第26話
一月の間に起きたこと
皆様初めまして。アタシは
え?誰かわからない?那須家のハウスキーパーで一番最近霧人になった者ですよ。
ちなみに所有スキルは≪
さて、何故アタシがこのような場をいただいているかと言うと、クロキリ様がどこかわからない場所で一月ほど作業をしていたところ世間が今どうなっているか分からないから説明してくれとのことでした。
ただ説明するだけならリョウお嬢様やもう一人顔も分かっていませんが霧人の方がいらっしゃったはずなのでそちらに聞けばいい気もするのですが…
リョウお嬢様は今、高校の方で何か問題が起きてそちらの対応に追われており、もう一人の霧人の方はもっと実力が欲しい。と仰られた後再び迷宮X-J1に潜ってしまわれ音信不通だったりします。だからまあ、アタシが説明する事になったわけです。
『じゃ、説明よろしく。』
頭の中に直接クロキリ様の声が聞こえてきます。霧人になった特典だそうですけど便利ですよね。
「はい。まずはクロキリ様が迷宮X-J1を攻略した後、国中が歓喜の渦に包まれました。」
そう、一月前のあの日。クロキリ様の手によって迷宮X-J1の主であった魔王が倒されました。
ただ、世間一般には誰があの魔王を倒したかは明らかにされていません。その理由は単純で、クロキリ様もお嬢様も自らの顔。と言うか情報が外に出るのを嫌い、クロキリ様は恐らくテレポートの様なスキルで去られ、お嬢様は≪霧の衣≫で誰にもバレずに侵入と撤退を行ったためです。
もっとも目の前で見ていたアタシにもあの光景は夢のようでしたからね。正直、あの戦いを誰かに話しても冗談だと思われるでしょう。
「ただ、迷宮とモンスターは変わらずに残り続けたため、現在も結界監視部隊が迷宮X-J1を監視するとともに時折内部に侵入し掃討作戦を行っているようです。」
『あー、それに関しては諦めてもらうしかないな。所謂魔王の呪いみたいなものだし。』
「呪い…ですか?」
呪い。スキルが発見される前ならこれも冗談やオカルトの一種で終わりだったのですよね。今は実際にそういうスキルが存在している。と風の噂で聞きましたけど。
「えーと、次は…そうそう。2週間ほど前でしょうか。国連から全世界にスキルの存在が公表され、一部の独裁国家や情報が伝わらないような未開の地を除いてスキルと言うものが認識されました。」
『あー、やっぱりそうなったのか。』
スキルという人類にとって未知の力が存在するという事実が世界に与えた衝撃と混乱は多大なものでした。先進国では予めそのような事態に陥るのが分かっていて準備をしていたため、多くの国では事なきを得ましたが、治安の悪い国では以前にも増して治安が悪化し、スキルを使った犯罪が増えているそうです。
ただ、近くに迷宮が存在している地域では迷宮から出てくるモンスターの方が危険なためなのか、治安の悪化は起こらず、むしろ良くなったとか。
一方ではスキルと言うものがどんなもので、どのような法則を持っているのかを調べるために一部のマッドサイエンティストが非人道的な研究を行っていることが判明。それの対応に追われている地域もあるそうですが、恐らくはこういう人間はどれだけ狩ってもいなくならないのでしょうね。なお、我が国の中でも数グループそのような組織が見つかり検挙されています。
『酷い話だなぁ。同じ人間同士で争っても
「本当ですよね。」
あれ?何となく今アタシとクロキリ様で微妙にニュアンスが違った気がしますけど…まあ置いておきましょう。
「ああそうだ。1週間前にですけど我が国では『国民総技能調査法』と言うものが制定・公布されまして、自分が持っているスキルを国の方に明かさないといけなくなったんです。知っていましたか。」
『いや知らないな。というか、まさかとは思うが≪霧の衣≫については明かしてないよな?』
「それはお嬢様に止められたので公表していません。正直言ってこれはザル法でしたし。」
というのもこの『国民総技能調査法』なのですが、現状では違反しても特に罰則があるわけではありませんし、提示したスキルについて具体的にはどのような効果があるかを示す必要は無く、概要だけ説明すればいいものになっているからです。
おまけにアタシの様に2つ以上スキルを持っている人間もいるはずなのに、スキルをいくつ持っているのかの確認をしたりもしないんですよね。本当にザルです。
ただ、この法律のおかげで一つ分かったことがあります。
それは子供がスキルを習得する年齢についてで、どうやら一部例外を除いて10~12歳に最初のスキルを習得するようです。一部の例外と言うのは命の危険にさらされた子供がその危険から逃れるためにスキルを習得したり、違法な薬品によって強制覚醒させられたりするパターンですが。
尤もどちらのパターンでもその子供に多大な負担がかかるため重大な障害を残したり、スキルが暴走したりすることがあるそうです。
「後はそうですね…。いくつかの国では魔王側の大攻勢により苦境に立たされている国もあるそうですし、逆に迷宮の中にまで押し込んだ国もあるようです。」
『ふうん。となるとその内魔王が治める国が出てきたり、二つ目のダンジョンが攻略されることもあるってことか。』
「アタシとしては早いところ近所にある迷宮X-J2の攻略の糸口が掴めればいいと思っているのですが、数日前に入口の場所さえも分からなくなってしまったそうです。クロキリ様は何か知りませんか?」
『いや、迷宮X-J2に関しては
やはり、クロキリ様も何も知りませんか。この先この国はどうなっていくのか…とても不安になりますね。
「と言ったところが、アタシの知る限りでこの一か月の間に起ったことです。」
『おう、ありがとうな。色々と情報が仕入れられたわ。じゃ、通信切るから今後も霧人の事はバレないように注意しろよー』
「はい。クロキリ様も元気で、」