マッスルカーブームのさなかに誕生した426ヘミの1968型ダッジ『チャージャー』
『チャージャー』は、FCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)がダッジブランドで展開するフルサイズセダンのマッスルカーだ。マッスルカーは、広い意味でいうと大排気量のV8エンジンを搭載したハイパフォーマンスのアメ車のことを指す。
1960年代初め、アメリカではマッスルカーブームが巻き起こった。シェルビー『マスタング』、フォード『ギャラクシー』、シボレー『コルベット』、ポンティアック『GTO』、オールズモビル『カトラス シュープリーム』。こうしたクルマが大人気となっていたのである。これらに対抗するためにクライスラーが開発したのが『チャージャー』だ。
とりわけデビュー3年目の1968年に登場した2ドアノッチバックの高性能バージョン『チャージャーR/T』は、いまも『チャージャー』の象徴として高い人気を誇る。エンジンは440キュービックインチ(約7.2L)のマグナムV8。さらに、オプションでストックカー用のハイパフォーマンスエンジンである426HEMI(ヘミ)が設定されていた。
このエンジンを作り上げたのは「MOPAR(モパー)」。モパーはFCAのカスタムパーツ部門として知られるが、当時はクライスラーのハイパフォーマンスカー全般を意味した。今回発表されたオマージュモデルも、モパーが最新のヘミエンジンを搭載して甦らせたものだ。その名を『1968 ダッジ“スーパーチャージャー”コンセプト』という。
モパーのスーパーチャージドV8ヘミエンジンは、なんと最高出力1000psを発揮する
「チャージャー」の前に「スーパー」があることでわかるように、『1968 ダッジ“スーパーチャージャー”コンセプト』はすべての面で大幅にチューンナップされている。
エンジンは、モパーが新たに開発した排気量426キュービックインチ(約7.0L)のスーパーチャージド・モパー・クレート・ヘミ「Hellephant(ヘレファント)」。現行型『チャージャーSRTヘルキャット』などが搭載するV8をベースに、大容量のスーパーチャージャーを追加するなどさまざまな改良を施してパワーアップしたものだ。
426ヘミエンジンに組み合わせるのは、やはり『SRTヘルキャット』に採用される6速MTで、そのスペックは、じつに最高出力が1000ps、最大トルクは131.3kgmに達するという。まさにモンスターマシンだが、これはおもにレース用のエンジンだろう。
エンジン名にある「クレート」とは「木箱」のこと。つまりクレートエンジンとは、ストックカーの交換用エンジンを意味するわけだ。すでにモパーは、この「ヘレファント」をカスタムキットとして2019年第一四半期に市販することを明らかにしている。
ボディカラーはグレーメタリックの「デ・グリージョ」。ただならぬ雰囲気が漂う外観
エクステリアも、全身からただならぬ雰囲気を横溢させている。ボディカラーは「デ・グリージョ」と呼ばれるグレーメタリックの特別塗装。ワイドな一体型のフロントグリルはオリジナルの1968年型『チャージャーR/T』をそのまま受け継いでいるが、通常時に隠れているヘッドライトは『SRTヘルキャット』のものへと変更された。
その上部のボンネットには、426ヘミエンジンに空気を送り込んで冷却するための特大エアスクープが設けられている。グリル下部のフロントスプリッターとともに、これらは最高出力800psの『チャージャーSRTデーモン』に採用されていたものと思われる。
ボディ同色のメタリックグレーのオーバーフェンダーはファイバーグラス製で、それによって全幅がオリジナルより4インチ拡大。ホイールベースも2インチ伸長され、全高は前3.5インチ、後2.5インチ低くなった(1インチは約2.54cm)。
足元にはフロント21インチ、リア20インチの鍛造アルミホイールを装着し、タイヤはフロント305/30R20、リア315/35R21。おそらくピレリ製だろう。むろんブレーキは1968年製ではなく、6ピストンのブレンボ製を装備して制動力を高めている。
インテリアでは、後席が取り払われて、前席はダッジ『バイパー』用のバケットシートへと換装された。中央に「ヘレファント」の猛々しい青のバッジが装着されたステアリングホイールも『バイパー』に採用されていたもので、このステアリングとシートには赤のステッチがアクセントカラーとして入る。シートベルトはサベルト製の4点式である。
アメリカでスーパーカー以上に高い価格がつけられる「レストモッド」マッスルカー
このオマージュモデルのように、ヒストリックカーをレストアして最新エンジンなどを搭載したクルマのことを、近年は「レストモッド」と呼ぶことがある。
レストモッドは「レストア」と「モデファイ」をかけ合わせた造語で、つまりレストアというよりリプロダクション(再生産)されたモデルに近い。ポルシェが933型『911ターボ』を一台だけ復元した「プロジェクト・ゴールド」などがこれにあたるだろう。
レストモッドは特にアメリカで人気が高く、その価格はスーパーカーよりも高いといわれる。1960〜70年代のマッスルカーは『ワイルドスピード』シリーズ全作にドムの愛車として登場し、近年さらに価値を高めている。モパーが「ヘレファント」を搭載した1968年型『チャージャー』を発表したのには、そんな背景もあるのかもしれない。
Text by Kenzo Maya
Photo by (C) FCA US LLC.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)