒以下という強烈さ。これはまさにスーパースポーツ級で、0-400mにいたってはFR(後輪駆動)でありながら4WDの日産『GT-R』を上回るほどだ。開発チームはストリートモデル最強を目指したとのことだが、その言葉も納得できる。

戦闘機からインスピレーションを得たエクステリアは、機能的かつマッシブで威嚇的

2020年型『シェルビーGT500』の開発を担ったのは、前述したとおり、フォードのモータースポーツ部門のフォード・パフォーマンスだ。開発チームはアメリカ・ノースカロライナ州にあるフォードのモータースポーツテクニカルセンターを活用し、トップクラスのレーシングチームと同様に風洞実験を重ねてこのクルマのスタイリングを完成させた。その筋肉質で威嚇的でさえあるエクステリアは、戦闘機から着想を得ているという。

上下2段のダブルフロントグリルは、開口面積が『シェルビーGT350』から2倍以上も拡大され、冷却効率を50%以上増やすために6つの熱交換器が収められた。ボンネット上で目を引く31×28インチもの大きなルーバー付きフードベントは、風による排熱効果を高めるのと同時に、よりフロントのダウンフォースを得られる形状になっている。

マッスルカーは加速性能ばかりに目がいきがちだが、この『シェルビーGT500』はけっしてドラッグレースだけが得意な直線番長ではない。テストロードやサーキットでの試走を繰り返し、サスペンション・ジオメトリーはボディ設計から見直した。さらに、各種ドライブモードを選択できる専用開発のECU(エンジンコントロールユニット)と併せ、サーキットでのコーナリング性能の高さも重要なアピールポイントとなっているのだ。

強大なパワーを支える足元には、20インチホイールにカスタムメイドのミシュランタイヤを装着し、16.5インチ(420mm)という大径のディスクブレーキを備える。さらに、オプションでカーボンファイバー・トラックパッケージを選択すると、専用開発のミシュラン・パイロット・スポーツ2を履いたカーボンファイバー製ホイールに変更される。パッケージには、角度調整が可能なカーボンファイバー製GT4リヤウイング&スプリッターが含まれるが、その場合は軽量化のためにリヤシートが取り除かれるという。

なお、歴代の「シェルビー・マスタング」に受け継がれてきた"COBRA"のバッジとボディのストライプは、2020年モデルの『シェルビーGT500』でも健在である。

キャロル・シェルビーはオリジナルの『GT500』こそ「本物のクルマ」と呼んでいた

内装は基本的に『GT350』を継承した。しかし、ダークスレートスエードとカーボンファイバー製のインパネ、サイドボルスタリング式のレカロ製シートがレーシーな雰囲気を演出し、12インチのフルカラーメーターや8インチタッチスクリーンを組み合わせる新世代インフォテイメントシステム、12スピーカーを駆動するバング&オルフセンのオーディオセットが2020年モデルの『シェルビーGT500』であることを主張している。

キャロル・シェルビーは2012年に亡くなってしまったが、生前にはオリジナルの『シェルビーGT500』を「私が誇りに思う本物のクルマ」と呼んでいたという。2020年モデルの『シェルビーGT500』にいったいどんな感慨を持っただろうかとついつい思いを馳せてしまうが、現代にその名が受け継がれていることは開発者として名誉なことに違いない。『シェルビーGT500』2020年モデルは、今年後半に北米で発売される見込みだ。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ford Motor Company
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
2020 Ford Mustang Shelby GT500 オフィシャル動画
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第9回 | フォードの最新車デザイン・性能情報をお届け

なぜか本家よりも先に登場──1960年代風のEVマスタング

ヨーロッパの自動車メーカーが、ガソリン車よりEV(電気自動車)に注力しているのは公然の事実である。あのポルシェもEVスポーツカー『タイカン』を今年中に発売する。それはアメリカのメーカーも変わらない。たとえば、フォードはラインアップを刷新し、2022年末までに40モデルのEVを投入する予定だ。今年中にはハイブリッド車の『マスタング』が登場するという。しかしその完成と発表を待たずして、イギリスの新興メーカーから1960年代風の「EVマスタング」が生産されることとなった。

