フーディーニの魔法 作:ようぐそうとほうとふ
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異例の事態?国際魔法連盟にて“一校長”が演説
先日、ノルウェー魔法省が襲撃され職員が殺害された件がきっかけで国際魔法連盟が急遽会議を開きました。イギリス魔法省からは国際魔法協力部のプロップ氏、及び闇祓い局のロバース氏が出席しました。この会議では上級大魔法使いの他に各魔法省代表が参加するもので、時に争点となる事件の証人、当事者が召喚されます。
今回の会議はこれら事件がグリンデルバルドによるものか、名前を言ってはいけない例のあの人によるものかを判断するためのもので、当事者としてアルバス・ダンブルドア氏が喚ばれたのは当然とも言えます。ダンブルドア氏は昨年上級大魔法使いの称号を剥奪、連盟から除籍されました。今回の会議ではダンブルドア氏は尋問、質問をされる側だというのに、彼が行ったのは“演説”でした。
ダンブルドア氏は例のあの人を「目に見える破壊」とグリンデルバルドを「見えざる破壊」と評し、両者への対応は同時には難しいと述べました。さらにノルウェー魔法省襲撃は例のあの人によるものだと断言しました。さらにグリンデルバルドと手を組んでいる可能性が高い、などと憶測を並べ会場は動揺を隠しきれず場は混乱しました。冷静さを欠いた議会に対しダンブルドア氏は「団結と協力」を呼びかけましたが、果たしてこんな状態で団結など可能でしょうか?(詳しい演説内容は10面に全文を掲載しています)
立場を弁えない演説にアメリカ魔法議会をはじめとする各魔法省代表らは会議後、苦言を呈しました。
例のあの人のみならずグリンデルバルドとも敵対関係にあるとされるダンブルドア氏の今後の動向に国際社会からも注目が集まりそうです。
プロップ氏のコメント
確かに今回の彼の言動は適切ではありませんでした。一方で演説内容はたいへん正しいものだと思います。おかげで我々の用意していたスピーチ原稿がボツになってしまいましたがね。
驚異が迫っているという文言に皆様は飽き飽きしているでしょうが、悪意は善良な市民の皆様の都合を一切考慮しません。嵐と違って予兆もなく、突然降りかかるものです。しかも悪いことに相手は我々同様魔法を使う。
いつ攻撃にさらされるかわからない日々が続くのは魔法界の経済、政治、平和のみならずマグルとの関係すらも悪化させかねない事態です。現にイギリスでは毎日のようにマグルの建造物やインフラが破壊され、忘却術士は不足、部署はパンク寸前です。アメリカ、日本、フランスでも同様の事態が起きているようで、パリではマグルたちによるデモが頻発しています。彼らなりに危険を感じ取っているのでしょう。
みなさん、決して気を緩めないでください。隣人が突然敵になるかもしれません。誰であろうと、他人である以上考えていることまでわかりません。勿論だからといって他者への道徳を捨て去れと言っているわけではありませんよ。それこそダンブルドアの演説どおりになってしまう。
どんな危機的状況でも良識ある行動を。それは我々にできてマグルにはできないことです。何億と膨れ上がったヒステリックな赤ん坊のような彼らを起こしてはいけません。世界の平和は…なんていうといかにもチープですが、我々が保っていると言っても過言ではないのですから。
「へえ。僕がいなくてもちゃんと僕は仕事してるじゃないか」
ウラジーミル・プロップのコメントを読んで僕、ウラジーミル・プロップは感心する。ゲラートはニヤニヤ笑いながら土産のマトリョーシカを魔法で開けたり閉めたり仕舞ったりして遊んでいる。かぽかぽうるさい。
「まあな。変装っていうのは見かけよりも仕草や口調で質が出る」
「いやみったらしい顔もまさしく僕って感じだよ」
国際魔法協力部長になってからやたら新聞に名前と顔が載るようになったが、今回の写真が一番かっこよく写っているような気がする。自分じゃない自分の写真を見るのはどうにも変な感じだ。ただでさえ写真だと別人に見えるのに、今回は本当に別人なんだから。
「あいつに会った?」
「ああ。握手してきた」
「うわ…よくできるな。ゾッとするよ」
「マジにとるなよ。…とりあえずのところお互い不干渉だ」
「そうか。あっちもいろいろ情報は掴んでるだろうから、いきなり僕を殺したりはしないと思ってたけど」
「所詮口約束だよ。あいつは義理堅いとはいえん。あまり意味ないだろうが気をつけろよ」
