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蝕む黒の霧 作者:栗木下

1:魔王降誕

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第8話

スーパー虐☆殺TIMEにつき苦手な方はご注意ください。

「たいちょおおおおおおおおおお!!」

 目の前で崩れた隊長を見て、俺は思わず絶叫した。

頭の中の不快感は元のむずむず感に戻っている。


「くそ、何処から何をやってきた!?」

「風切り音…。何かの反射…。っつ!急いでここを離れるぞ!恐らくは狙撃だ!方向は恐らく11時!」

「離れるってどこへ!?」

「3時の方向に建物の影が見えます!まずはそこへ!」

「ちくしょう!絶対に許さねえからな!」

 俺は仲間たちの誘導に従って建物の影が見えた方に向かって走り出す。

そしてそこで再びの不快感。


「っつ!何かく…」

 俺がそこまで言ったところで既に状況はアルファ4が沼地に倒され巨大な虫によって胸を貫かれるという光景に決していた。

 そして、まだ俺の不快感は止まない。


「この野郎!」

 アルファ5が銃を構えて巨大な虫に向かって発砲しようとする。

 けれどその瞬間アルファ5の各部に狼が噛みついていた。明らかに致命傷だった。


「アルファ2、アルファ3逃げるぞ!」

「分かりました!」

「ちくしょうちくしょうちくしょう!!」

 だから、俺に出来るのはとにかく頭の中の不快感から逃れるように走ることだけだった。



-------------



 どれだけ逃げたのだろうか。少なくとも10分は走り続けていたと思う。

 俺とアルファ6は偶然見つけた家屋に逃げ込んでいた。アルファ2は逃げているうちにはぐれてしまった。


「ハアハア、一体何なんだよここは!」

「騒ぐな…。奴等に感づかれたらどうする…。」


 俺はその声に慌てて周囲を見渡す。が、何もないし不快感…いや、恐らくは奴らの気配と思しきものは感じない。


「これからどうするんだ…。」

「奴等とまともに戦って勝てると思うか…?」

「無理だろ…それぐらいは俺にも分かる。」

「なら、奴らに見つからないように入口まで逃げるしかないな…。」

「距離と方角も分からないのにか…?」

「いや、家の場所が変わっていないのならこの家の住所から大体の方角はつかめる。」

「そりゃあ、良かった。」

 少しだが希望が見えてきたと思う。奴らへの対策は未だにないが、入口まで逃げ切れれば恐らくなんとかなるだろう。呼吸も落ち着いてきた。装備も十分のはずだ。


「なら行こうぜアルファ6。善は急げだ。」

「そうだなアルファ3。ただ、この状況でその諺があっているとは思えん。」

 俺とアルファ6はその場から立ち上がり、この家の住所が書かれた書類を家探しで見つけた。そして、どちらの方角に行けばいいのかが判明すると同時に既に俺たちは1km以上入口から離れていたことも判明した。


「なら、後は時間だけか。」

「その時間にしても入口に着くころには経っているだろう。」

「それじゃあ…、」

「ああ…、二人だけの撤退戦の開始だ。」

 俺とアルファ6は家の外に飛び出し、目標の方向に向かって走り出そうと…した。

 しかし次の瞬間俺が目にしたのはアルファ6がたくさんの小さな子どもの姿をしたナニカによって周りとは明らかに色の違う黒い沼の中に落とされ、瞬く間に干物になっていく光景だった。

あの不快感が襲ってくる。

 どうやらこのナニカたちは最初にアルファ6だけを狙っていて、俺は眼中に無かったらしい。だからあの不快感がなかったのだろう。


「ハハハハハ。なんだよこれ…。」

 ナニカたちがこちらに笑い声をあげながら近づいてくる。その姿はまるで蟻を踏みつぶして喜ぶ子供のようだと思った。

 そして俺は全力で方角も何も分からくなった状態で逃げだした。



-------------



 もう何も分からなかった。確かなのはアルファ隊は俺以外全員死んだという事実で俺も一歩間違えればすぐにでも死体になるという最悪の予想だ。


 俺はひたすら不快感から逃れるように走って行く。


 気がつけば俺の目の前にはこの迷宮の中でも時折見ていた植物とコンクリートが組み合わさった不気味な木で作られた森に迷い込んでいた。あえてこの風景を簡単に表すならコンクリ製マングローブ林と言ったところか。


「何処だよここは…。」


 俺はそう呟きながらマングローブ林を進んでいく。

 そして、マングローブ林を抜ける直前、微かに見えたのはあのエアロックのような入口の扉だった。

 俺は歓喜に満ち溢れた。そして一刻も早くこの迷宮から抜け出すために駆け出そうとした。

しかし、その瞬間俺は今までよりもはるかに強い不快感を背中から感じ振り返った。


「アリかよ…。そんなの…。」


 激しい衝撃を体に感じると同時に見たのは洞の中に輝く赤い目と俺の体を刺し貫く木で出来た腕。そしてまるでモズの早贄のように木の天辺に刺されたアルファ2だった。



■■■■■



「ゲームオーバーっと、まあ初めてならこんなものだよね。」

 俺は迷宮の中に用意した私室。侵入者側からみればボス部屋に当たる部屋でスクリーンに映し出されたアルファ隊最後の姿を見ている。


『一人を除いて全員不意打ちでキルですか。さすがですね。』

「しかしまあ、やっぱりステータスの恩恵はデカイねえ。人一人余裕で持ち上げて木にブッサリとさせるんだから。」

 実は今回は俺も慣らし運転ということで一度ボス部屋を離れて戦列に加わっている。

その結果があのアルファ2と呼ばれた男の末路であり、彼の攻撃は一切俺には通用しなかった。まあ霧の体だからしょうがない。


「さあて、後処理を色々と進めようか。」

 そして俺は後処理に取り掛かった。

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