挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
蝕む黒の霧 作者:栗木下

1:魔王降誕

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
24/157

第23話

かっこいいクロキリの回

 待てども待てども、来ると思っていた衝撃は来ず、私の全身は相変わらず苦痛に苛まれていました。しかし、少しづつですが体の痛みがなくなっていきます。そこで私は今の状況を確かめるためにゆっくりと目を開けていきました。瞼を上げた私の目には映ったのは、


 必死に私の治療を行うリョウお嬢様と上から下まで全身を黒に染めた男が鬼王の拳を片手で止め、その状況に唖然とする鬼王という光景でした。


「えっ?」

「目覚めたのね。イチコ」

「えっ?リョウお嬢様?それに何でクロキリがここに?」

 私は思わず声が出てしまいました。でも、しょうがない事だと思います。だって、あの全身黒ずくめの男はお嬢様と私を霧人という魔性にした張本人であり、この『鬼の砦』に私を送り込んだ存在で、自らの作りだしたダンジョン『白霧と黒沼の森』から外には出られないはずの魔性。


 魔王『蝕む黒霧の王』 なのですから。


「何者だテメエ…。」

 正気を取り戻した鬼王が後ろに飛び去りつつも問いかけます。


「おお痛い痛い。自分の眷族のためとはいえやっぱり魔法系の俺が無理するもんじゃねえな。まっ、お前の質問に簡単に答えるなら俺は同業者(魔王)だよ。」

「んなバカな!?どうやって迷宮の外に出た!いや、それ以前に同じ魔王が何で俺の迷宮に…」

 そこまで鬼王が言った瞬間。すでにクロキリは鬼王の眼前に迫り、腕を伸ばしてスキルの発動モーションに入っていました。



■■■■■



「迷宮に着きましたわ!」

 私は全速力で車を飛ばさせて『鬼の砦』に到着しました。当然、顔や車は隠して正体はバレ無いようにします。


「お嬢様…。ここは迷宮X-J1ですよ…。こんなところに何が…?」

 我が家のハウスキーパーは未だに状況を把握しきれていないようです。まあ詳しい説明はまた今度すればいいでしょう。


『着いたか。よし、ならメイドさんの能力を使って追え!人間や子鬼程度なら≪霧の衣≫を全力展開すればまず見つからん!』

 頭の中にクロキリの声が響きます。忌々しい相手ですがやはり、こういう時は役に立ちますわね。


「了解ですわ!」「は、はいー!?待ってーー!!」

 私たちは『鬼の砦』内に踏み込み、イチコの後を全力で追いました。



------------



 私たちはハウスキーパーさんのスキルと≪霧の衣≫を組み合わせることによって最短ルートでイチコの元にたどり着きました。

 そこに広がっていた光景は大量の子鬼たちが同族の死体の上で整列し、このダンジョンの魔王であろう身長4m程の巨体に赤い皮膚が張られた筋骨隆々な肉体、そして二本の角を持つ鬼がイチコに向かって拳を振り上げている光景でした。


「っつ!間に合って!」

 そして私は焦りつつも迷いなくクロキリにもらったペンダント『王は民の為に動く』を発動しました。



■■■■■



「悪いが時間も無ければ、お前の質問に答えてやる義理も人情もない。消し飛びな≪霧爆≫!」

「ガアッ!」

 俺のスキル宣言とともに鬼王の眼前で氷の爆発が起き、その巨体を大きく吹き飛ばすとともに周囲にいた何匹かの魔性を凍らせ砕く。


「テメエエエェェェ!」

 俺の一撃に怒った鬼王の筋肉が大きく膨れ上がり、反撃として俺の眼前にまで巨大な拳が一瞬で繰り出される。そして、俺はその一撃をかわさずに正面から受け、上半身が消し飛ばされたように見せる(・・・)


「ハッ!同じ魔王って言っても大したことねえじゃねえか!一撃で吹っ飛びやがった!さあ、次はテメエら…だ?」

 残った俺の下半身が倒れつつ徐々に消えていき、それに反比例するかのように鬼王の周囲に漂う黒い霧が濃くなる。そして聞こえ始める子鬼たちのうめき声。


「な、何だこれは!?」

「何度も言わせるな。答えてやる義理や人情はない。」

「なっ!?」

 鬼王は殺したはずの俺の声が聞こえてくることに驚く。


「まずは、邪魔者を排除させてもらおう。≪霧爆≫×32」

 俺の宣言とともに周囲32か所で爆発が起き、多くの魔性が断末魔を上げる暇もなしに跡形もなく吹き飛ぶ。後に残るのは真っ赤に染まった床と真っ白な霧だけだ。


「テメエエエ!」

 鬼王は俺が霧のどこかに隠れていると考え、当たるも幸いに自慢の剛腕を振りまわす。その勢いは拳圧だけで壁が砕け、腕が振るわれれば暴風が吹き荒れるほどだ。けれど俺には当たらない。当たるはずがない。今の俺は霧そのものなのだから。

 そして、鬼王がそんな無駄な行動をしている間にも黒い霧の侵食は進み、鬼王の周囲に詰めていた魔性たちは一人、また一人と命を蝕まれ俺の贄となっていく。


「とっとと出てきやがれ!この卑怯者がぁ!!」

 鬼王は周囲にいる自分の魔性たちが次々と死んで行くのにも気がつかず喚き散らす。

 時間も無いししょうがない。そろそろ出て行ってとっておきでもやるか。


「出て来ないなら…」

「よう出てきてやったぜ。」

 俺は鬼王の頭の上に剣を上段に構えるための姿勢で集まる。


「なっ、いつの間に!」

 鬼王は驚き、急いで俺を殴ろうとするがもう遅い。


「じゃあな。『我は全てを蝕む霧の王。凍てつく黒の霧の大剣よ、彼の者が死すまで命を毟り取れ…!!」

「ヒッ!」

 それはただ俺が今使える既存のスキルを組み合わせただけのもの。

 ステータスのスキル欄には決して載ることのないもの。

 ≪蝕む黒の霧≫を大剣の形に集め、≪霧爆≫で固め、≪循環≫で高速振動させたもの。

 あえて分類するならば剣というよりもチェーンソーの方が近いもの。


「アウタースキル・クロキリノコ』!」


 そして、恐怖に顔を歪ませ身構えることも忘れた『統べる剛力の鬼王』の命を刈り取るに十分な威力を持つものであり、俺が振り下ろした黒い霧の大剣の一撃をもって迷宮『鬼の砦』は主である魔王を失うことになった。

アウタースキルについて:簡単に言えば○○流剣術、四輪ドリフト走行などスキルに因らない技術全般がここに入ることになります。

その中でクロキリがやったのはスキルを組み合わせ、融合することによるシステム外のスキルの行使。といったところになります。

ちなみに威力は凄いですが、燃費は最悪を振り切るレベルなので人間がやったら良くて昏倒。悪ければ死にます。良い子は真似しないでね!

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。