「全く役に立たない忠告をどうも…」
多分、僕はあいつの視界に入っただけで殺される。生きにくい時代だ。
「どれ、ダンブルドア曰く…ふうん“グリンデルバルドはマグルへの憎悪を煽り”…あってる。“魔法使いを疑心暗鬼に陥らせ、恐怖を暴発させようとしている”。流石だね、全部わかってるみたいだ」
「ちょっと賢ければ世界をめちゃくちゃにする方法なんていくつも思いつく。俺がこれからどうするかある程度予測は立ててるのかもしれんな…まあ止められるとは限らんがな」
「じゃあいよいよやるんだな?」
「ああ。帰ってきて早々悪いな」
「いいんだ。仕事があったほうが嫌なことを忘れられる」
ハリー・ポッターが学校へ帰ってきたというのに、寮の中は葬式みたいな空気が漂っていた。ハーマイオニー、ロン、ネビルなんかは泣いたり笑ったり抱きしめたりしてくれたが、それも重たい空気のせいでどこか密やかな集会のように思えた。
旨い料理が寮のテーブルに並べられ、何人かの生徒はハリーと握手しに来た。だがそういう生徒は全員手の甲に分厚い包帯を巻いていた。ハリーを遠巻きに眺めている生徒も同様だった。
「戻ってこれて嬉しいよ。本当に。でもなんだか寮の雰囲気が変だ」
ハリーの質問にハーマイオニーの顔色が陰った。
「無理もないわ。…新しい闇の魔術に対する防衛術の教師は知ってる?」
「ああ、プロップの元上司」
「アンブリッジ!」
ロンがアレルギーを起こしたかのように叫んだ。
「あれは歩く最悪だ!」
その言葉にネビルとジニーがウンウンと頷く。
「あいつ、クソよ。いいえ、クソ以下。廊下や教室であなたの話をしているだけで罰則を与えるの。パーシーが作った鳥たちがずっと監視してるのよ」
「じゃあ安全な場所は寮だけ?」
「そうとも限んないよ。僕こないだ見ちゃったんだ…しもべ妖精が夜中にこっそり、僕たちのカバンを漁ってた」
「なに?そんなの犯罪じゃないか!」
「そう!しもべ妖精に犯罪行為をさせてるのよ!絶対に許せないわ」
「それでダンブルドア擁護派の雑誌を持ってたりする子がどんどん罰を受けちゃって…」
ネビルはしょんぼりした顔をした。おそらくネビルも被害者なのだろう。道理で自分が帰ってきても歓迎されないはずだ。それどころか憂鬱の元凶が帰ってきてしまってみんなに悪いくらいだ。
「じゃあ確実に誰にも聞かれないのは…」
「各教授の個室、校長室、それくらいよ」
ジニーはうんざりしたように言って頭をおさえた。
「何があったか聞きたいけれど…」
「ここでは無理そうだね」
「禁じられた森の深くなら多分見つからないわ。でもあまりに危険だし…」
「いや、もっといい場所があるよ」
「どこ?」
「秘密の部屋さ」
「それは…あんまり行きたくないけど、良いアイディアね」
ハリーは週末まで寮から出ないように言われていた。朝食は全員が広間へ出ている時間に暖炉の前のテーブルにぽつんとサンドイッチとトマトジュースが置かれていた。しもべ妖精が運んでいるのだろう。ハリーは無性にドビーに会いたくなった。
「ドビー…いる?」
ばかげていると思いながらハリーは誰もいない談話室の天井へ話しかけた。数秒まってもいつものようにバシッという音はせず、ハリーは諦めて朝食を食べた。
昨日渡されたいくつかの羊皮紙は受講する教科の申込用紙と長々かかれた新しい学校教育令だった。教育令の方は暖炉に突っ込んで、申込用紙をぼうっと眺めながら、ダンブルドアと話したこと、見たことをゆっくり反芻した。
………
「よいか…」
スラグホーンという老人の、改竄された記憶。そこに映っていたのは学生のトム・リドルと後に死喰い人となる若き魔法使いたちだった。
「いまスラグホーンは魔法省の高官に囲われている。会って正しい記憶を引き出すことは困難じゃ」
「…この記憶から推察するしかないんですね?」
「左様。幸いやつが何について知りたがっていたのか見当はついておる。実物もある」
「実物…?」
そう言ってダンブルドアは机の引き出しから2つのものを取り出した。
2年生の頃秘密の部屋事件を引き起こした日記と、古びた金色のロケットだった。どこかで見覚えのある形をしている。よく見てみると、メローピーが持ち出して買い叩かれたあのスリザリンのロケットだった。
「まず日記じゃが、これはトム・リドルの記憶だけが閉じ込められていたのではない。やつの魂の欠片も籠められていた」
「魂?ちょっと、よく飲み込めないんですが…かけら?」
