第14話
しばらくの間クロキリは薄くなります。
私は護衛であるイチコの尊い犠牲により迷宮X-J2初めての生還者になった。
でも実際は違う。私は生還者ではないし、イチコも死んでいない。私とイチコはクロキリの眷属になっただけだ。
「ふう。やっと面倒な事情聴取やマスコミの取材が終わったわ。」
そして私、那須リョウが人間を辞めて霧人になってから1週間が経った。その間にイチコは南のダンジョン『鬼の砦』に到達して敵を狩り始めているようだ。
両親は私に対して特に何も言ってこないし、新しい護衛をつけようとも考えていないみたい。理由は…傍目にはイチコを失って傷心中に見えるからかしらね。
ただ、引っ越しは考えているっぽい。全力で止めたから問題ないけど。止めた理由?その…、万が一私の正体がバレた時を考えたらね…。すぐに逃げ込める場所は欲しいのよ。
ちなみにクロキリに我儘を言って自宅地下にこっそりと『白霧と黒沼の森』第2階層に通じる入口も作ってもらってます。代償は大きかったけどね…うふふ。
「さーて、私もそろそろ自分の仕事を始めないとね。」
とりあえず気持ちを切り替えてクロキリに頼まれた仕事を進める。
まず、私たちがいる国には現在5つのダンジョンが存在している。
首都に発生し、現在戦争状態とでも表現すべき迷宮X-J1こと正式名称『鬼の砦』
クロキリの治める国内最危険迷宮X-J2こと『白霧と黒沼の森』
西にある古都に出現したX-J3
国内最北端の地に出現したX-J4
南西にある火山島に出現したX-J5
このうちX-J1、X-J2に関しては説明不要だろう。X-J1にはイチコが行っているし、X-J2はクロキリの治めているダンジョンね。
で、まずはX-J3。
父の元に上がっている報告やニュースにネットなどの情報によれば獣系の魔性が中心の迷宮で、魔性が迷宮の外に出てくるような事は無いようだが、突入した人間は4割が死に3割が今後戦闘が出来なくなるような怪我を負うらしい。まあうちに比べればマシか。
次にX-J4。
こちらは氷・水属性の魔性が中心で、万年氷雪に覆われたダンジョンだそうだ。
魔性は時々外に出てくるのが目撃されているが、その際に襲うのは犯罪者や熊などの危険な動物だけのようだ。
最後にX-J5。
ここは完全に引きこもっていて、一切情報が存在しない。そもそもダンジョンの入り口が火口に存在していて特殊なスキルか装備がないと人間には突入できないようだ。その内クロキリに頼んでフォッグ達でも送ってもらわないといけないかもしれない。
さて、国内のダンジョンはこれだけだけど、国外に目を向けるともっと様々なダンジョンが存在している。
まず、あの日結界の中から出て来た迷宮は全部で666個存在している。
そしてその中でも有名なのを上げるならば、
とある大国のビル街に出現した天を衝くような高い塔の迷宮。通称『摩天楼』や、砂漠に出現したピラミッド状の迷宮。巨大な一本の木で構成された迷宮。中には海のど真ん中に出現した迷宮なんてものもある。
その中で『鬼の砦』の様に積極的に人間に攻撃を仕掛けてきているのは50個ほど。
『白霧と黒沼の森』の様に密かに人を攫っているのではないかと思われる迷宮は100個ほど。
X-J5の様に引きこもっている迷宮は80個ほど。
残りは迎撃専門という事になっている。
「あら?何で、人間と手を取り合おうと考えている魔王がいないのかしら…?」
『そりゃあ、魔王補正で命乞いが出来ないようになっているからな。迂闊に交渉の席に出るとフルボッコなんだよ。』
「!?」
『暇だからテストを兼ねて通信をかけてみたぜー。感度は良好みたいだな。じゃ、切るわ。』
「…。なんて迷惑な…。」
とりあえずまとめを再開しましょう。
世界に存在している666の迷宮の内、積極的に攻略しようと人々が動いている迷宮は200個ほどある。この200個は殆ど『鬼の砦』の様に早急に攻略しなければ生活が脅かされる迷宮ね。
そして、300個ほどの迷宮はウチと同じように厳重な監視を敷かれている。
残りはX-J5の様に立地条件が悪すぎて監視すら満足に行えていない迷宮。ということになっている。
次は危険度について
これは国連が中にいるモンスターや迷宮の構造などを評価し、それに加えて突入者の数に対して生還者の数が少なければ少ないほど危険性が高いと判断される。
その中で『白霧と黒沼の森』は未だに生還者が私しか居ないとされている上に厳重な警戒を掻い潜って人攫いを行っている。おまけに内部の構造は一切不明(私は霧が深すぎて何もわからなかったと周囲に言っている。)。と、言った理由で国連からも最危険迷宮の一つとして数えられているらしい。
尤もクロキリ曰く「うちの迷宮の基本戦術は正面からやり合わずにハメ殺す」らしいけど。
さてと、とりあえず迷宮についての情報はこんなところかしらね。
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