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蝕む黒の霧 作者:栗木下

1:魔王降誕

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第22話

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 状況は最悪と言ってもよかった。


 私の前には今『統べる剛力の鬼王』と彼の指揮下にある子鬼ゴブリン大鬼オーガが彼を守りつつ、私を取り囲む形で百匹以上存在している。彼らに見つかったの今朝のことで、まさか鬼王が見回りのために全速力で砦内を走り回るというのは私としては予想外の行為だった。

 そして、そこからは死のマラソンが始まった。


「ガアアアァッァァァ!」

 一匹の子鬼が棍棒を振りかぶって突っ込んでくる。

「ブウウウィゥゥ!」「カカカッ!」「ヒヲ!ヒヨ!」

 同時に背後から別の子鬼が襲い掛かり、そのさらに後方からは弓子鬼ゴブリンアーチャー魔法子鬼ゴブリンメイジが私に向けてスキルを放とうとしている。


「フッ!」

 それに対する私の行動は、まず後方から迫る子鬼に向かって飛ぶ。これで後ろの子鬼は私の予想外の動きに反応できず一瞬止まる。続けてその虚を突いて子鬼の頭に左手をつき子鬼の頭をねじ切るように回しつつ、手近にいた待機状態の子鬼たちの首を右手に持った乱し水蠆の牙刃で喉を切り裂いていく。


ゴッ! ヒュッ!


 そこで後方に居た2匹のスキルが私めがけて風切り音とともに放たれる。それに対して私は矢は弾き、魔法は左手を弾いて飛ぶことにより避ける。


「ギャ!」「ガッ!」


 と、どうやらあまりにも密集しすぎていたためか私が弾き、避けた攻撃は近くに居た別の子鬼にあたってしまったようだ。そして、私は着地と同時に近くに居た数匹のゴブリンを先日習得したスキル≪ロングエッジ≫と≪キーンエッジ≫を使って切り伏せ、この場から脱出しようとする。

 が、死んだ仲間を踏むことも厭わず彼らは冷静に私を囲む陣を整えなおす。


 さて、既に戦いが始まって数時間。この戦いの最中に気付いたことだが、何十匹もの仲間を私一人で屠ったはずなのに彼らの目に怯えや恐怖の色は無い。というよりうめき声や雄たけびの類は聞こえてくるが、意思そのものは彼らからは感じられない。恐らくはこれは鬼王のスキルだろう。

 そして鬼王の方針は単純明快。決して私を休ませないように淡々と攻撃を仕掛け続け、逃がさないようにする。ただそれだけのものだ。恐らくは今までの礼を返すためにじっくりといたぶるつもりなのだろう。


「いいでしょう。足掻いてやりますとも。リョウお嬢様のためにも。」

 私は呼吸を整えつつ武器を構えなおし、自分の状態を確認する。

 私の体は大きな傷こそまだ負っていないが細かい傷は数多い。服はその細かい傷に合わせてボロボロで子鬼たちの血を吸い過ぎて重くなっている。そして武器である乱し水蠆の牙刃は少々だが刃こぼれをし始めていて、この状況を切り抜けられたなら恐らくは作り直しになるでしょう。

 と、そこで今まで後ろで指示を出していただけの鬼王が言葉を発する。


「だああああああああああああぁぁぁ!!ちまちまちまちまと小賢しく動いてんじゃねえよ!このクソガキが!テメエはとっとと俺に許しを乞いながらぶっ殺されてりゃあいいんだよ!」

 予想通りというか、同じ魔王でもクロキリと違って鬼王はかなり短慮でケンカ早いようです。正直、今の私のレベルで魔王とやりあうのは勘弁したいのですが…、


「もういい!お前ら退いてろ!俺が直接仕留める!」

 無理なようです。どうやら覚悟を決めるしかないようですね。私は武器を身構えようとしました(・・・・)。が、


ドオン!!


「ガハッ!?」

 気がつけば私の体はダンジョンの壁に叩きつけられ、耳には爆発音のようなものが聞こえていました。そして、全身を襲う激痛。恐らくは骨が折れているだけでなく内臓もやられているでしょう。


 けれどそれ以上にマズいのは。


 何も見えなかったし、何も聞こえなかった。自分が理解できたのは一連のモーションが終わってからであったという事実。


「アグッ…」

「へえ、晒し者にするための死体を残すために少し手を抜いたとはいえ、俺の一撃を喰らっても生きてるのか。妙なスキルでも持っているのか?それとも俺の子鬼たちを殺しまくってレベルが上がったおかげか?」

 倒れている私の近くに鬼王が近づいてきます。そしてあれで手加減という事は本気なら原型も残らないということでしょう。


「まあ、なんだっていいよな。」

 そう言いつつ、鬼王は先ほどと違い私に見せつけるように攻撃の前動作をしていきます。そしてその拳に溜められている力は明らかに先ほどよりも強いもの。


「どちらにせよテメエはここでゲームオーバーだ!!」

 そして、私に向かって鬼王の拳が放たれ、私は自らの結末を思い浮かべつつ、目を閉じました。

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