「やつがスラグホーンからききだしたのは忌まわしい闇の魔法、“分霊箱”の作り方じゃ。分霊箱は殺人により魂を分割し、保存することによりたとえ肉体が一度滅びても命を生き永らえらせることができる」
ハリーは衝撃を受けた。魂を分割するなんて誰が思いつくっていうんだろう。だが同時に今までずっと不可解だった事の解答が得られた。
「だからあいつは死の呪文を浴びても生きていた」
「その通り。そして今まで見せた記憶たち、背後に積み重なる死者たち。それが示すのは…」
「やつは分霊箱をいくつも作っている?」
「左様」
「そんな…それじゃあきりがないじゃないですか」
「数については予想する他ないが、おおよそ見当がついておる。その見当をつけるためにかなり多くの時間を費やし、数多の記憶を探った。結論から言えば、やつは魂を7つに分割しているはずじゃ」
「…根拠は?」
「わしが今ここでいっても意味がない。なぜならハリー、ヴォルデモートの残りの魂を破壊するのは
もちろんハリーもこのままぬくぬくと安全な学校で待ちながらダンブルドアがすべて方をつけてくれるなんて思っていなかった。いつしか自分の運命に向き合う日が来るだろうと、プロップに予言の中身を聞かされてから薄々勘付いていた。
だがこの伝え方はダンブルドアらしくない。
「君が考え、答えを導き、道を切り拓かねばならない。わしに君の手助けをする時間がないのじゃ。よいかね。事態は間もなく急変する」
「グリンデルバルド、ですか」
「そうじゃ。わしはわしの過去を精算せねばならんときが来たのじゃ。わしが最も恐れているのは、ヴォルデモートではない。あの男と、あの男が築きたがっている独善的な秩序の世界じゃ」
「…先生のお気持ちはわかります。でもとても僕だけの力じゃ…」
「そう結論を焦るでない。一度先程の君の問いかけに戻って考えてみよう。ヴォルデモートの魂が7つにわけられているとなぜ断言できたか?」
「え……っと」
ハリーはすっかりダンブルドアの話術に嵌っていた。ダンブルドアの言うとおり、これまで見てきた記憶と自分がやつに感じたことを頭の中で整理していく。
「あいつは…自分がスリザリンの末裔だってことに誇りを持ってる。血統にかなりの拘りがあった」
ハリーの脳裏にゴーントのあばら家とやせ衰えたモーフィンの姿がちらついた。
「ゴーントの指輪ですか?」
「その通り」
「同時に…そうだ!あいつはハッフルパフのカップを欲しがっていた」
スリザリンのロケットが分霊箱だとすればあのカップもそうに違いない。とすれば他の創設者ゆかりの品も手に入れたがるはずだが…
「グリフィンドールの剣はありえない。レイブンクローの縁の品は?」
「失われた髪飾り。これは遠い昔に失われ、現在どこにあるかは知る由もない」
「そうですか…」
トム・リドルの日記、ゴーントの指輪、スリザリンのロケット、ハッフルパフのカップ。全然数が足りない。
「何故7と断言したかというと」
ダンブルドアが付け足した。
「わしは奴が、レイブンクローの髪飾りを見つけたと睨んでいるからじゃ。そうなれば魂の数は6。じゃがこの数字は実に中途半端じゃ。7は魔法界で最も強い数字とされている。やつはああ見えて縁起を担ぐタイプじゃ。でなければホグワーツの創設者の品に魂を込めようなどとは思うまい」
「…なんか不思議だ。伝説の品を見つけ出してまでそんなことするなんて。ヴォルデモートはよっぽどホグワーツが好きだったんですね」
「君もそうではないかね?」
ハリーは手紙を受け取り、ハグリッドが現れダドリーに魔法をかけたときのことを思い出した。
今の君は本当の君じゃない
君の中には特別な才能が眠ってて、本当の世界はこの先にある
ホグワーツの門をくぐり、魔法を使って、今まで惨めだった自分が突然変身したかのような気分だった。何もかもが変わった。ハリーにとってここが人生のはじまりだ。きっと、トム・リドルにとっても。
「……そうです。うん、僕とあいつはとても似ている…」
「違うのは、君は決して誤った道を選んだりしないというところじゃ。ハリー…」
ダンブルドアは久々に、ハリーに優しく微笑んだ。
「もしヴォルデモートがわしらが分霊箱について気づいたと知れば、隠しておいたそれらを手の届かないようなところへ仕舞ってしまうだろう。このことは今のところわしと君しか知らぬ。君も話す相手は慎重に選びなさい」
「わかりました。…でもやっぱり自信がありません。先生の助け無しに宛もなく探せだなんて…」
「もちろんわしも手助けはする。…だが、わしが死んでも、いや。誰が死んでも、君はこの仕事を全うしなければならんのじゃ。君が生き残るためには」
