『ワイ・スピ』にも登場。自動車史に残るヒットとなった初代フォード『マスタング』
フォード『マスタング』といえば、やはり1964年登場の初代が印象深い。スポーティでバランスのいい性能、ロングノーズショートデッキの魅力的なデザインをもち、それでいて廉価で手に入りやすかったことから、記録的なベストセラーとなったモデルだ。
スクリーンにも、古くはスティーブ・マックイーン主演の『ブリッド』に、2000年代以降では『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』に、それぞれ1968年型と1967年型が登場している。こうした映画のイメージからマッスルカーと思われがちだが、じつは若者が最初に乗るクルマを馬になぞらえ、当時は「ポニーカー」と呼ばれていた。生粋のスポーツカーというより、ベビーブーマー世代に向けたスポーティな量産車だったのだ。
クーペ、ファストバック、コンバーチブル合わせて60万台超ものセールスを記録しただけに、今も初代『マスタング』に思い入れをもつファンが世界中に存在する。
現行型にも初代のスタイリングが色濃く反映されており、それはユーザーに「マスタングのデザイン」として望まれているカタチがそこにあるからだろう。その初代モデルが当時のスタイリングのままEVとなって登場するとは、時代の移ろいを感じざるをえない。
生産するのはイギリスの新興EVメーカー。加速力はポルシェ『911ターボ』に匹敵
生産するのはフォードではなく、ロンドンのチャージ・オートモーティブ(Charge Automotive)という新興メーカーである。CA社は商用EVのドライブトレインの設計や製作を手がける一方、ジャガー・ランドローバー、マクラーレン、そしてF1グランプリに参戦するウイリアムズ・グランプリ・エンジニアリングといったイギリスに本拠をおく企業のプロジェクトにもかかわっている。いわばEVテクノロジーカンパニーだ。
ボディには1960年代、つまり初代『マスタング』のスタイリング・ランゲージを用いている。とはいえ、イギリスの新興メーカーがなぜ本家フォードを差し置いて新車の「EVマスタング」を生産するのか? 残念ながら経緯についての詳細は語られていない。
パワートレインには新たに開発された複数の電気モーターを搭載し、最高出力408ps(300 kW)、最大トルク1200Nmを発揮。64kWhのバッテリーにより、0-62mph(約100km)の加速は3.09秒を記録する。これはポルシェ『911ターボ』と肩を並べる速さだ。ディスタンスは200km。CA社の公式サイトにはリア駆動と全輪駆動とがあるが、これらがパートタイムなのか、それぞれ選択可能なモデルなのかも明らかにされていない。
初代をモチーフとしているので、当然ながらデザインはオリジナルに近い印象だ。とりわけ丸目のライトをもつフロントマスクとファストバックのフォルムは、初代のデザインを色濃く受け継いでいる。しかし、なぜかテールランプだけはまったくデザインが違う。
『マスタング』のテールランプといえば、鉤爪のような縦3連を思い浮かべる。これは1960年代の全モデルに共通するデザインだ。ところが、この「EVマスタング」は どういう理由からか、フォードのライバルであるクライスラーのダッジ『チャレンジャー』のようなデザインのテールランプを採用しているのだ。さらに、10本スポークのホイールとゴールドのブレーキキャリパーを採用していることから、カスタムカーのようでもある。
「EVマスタング」の価格は約2890万円から。東京でも試乗発表会を予定しているが…
インテリアについては、オーダーメイドが可能で、しかもCA社はかなりの高いグレードで仕上げると約束している。「最先端のコンポーネントとパーソナライズされたデジタルインターフェースを取り入れた」というコクピットは、1960年代風というより最新EVの雰囲気が漂う。しかし素材はレザーを採用し、ステアリングホイールはレトロ調だ。
生産台数は限定499台で、価格は20万ポンド(約2890万円)から。2019年9月に最初の出荷を予定しているが、予約するには5000ポンド(約72万円)のデポジットを支払う必要がある。また、CA社は、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、上海、そして東京でも試乗発表会を実施するとしているのだが、この点についても詳細は不明である。
気になるのは、CA社の公式サイトに「『フォード』および『マスタング』は、フォードモーターの登録商標です。チャージ・オートモーティブは、これらの商標の所有者との関係において、承認、または提携をしていません。」と記されていること。そういえば、ロシアのメーカーも初代『マスタング』風のEVの製作を発表している。たしかにデザインの権利というのは国外に及びにくいものだが、販売するうえで支障はないのだろうか。
Text by Koji Okamura
Photo by (C) Charge Automotive
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)