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蝕む黒の霧 作者:栗木下

1:魔王降誕

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第32話

暴露たいかーい

「さて、本日の国会はこれにて閉幕。と言いたいところですが、那須議員の連れから緊急の話があるそうです。」

 僕はリョウお姉ちゃんのお父さんに連れてこられてこっそりだけど国会に来ている。

 正直今までニュースでしか見たことがないような場所にいきなり連れてこられて困惑以外の感情が湧いてこない。でも、今日の僕には≪姓名解析≫で人間以外がこの場に紛れていないかを捜す役割が与えられている。そうなれば、僕にできることはその役割を果たす事だけだ。

 というか、まず僕自身が人間ではないはずなんだけど…それは言ったらだめだよね。

 それにしても那須の小父さんが連れてきた人って誰なんだろう?ここに来るまでの車の中では見なかったけど。


 と、始まったね。集中しないと。

「那須議員。客人の紹介を」

「はい。本日私がお連れしたのは迷宮X-J2の関係者…いえ、管理人と言うべきですね。」

「なっ!」「まさか…」「そんなバカな…」

「では、ご入場願いましょう。『蝕む黒の霧王』殿です。」

 そう言って国会の扉が開き、靄のようなもので出来た小さな子供が入ってきて答弁するための台に向かっていく。

 えっ?あれが?


『さて、諸事情あってこのような姿だが失礼するよ議員諸君。』

「これが魔王だと…?」「いやいや…、」

『あー、言いたいことは多々あるだろうが、私は正真正銘の魔王だ。支配しているダンジョンの名は『白霧と黒沼の森』。君たちの名付けた名前は迷宮X-J2だったかな。そうだな。とりあえず霧王とでも呼んでおいてくれ。』

「「!?」」

『今回俺が君たちに伝えたいのは魔王とその眷属についてだ。』

 霧王ちゃん?君?いや、さんかな。の声に議員の何人かの顔色が変わる。


『まあ俺自身にとっても生命線となりえる情報の一つだ。だからある程度は誤魔化させてもらうが、これだけは言っておく。『俺たち魔王は人間を元に眷属と呼ばれるそれぞれ独自の魔性を生み出すことが出来る。』とな。』

 えっ?じゃあ…クロキリさんって…。


「そ、それはどういう意味だ…?」

『そのままの意味さ。そして眷属ってのはお前たち人間とほぼ変わらない外見を持っていることが殆どだ。』

 …。


「!? そ、それが事実ならばそれは由々しき事態だ…。」「つ、つまり化け物が普通の人間に混ざって生活している可能性があるという事か。」「何という事だ…。」

『ああ言っておくがわざわざ何もしていない眷属を探し出して拘束とかしたりする必要はないぞ。主になった奴次第だが、俺なんかは情報漏洩の阻止ぐらいしかしてないしな。』

「そんなこと信じられるか!」

『だろうな。だから怪しい奴を監視する程度なら別に構わないさ。ただ、眷属てのは基本的に人となんら変わらない。ってことは覚えておいた方がいい。

もし特に罪状もないのに俺の眷属に手を出したなら…分かるな?』

 背筋に寒気が走る。ただ、これは事実だと思う。現に僕はどこかの魔王の眷属なのに何の命令も与えられていないわけだし。

 っと、いけないいけない。解析を進めないと…あれ?この人…?なにか僕の≪姓名解析≫が邪魔されてる…?


「貴様…。このような事を我々に伝えて何が望みだ…。」

 そうだ。間違いない。この人は…。


『俺にはとある目標があってな。その目標を満たすために迷宮を運営している。理想は殺し殺され、助け助けられだな。まっ、人間が国を治めておいてくれた方がいいのさ。だから可能ならこの話は世界中に伝えて欲しいところでもある。』

 眷属だ!


『と、どうやら、本当に紛れ込んでいたみたいだな。』

 そう言って霧王さんは俺が眷属だと判別した議員さんの方を向く。えっ、あれ?何で?まあいいか。とにかく、それと同時にその議員さんの周りの人たちが一斉に引いていく。


「なっ!濡れ衣だ!」

『悪いが証拠ならスキルを使ったそれ相応のがあるよ。それにさっき言っただろう。眷属は人と変わらない。だから何もしていないのに拘束などをする必要はない。と。ああ、けれどお前の主に伺いを立ててOKを貰えたなら主の名前とダンジョン名ぐらいは教えてくれ。どうせ、こういう事態に合わせた連絡手段はあるんだろう?』

「っつ…!そんな…えっ、あっ、ガッ!」

 眷属の議員が急に震えだし、その顔がなんとなくだけど狐っぽくなる。


「『失礼させてもらうぞ。妾の名前は『百獣纏う狐姫』。貴様らがX-J3と呼ぶ迷宮『戦獣達の狐都』の主じゃ。霧王と言ったか。随分と味な真似をしてくれるものよのう。』」

 オッサンの声で女性の喋り方って気持ち悪いなぁ…ってそれどころじゃないか。


『知らんよ。ただまあ、こうして顔を出してきたってことは別にそのオッサンには情報収集以上の役割は無いってことか。』

「『まあ、恐らくじゃが妾とお主の目標はそんなに変わらんじゃろうしな。正直、国の支配なぞ目論む気もないわ。妾の眷属を無為に傷つけられるなら別じゃがの。』」

『なるほどね。ちなみにその目標とやらを誰かに伝えたりは?』

「『勿論しておらぬ。』」

 霧王さんと狐姫さん(が操る議員さん)は互いに笑みを深め合う。


『ならこちらもこれ以上の情報提供は無しにしておこう。さて、人間達よ。今回はここらで失礼させてもらおう。』

「『では妾もそうさせてもらおう。』」

 そう言って霧王さんはその場から消え去り、狐姫さんが操っていた議員さんは元の顔つきに戻る。



「全く持って予想外の事態だな…。」

 那須の小父さんの困惑で塗りつぶされた呟きが僕の耳に聞こえてきた。

04/23 少し文章改定

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