第28話
「協力してほしい。ですか。」
「ああそうだ。久野イチコ君。」
私は傷を癒した後『鬼の砦』に戻ってきていた。目的?決まっています。少しでも強くなるためです。強くなってあの糞クロキリを倒すのです。
で、そんな私の前に何故か現れた軍人さんたちが6人。何故ここに?
「依頼主の素性も依頼の内容も知らない状態ではYESとは間違っても言えませんね。そちらがどのようなスキルを持っているかもわかりませんし。」
「なっ!お前は自分の立場が分かっているのか!」
軍人さんの中の一人が馬鹿な事を言っていますね。立場を分かっていないのはそちらでしょうに。少し脅しておきますか。
「俺たちが…ヒッ!」
「理解していないのはそちらでしょう。その気になれば貴方たちの様なクソ軍人の一小隊程度消せるのですよ?」
私は≪短距離転移≫で移動。そのまま相手の首筋に手の中の刃物を当てます。
「すまないがそれくらいにしておいてやってくれ。」
隊長さんらしき方がこちらに頭を下げてくる。むう。
「分かりました。とりあえず貴方方の名前と所属。それに私の名前と正体をどこで知ったのかを教えてください。」
「分かった。」
「隊長!?」
「黙っていろ。」
「しかし!」
「『黙れ』」
「グッ…」
ふむ。恐らくですが隊長さんのスキルは命令系(広く捉えれば指揮も命令系です)ですかね。力のある言葉の感じがしましたし。
「まず、私についてだがX-J1結界監視部隊隊長の大多知マモルという。スキルについては言った方がいいかね?」
「いいえ。それは貴方にとっての生命線でしょうから構いません。」
「ありがとう。それで、君の名前と正体をどこで知ったかだが、これに関しては解析系スキルを利用したとしか言いようがないな。すまない。」
「構いませんよ。解析系スキルの重要性は私も理解していますから。」
なるほど解析系スキルですか。今後の事を考えるとどうにかして解析系スキルから種族を隠蔽できないか検討するべきですね。
「で、何故私に協力を求めるのですか?私の記憶が確かなら私は貴方方の部隊にも被害を出しているはずですが?」
「それは分かっている。正直な意見を言わせてもらうなら今すぐにでも部下の仇を討ちたいところだよ。」
「しかし、その気持ちを抑え込んででも私に頼みたいことがある。と、」
「そうだ。事情だけでも聞いてもらえないだろうか?」
そう言って再び隊長さんは私に頭を下げてきます。
はあ、ここまでされて聞かない事なんてできないじゃないですか。
「分かりました。ですが協力するかどうかは中身次第です。」
「ありがとう。重ね重ね礼を言わせてもらうよ。では、まず事の起こりから話そう。」
さて、隊長さんの話をまとめるとつまりはこういう事のようです。
・スキルの存在が公表され、自分が強力なスキルを持っていることに気付いたバカが暴走。
・バカの殆どは軍が抑えたが一部は地下に潜伏してしまった。
・地下に潜伏したバカの内の一人が小さな子供たちを多数誘拐し、薬で無理やりスキルを目覚めさせている。
・軍はその事実を知ってそのバカを捕えようと考えたが、保護すべき子供たちに攻撃されるかもしれない。
・ならばいっそそのバカは始末してしまうべきだ。と軍の最上部は秘密裏に暗殺計画を立てる。
・その暗殺の実行犯として私に白羽の矢が立った。
何と言いますか…。そのバカも糞なら軍の上層部も糞ですね。私を使い潰す気満々じゃないですか。
ただまあ、大多知マモルさんでしたっけ。この隊長さんは比較的信用できそうですね。説明している間ずっと苦虫を噛んだような表情でしたし。
恐らくですがこの人はそのバカだけでなく軍の上層部も嫌っていますね。まあ、結界監視部隊は今までは閑職で今は最も危険な部隊だったのですから。そんな立場にいる人が上にいる人と仲がいいわけありませんよね。
「事情は分かりました。そういう事なら主と相談して前向きに検討させてもらいます。」
「主か…。実を言うなら君にもう一つ頼みたいことがある。」
「?」
「出来る事なら助け出した子供たちに君が姿を消すのに使っているのと同じスキルを与えて欲しいんだ。恐らくだがそのスキルはレベルアップ以外の方法で覚えたスキルだろう?」
≪霧の衣≫を助けた子供たちに覚えさせたい?どういうことでしょうか。
「理由をお聞かせ願えますか?」
「子供たちは恐らくその身に余るスキルを無理やり覚えさせられているだろう。だから、彼らの今後を考えると表向き用のスキルを用意してあげたいんだ。」
「なるほど…大馬鹿者の考え方ですね。」
「きさっ…!」「『黙ってろ!』理由をお聞かせ願えますか?」
理由?ハッ!そんなの…!
「私のこれは人を辞めた証拠です。つまり今の貴方の言葉は子供たちに化け物になれと言っているようなものだからです。」
「…。それでもスキルを持っていない。使えない。御せない。などと言う理由で周囲から理不尽ないじめに遭うよりはマシではないかね?今なら君の種族『霧人』に関しては友好的な種族だと世間に言う事もできるだろうし、そうすれば種族の差など問題ないはずだ。」
なるほどそう来ますか。でもそんなのは。
「私の知ったことではありませんね。『霧人』が増えればアイツは喜ぶかもしれませんが、私にとっては迷惑でしかないです。いえ、もしかしたらアイツも喜ばないかもしれませんね。」
「…。」
本当に迷惑です。霧人が増えればそれだけクロキリに手が届きづらくなるのですから。尤もクロキリは何故か自分たちの勢力が大きくなりすぎるのも問題だと捉えているようですが。
「とにかく、一度ダンジョンの外に出ましょう。主にこの依頼を受けてよいか相談しないといけませんから。報酬もその時に相談させてもらいます。」
「ああ…。分かった。」
私と軍人さんたちは『鬼の砦』の外に出ました。
今はまだ霧人をあまり増やしたくないクロキリです。
もう少ししたら変わりますけど