独自の進化を遂げたピックアップトラック
州によってはトラック登録だと税金が安いこともあり、アメリカでは若者に人気のピックアップトラック。ゆえにハイパフォーマンスなものや先進的なデザイン、後部座席が脱着可能なものなど、さまざまなタイプのモデルがこれまでも誕生してきた。まるで日本の軽自動車や携帯電話のように、アメリカの風土や制度にあわせたガラパゴス的な進化を遂げているあたりが特徴的なのだ。
そんなアメリカの独特の文化が、ちょっと違った形で日本でも受け入れられてきた。なかでも人気なのがラムトラック。日本では、若年層というより余裕のあるミドルエイジ、いわゆる「チョイ悪オヤジ層」に人気が高い印象だ。
現在のラムトラックは、初代から数えて4世代目となる。パワフルなエンジンやアメリカンマイティーなグラマラスデザインが好評だが、ラムトラックの人気は最初から高かったわけではない。 1981年から1993年まで販売されていた初代のダッジ・ラムは、四角形メインで構成された地味でフラットなデザインやプアな車内装備、ラインナップもATのみと魅力のないスペックで、販売面ではライバルのフォードFやシボレーC/Kシリーズに大きく水をあけられていた。
こうした失敗を見直し、2代目のラム(1994〜2001年)はかなりケレン味のあるアクの強いデザインに変更され、徐々に人気を博していった。そして新世代のクライスラー製「ヘミエンジン」が好評だった3代目(2002〜2007年)、よりパワフル・マッシヴになった現行の4代目と、いまや販売数でもライバル社と互角に戦える人気車種にまでに成長してきたのだ。
運転は比較的簡単だが、FR初心者は要注意
ラムトラックのエンジンは4タイプ。3.7LのV6、4.7LのV8、5.7LのヘミV8、そして6.7Lのカミンズ製ターボディーゼル直列6気筒だ。主力はV8エンジンだが、ラムトラックらしいのは6.7Lの直6カミンズエンジン。ライバルたちがディーゼルエンジンでもV8なのに対し、ラムトラックはずっとカミンズの直6ディーゼル搭載車のラインナップにこだわり続けている。トレーラーの牽引やキャンパー移動用と考える場合、パワフルかつなめらかに回り、扱いやすく信頼性の高いカミンズエンジンのほうが人気は高い。
ラムトラックの主力機種1500シリーズ(メイン写真)は、普通の日本車を見慣れた視点からだと、初見ではまずその大きさに圧倒されるかもしれない。だが、乗ってみると視界が広く、アイポジションも高いので、車幅感覚が把握しやすく、拍子抜けするほどに取り回しやすい。しかし購入を考えるにあたって、FR車を運転したことのない人は注意すべきだろう。ピックアップトラックゆえに後輪加重が軽く、パワフルなエンジンと相まって、ちょっとラフに踏み込むと簡単に尻を振ってしまう。寒冷地での凍結した路面などでは特に注意したい。
自由の幅が広く、自己主張アイテムにも最適
このため、カーゴスペースにウェイト代わりとして、わざと荷物を積んでいるクルマもよく見かけるが、ラムトラックはスタイリングが完成されているだけに、カーゴ部分に「何を積むか」でもオーナーのセンスが問われるだろう。ずっとカーゴカバーを付けっぱなしの「ブラックボックス系ラム」というのはちょっと寂しい。
都内で見かける「積載系ラム」の大部分はサーフボードや自転車などだが、以前L.A.で見かけたピカピカの最新型の荷台にドロドロのモトクロッサーというのはとてもサマになっていたし、同じ色に塗装された4輪バギーを積載したものもシンクロ率が高く、キマっていた。ピックアップトラックの人気が非常に高いテキサス州では「ローンスター・エディション」と呼ばれる地域限定仕様があり、よく農耕器具やオフロードバイクが積まれているという。また日本では、聞くところによると萌えキャラが描かれた「痛車」(!)まで存在するらしい。「チョイ悪オヤジのアイテム」としてさりげなく乗るだけではなく、かなり押し出しの強い自己主張もラムにはよく似合う。
昨今はサードパーティーによるチューンナップパーツも充実してきており、楽しみの幅はどんどん増えている。また、ピカピカにして乗るのもいいが、ある程度使い込まれた感じのラムトラックも、まるでダメージドジーンズのようにとてもいい味わいがあり、とにかく自由の幅が広いのだ。
自由の中に自由はない。ルール、縛りの中にのみ自由は存在する。アメリカの「制度の縛り」が生んだピックアップトラックという異端サブカルチャーモデルは、いまやアメリカのひとつの自由な文化を象徴するものになろうとしている。そんなアメリカの「ガラカー」の進化が、コンサバティブな日本のクルマ文化をカンブリア爆発へといざなってくれるのかもしれない。
Text by Rippa Creo