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蝕む黒の霧 作者:栗木下

1:魔王降誕

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第27話

「今日も入ってるのですか…。」

 迷宮X-J1こと『鬼の砦』の魔王『統べる剛力の鬼王』がクロキリによって討たれてから既に1カ月が経過しました。

 その間色々なことがあったわけなのですが、まあそれに関してはホウキに説明していただきますわ(前話参照です)。

 で、今の私を悩ませているのは目の前の私の下駄箱の中に入っているそれ。長方形の中に何か入った便箋です。もう、ここ一月で15回は見た覚えがあります。

 増えた理由はきっと、イチコが居なくなり、傍目には傷心していた私が笑顔を取り戻し始めたからこの機に!とかそんな理由ですわね。下らない。


「ねえ見て。リョウさんてばまた貰っているわ。」

「いいなぁ。私も一度くらい貰ってみたいなぁ。」

「でも、どうせ今回も振るんだろうなぁ…リ ョ ウ お 嬢 様 は。」

「「だよねー!」」

 周りからやっかみの声が聞こえてきますわね。まったく、貰う側としては世間体と後腐れを残さないためにも、わざわざ中身を見て断りに行かなければならないから堪ったものではありませんのに。

 というよりなぜ男子がラブレターなのですか。そこは男らしく公衆の面前で告白しようとは思わないのですか!

 おまけに断られて綺麗にふっ切り去っていくならともかく泣き出したり、逆上して襲ってくるバカまで中には居りますのよ!これなら最初からお前は俺のものだと一貫しているクロキリの方がよほどマシですわ!!


「と、まずはこれを確認しないといけないですわね。」

 私は下駄箱中から便箋を取り出し、まずは表裏を確認。宛名および差出人の名前は無し。便箋を留めているのは普通のカエル型のシールですわね。

 次にシールを剥がして中身を確認。えーと、内容は…?


『那須リョウ先輩へ


  先輩に伝えたい事と相談したい事があります。放課後に体育館の裏まで来てください。

                                                 矢払 チリト』


「…。」

 矢払チリト…あー、確かホウキさんの弟さんでしたわね。たしか高校1年生なのに150も身長がなくて童顔な男の子だったはずですわね。懐かしいですわね…小さい頃はよく一緒に遊んだものですわ。

 ただ、彼なら私に告白するなら正面から来ないといけないのが分かっているはずですし、これはよほど伝えづらい…というより人前で言うわけにいかない何かがあるという事ですわね。


「しょうがない。行ってあげましょうか。」

 ああでも、念のためにクロキリに言ってフォッグを何体か控えさせてもらっておきましょうか。迷宮への入り口も近いですし。



-------------



 で、所変わって体育館裏ですわ。私の目の前にはチリト君が落ち着かない様子で立っています。


「え、えーと、き、今日は来てもらってありがとうございます。那須先輩。」

「私と貴方の仲ですし、ここには他に人は(・・)居ませんから昔通りリョウお姉ちゃんで構いませんわよ。」

「う。あ、はい。ならリョウお姉ちゃんにまず聞いてもらいたいことがあります。」

「何ですの?」

 やはり、この雰囲気。告白ではありませんわね。


「まず、僕の持っているスキルは≪姓名解析(パーソナルアナライズ)≫と言います。」

 っつ…!解析系スキルですか。


「このスキルは対象にした相手の名前、種族、職業を調べるというもので、この前のスキルの存在が公表された折に気付きました。これが僕の伝えたい事です。そして相談したいことはホウキ姉さんの事なんです。」

 これは…不味いですわね。


「このスキルでホウキ姉さんをこの前見てみたんです。そしたら…姉さんの種族が人間では無かったんです。」

 やはり!!


「リョウお姉ちゃん。ホウキ姉さんに何があったのか知りませんか!もしあれが姉さんじゃなくて姉さんの皮をかぶっている魔物だったら…」

 …。やむをえませんわね。


「チリト安心しなさい。あれは間違いなくあなたのお姉さんです。」

「本当ですか!?」

「ええそうです。そしてそのスキルを私にも使ってみなさい。」

「えっ、うん。≪姓名解析≫。…えっ?」

「霧人は一人ではありません。」

「えっ、なっ、なんでリョウお姉ちゃんが…」

「そしてここまで知られた以上は貴方をただ帰す訳にも行きません。」

「う、嘘だ。そんなはずが…そんなことが…」

 チリトは頭を抱えて混乱しています。まあ当然の反応ですね。自分の親しい者の中に二人も人以外のモノが居たのですから。ですが、ここまで明かした以上私も退くわけにはいきません。


「チリト安心しなさい。例え種が変わっても心まで変わるわけではありませんから。だから今は…」

「あ、う…。」

「眠りなさい。≪霧平手≫!」

「ガッ!」

 私の≪霧平手≫がチリトの顔に当たり、体が吹っ飛んで気絶します。

 さて後は、


「フォッグたち。急いで彼を迷宮内へ。クロキリ。準備の方はできていますの?」

『『『りょーかーい』』』『『『あいあいさー』』』

『出来てる出来てる。解析系スキルは貴重だからな、眷属化出来るならありがたい話だ。じゃ、切るぞ。』

 そうして、体育館裏には私だけが残ることになりました。恐らく明日にはチリトはクロキリの眷属になって外に出てくることでしょう。

 それにしても…


「私もやってしまいましたわね。今回は完全に自分からクロキリに協力することになってしまいましたわ…。この先こういう事がないといいのですが…。」

時が経ち、人が増えれば当然バレやすくもなります。


04/18 誤字修正

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