………
あのあと、スリザリンのロケットは何者かにすり替えられていたことを教えられ、続きは次回に話すことになった。次はいよいよ隠し場所と、おそらく破壊の方法について話すことになるだろう。
それにしてもあと5つ…5つもあいつの分霊箱があるなんて。ロケットが偽物だったということは見つけられた分霊箱は実質たったの一つだけ。全部見つけるより前にあいつに殺されそうだ。
自分の命のため…
ハリーはまだ、ロンとハーマイオニーにこのことを話すか決め兼ねていた。いっそシリウスと分霊箱を探す旅にでもでようかと思ったが、シリウス宛の手紙は届いているのかもわからない状況だ。
ぼーっとしているうちにハリーはうとうとしかけた。だが突然響いたバシッという音で目が覚めた。
「は、は、ハリー・ポッター…様?」
目の前に立っていたのはしもべ妖精のウィンキーだった。
「ウィンキーかい?どうして君がここに…」
「あたくしはお聞きになりました。ハリー・ポッター様がドビーを呼ぶのを。ですのでドビーのかわりにあたくしがお越しになったのです」
「ドビーの代わりだって?なんで本人が来ないんだ?」
「ドビーは今とても弱っているので起き上がれないのす。ウィンキーが世話をしなくてはならないと校長に申し付けられました」
「どうして弱ってるの?」
「う、ウィンキーには仰ることができません!」
「わかった。ウィンキー、悪いけどドビーのところに連れて行ってくれる?」
「御用があるのならばウィンキーめがおやりになりますので…!」
「ウィンキー、僕はドビーと話がしたいんだ。ドビーに会いたいんだよ」
「わ、わかりました…ドビーに聞いてまいります…」
ウィンキーは再びバシッという音を立てて消えた。ドビーが立ち上がれないほど弱っているなんて一体何があったのだろう?ハリーはなんだか嫌な予感がした。ウィンキーが戻ってくるまでの時間がやけに長く感じた。暖炉の火が音を立てて崩た時、またバシッと音を立ててウィンキーがやってきた。だが今回は何かを担いでる。よくみるとそれは項垂れたドビーだった。
「ドビー!一体どうしたの?」
「ハリー…ポッター…お会いできてドビーは嬉しいです」
ハリーが手を伸ばすと、ドビーは身を捩ってそれから逃れようとした。ウィンキーがドビーを支えきれずに転びそうになったのでハリーは慌てて空いてる方の腕を引っ張り二人をソファーに座らせた。
「何があったの?」
「ドビーは…ドビーは任務をやりおおせたのです。しばらくすれば治ります」
「任務って?」
「ドビーには言えません!…ドビーは…もう……思い出したくないのです」
ドビーは弱りきっていた。しくしくと泣き出し、体を縮こまらせてウィンキーにもたれかかってしまう。
「あたくしはご覧になりました!ドビーめは校長とでかけてからこうなってしまったのです!」
「ダンブルドアと?」
「ウィンキー!」
ハリーが間の抜けた声を上げ、ドビーが鋭く叫んだ。ウィンキーはまためそめそと泣き出しそうにしながらハリーに向かって必死に訴える。
「あたくしは、アタクシはこんなドビーの姿をご覧になるのが苦しいのです…!」
「ドビーは望んで行きました!危険も承知の上です」
ドビーは弱ってはいるものの意志が固く、決して譲ろうとはしなかった。ハリーはドビーがダンブルドアと何をしたのか、直感的にわかった。
「……ごめん、ドビー。無理させて」
「ハリー・ポッターが謝る事ではございません…ドビーは…」
「いいんだ。ありがとう」
ハリーはドビーの頬にそっと触れた。ドビーは驚きながらも弱々しく微笑んだ。
しもべ妖精二人が消え、談話室に響くのは再び暖炉の立てるぱちばちという音だけになった。
ドビーはおそらくあのロケットをとるためにダンブルドアに付き合わされたんだ。そうに違いない。しもべ妖精なら口封じは簡単だし、なにより彼らの魔法はホグワーツの中で姿くらましができるくらいだ。とても心強い。
だがダンブルドアはドビーがこんなに弱ってしまうとわかって連れてきたんだろうか?そこだけははっきりさせないといけない。
そしてなにより明らかなのは、こんな危険な任務に友達を巻き込めないということだ。ロンとハーマイオニーがあんなふうに苦しむなんてとても耐えられない。
次のダンブルドアの“呼び出し”は3日後だ。それまでに、二人に向けての嘘を考えなければならない。
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