第7話
残酷な描写有りなのでご注意を
俺は国軍の中にある結界監視部隊のアルファ隊に所属していて、隊の中ではアルファ3と呼ばれている。
結界監視部隊の任務は1年前に突如として現れた謎の球体“結界”を監視し可能なら調査・破壊などをするのが任務である。
最も核兵器でも破壊不可能な結界が相手であるため実際には閑職に近いようなものであり、俺自身やることと言えば毎日訓練に勤しむ以外は何もなかった。
そんな俺だが今日は朝から調子が良くなかった。なにせ何処かは分からないがずっと頭のどこかがむずむずするような感覚に襲われていたからだ。
そして、それは結界の中から現れた。
樹とコンクリートが組み合わさって出来た気色悪い壁は最新の爆薬でも傷一つ付かず、そこから立ち上がるのは一筋の光すら通す気がないほどの濃さを持つ霧。おまけに近くによると地面がかなりぬかるんでいた。
上はこれに“X-J2”と名付け、当然のことだが俺たち結界監視部隊にこの気色悪いものを調査するように求めてきた。
今に思えばどんな手を使ってでも調査する部隊からは外れるべきだったかもしれない。そう、中に入った俺は思った。
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「何を呆けているアルファ3。周囲の警戒を怠るな。」
「いえ、とんでもない所に来ちまったなと思っただけです。」
「まあ、気持ちは分からんでもないがな…。」
迷宮の中に入った俺たちがまず最初に見たのは2m程しか先が見えないほど濃い霧。足元はかろうじて見ることができるからいいが、油断したらすぐにでも仲間を見失うことになるだろう。
「足元は…、外壁などと同じもので出来ているようだ。」
アルファ6の声に従い、足元を見てみるが確かに同じような物のようだ。ただ、微妙な凹凸があるから慌てたりすれば足を掛けたりするかもしれない。
「アルファ1。どうやらこの迷宮の中ではあらゆる通信機器及びGPSは効力が発揮されないようだ。」
「天井は無い筈なんだがな…。一体どういう技術なんだか。」
アルファ2が隊長に報告を上げてきたので、手持ちのGPSを見てみるが確かにエラーと表示されている。
「おまけに周囲からは妙な声が聞こえますね。」
「ええ、これは…子供の声と犬の声かしらね?尤もこんな場所に普通の子供がいるとは思えないけど。」
アルファ5とアルファ4の報告を受けて耳を澄ましてみるが確かに時折「キャハハハ!」という子供の笑い声と「アオーン!」という犬の遠吠えのようなものが聞こえてくる。
「そして、道は沼地を進むしかない。と」
隊長がギリギリ互いの姿が見える距離まで離れた所でしゃがみ、何かを観察する。
どうやらまともな足場があるのは入口の周辺だけで残りは沼地ばかりのようだ。
「これは迷宮は迷宮でもゲームみてえな物に出てくる
隊長がそんな事を呟く。正直、俺も入口の人数制限や中の状況を見るとそうとしか思えない。
「まあいい。何にしても俺たちがここを出るためには1kmは入口から離れねえといけねえんだ。最大限に警戒しつつ進むぞ。」
そして俺たちは互いに頷きあい、密集した状態で沼地に足を踏み入れていった。
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すでに30分ほど経過しただろうか?
警戒しながら霧の中沼地を進むというのは予想外に体力も神経も使う行為であった。
なにせこの沼地は時折だが予兆もなく突然深くなることがあり、油断をしていればその深みに落ちてそのまま溺死体。などという状況になりかねかったからだ。
おまけにGPSはおろかコンパスすらまともに働かないこの環境。本来ならばすでに1km程易々と踏破しているべき時間だが、恐らく半分も行っていればいい方だろう。
そして今、俺を最も悩ませているのは…
「大丈夫かアルファ3?」
「大丈夫だアルファ2。少々頭が痛い程度だ。」
迷宮内に入ってから激しさを増したむずむずする感覚だ。
まるで、迷宮内に潜む何かに反応しているようだ。
「すまないなアルファ3。外に出れたら早いところ医者に行くといい。」
「そうっす…」
隊長の言葉に答えた瞬間俺の頭の中のむずむず感は一気に不快感に変わり、何かが空気を切る音と共に俺の目の前で隊長の首が飛んでいた。
「ね…?」
「なっ…。」「えっ…?」「あっ…?」「!?」
隊員全員に巻き起こる一瞬の間。
そして隊長の首が沼に落ち、体が派手な水音と共に倒れたところで間が開け、次の瞬間には辺り一帯に絶叫が響き渡った。
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