プロローグ
『神に捨てられ、進化が停滞し緩やかに滅びつつある世界に住みし者たちよ』
大学の構内をうろついていたら突然俺の頭の中に妙な声が響いてきた。
けれど、周囲を見回してもそこに広がっているのはいつも通りの大学だ。
とりあえず、不審がられないように食堂の手近な席に着く。
『私は世界から世界へと渡るもの』
席に着いたまま周囲の人間の顔を見てみるが驚いたり、混乱したりしている様子はない。
恐らくだがこの声は俺にしか(他の奴も俺のように顔に出していないだけかもしれないが)聞こえていないという事なのだろう。
『停滞せし世界に変化を与えるもの』
それにしても、俺たちの住む世界はいつの間にか神様に見捨てられていたらしい。
まあ確かにここ数十年新しい技術は一切開発されてない上に、食料や戦争の問題がどうしようもない事になっているが、それにしても見捨てるとは神様も無責任だと思う。
『あー、うん。やっぱ格式高そうに言うの面倒だわ。というわけでここからは気楽にいかせてもらうわ。どうせこの声が聞こえてる人間なんて殆どいないんだし。』
オイイイイィィィ!?
一気に軽くなったな!?しかも今までの声は性別・年齢不詳な不思議ボイスだったのに急に幼女ボイスになりやがった!
と、いかんいかん思わず勢いよく席を立ってしまったせいで周囲が変な目を向けてきている。
尻の辺りを気にする様に装いつつ、静かに座りなおす。
『まっ、そんな訳だからこの世界を救う。かつ、私の研究を進めるためにちょいとこの世界に対して干渉をさせてもらう。』
…。何をするつもりだ…?しかも、凄く嫌な予感がする。
『とりあえず、今この声が聞こえている連中。うん。そうそう。貴様等だ貴様等。』
…。なんか妙な汗が出て来た。これはヤバい。何かがヤバいと平和ボケで俺の殆ど無くなった本能が叫んでる。
『貴様等には人間を辞めてもらうから。』
「ハイイイイイイイイイイイィィィィィィィィ!!?」
俺は周囲に目がある事も完全に忘れて思わず叫んでしまっていた。
ヤバい。周囲の目線がすごく痛い。というか痛すぎる。とりあえずここから移動しよう。
というわけで、周囲の「何をしているんだアイツ。」的な目から逃れつつ、大学の空き教室まで移動した。機会があるならこの件で幼女ボイスの主には何かしらの仕返しをしたいところではある。
『ハッハッハ!貴様等全員随分と驚いているようだな。おう貴様、車の運転中なんだからちゃんと注意を払えよ。そこの貴様は銃撃戦の真っ最中か。頭下げとけ、狙われているぞ。ぷぷぷ、声に気を取られて演技をミスするとか貴様は集中が足りんなぁ。』
…。
あー、うん。皆やっぱり驚いたりしているのか。というか、今上げられた人に比べれば俺の状況は随分とマシだな。周囲から不審な目で見られただけだし。
というか、そんな状況の人間に話しかけるなよ。
『じゃ、詳しい説明は後でするから、とりあえずポチっとな。』
「へっ?」
そして俺の視界は暗闇に包まれた。
04/08文頭一文字空けの改稿をしました。