『ワイ・スピ』にも登場。自動車史に残るヒットとなった初代フォード『マスタング』

フォード『マスタング』といえば、やはり1964年登場の初代が印象深い。スポーティでバランスのいい性能、ロングノーズショートデッキの魅力的なデザインをもち、それでいて廉価で手に入りやすかったことから、記録的なベストセラーとなったモデルだ。

スクリーンにも、古くはスティーブ・マックイーン主演の『ブリッド』に、2000年代以降では『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』に、それぞれ1968年型と1967年型が登場している。こうした映画のイメージからマッスルカーと思われがちだが、じつは若者が最初に乗るクルマを馬になぞらえ、当時は「ポニーカー」と呼ばれていた。生粋のスポーツカーというより、ベビーブーマー世代に向けたスポーティな量産車だったのだ。

クーペ、ファストバック、コンバーチブル合わせて60万台超ものセールスを記録しただけに、今も初代『マスタング』に思い入れをもつファンが世界中に存在する。

現行型にも初代のスタイリングが色濃く反映されており、それはユーザーに「マスタングのデザイン」として望まれているカタチがそこにあるからだろう。その初代モデルが当時のスタイリングのままEVとなって登場するとは、時代の移ろいを感じざるをえない。

生産するのはイギリスの新興EVメーカー。加速力はポルシェ『911ターボ』に匹敵

生産するのはフォードではなく、ロンドンのチャージ・オートモーティブ(Charge Automotive)という新興メーカーである。CA社は商用EVのドライブトレインの設計や製作を手がける一方、ジャガー・ランドローバー、マクラーレン、そしてF1グランプリに参戦するウイリアムズ・グランプリ・エンジニアリングといったイギリスに本拠をおく企業のプロジェクトにもかかわっている。いわばEVテクノロジーカンパニーだ。

ボディには1960年代、つまり初代『マスタング』のスタイリング・ランゲージを用いている。とはいえ、イギリスの新興メーカーがなぜ本家フォードを差し置いて新車の「EVマスタング」を生産するのか? 残念ながら経緯についての詳細は語られていない。

パワートレインには新たに開発された複数の電気モーターを搭載し、最高出力408ps(300 kW)、最大トルク1200Nmを発揮。64kWhのバッテリーにより、0-62mph(約100km)の加速は3.09秒を記録する。これはポルシェ『911ターボ』と肩を並べる速さだ。ディスタンスは200km。CA社の公式サイトにはリア駆動と全輪駆動とがあるが、これらがパートタイムなのか、それぞれ選択可能なモデルなのかも明らかにされていない。

初代をモチーフとしているので、当然ながらデザインはオリジナルに近い印象だ。とりわけ丸目のライトをもつフロントマスクとファストバックのフォルムは、初代のデザインを色濃く受け継いでいる。しかし、なぜかテールランプだけはまったくデザインが違う。

『マスタング』のテールランプといえば、鉤爪のような縦3連を思い浮かべる。これは1960年代の全モデルに共通するデザインだ。ところが、この「EVマスタング」は どういう理由からか、フォードのライバルであるクライスラーのダッジ『チャレンジャー』のようなデザインのテールランプを採用しているのだ。さらに、10本スポークのホイールとゴールドのブレーキキャリパーを採用していることから、カスタムカーのようでもある。

「EVマスタング」の価格は約2890万円から。東京でも試乗発表会を予定しているが…

インテリアについては、オーダーメイドが可能で、しかもCA社はかなりの高いグレードで仕上げると約束している。「最先端のコンポーネントとパーソナライズされたデジタルインターフェースを取り入れた」というコクピットは、1960年代風というより最新EVの雰囲気が漂う。しかし素材はレザーを採用し、ステアリングホイールはレトロ調だ。

生産台数は限定499台で、価格は20万ポンド(約2890万円)から。2019年9月に最初の出荷を予定しているが、予約するには5000ポンド(約72万円)のデポジットを支払う必要がある。また、CA社は、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、上海、そして東京でも試乗発表会を実施するとしているのだが、この点についても詳細は不明である。

気になるのは、CA社の公式サイトに「『フォード』および『マスタング』は、フォードモーターの登録商標です。チャージ・オートモーティブは、これらの商標の所有者との関係において、承認、または提携をしていません。」と記されていること。そういえば、ロシアのメーカーも初代『マスタング』風のEVの製作を発表している。たしかにデザインの権利というのは国外に及びにくいものだが、販売するうえで支障はないのだろうか。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Charge Automotive
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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