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【社説】

布川事件に賠償 再審でも証拠開示を

 再審無罪となった男性に対し、「国と県は賠償せよ」と東京地裁が命じた。一九六七年の布川事件(茨城)だ。検察に不利な証拠でも開示義務を指摘した点は大きい。再審でも同じルールが必要だ。

 「母親が早く自白するように言っている」「被害者宅近くで目撃証言がある」-。取り調べでは事実と異なる供述の誘導があった。公判でも捜査官の偽証があった。検察官も証拠開示を拒否した。

 損害賠償を認めた根拠には、警察・検察側の不公正の数々が積み重なっている。何より判決が証拠開示の在り方について、「裁判の結果に影響を及ぼす可能性が明白なものは、被告に有利か不利かを問わず法廷に出す義務がある」と述べた意義は大きい。

 検察が合理的な理由がなく証拠開示を拒否することは、できないはずである。手持ち証拠は基本的にすべて法廷に出すという規範が働くことが期待される。万一、証拠隠しが発覚すれば、賠償義務が生じることになるからだ。

 問題は再審のケースである。刑事訴訟法には、再審での証拠開示についての明文規定がない。検察側は再審では積極的に応じようとしない傾向があるし、訴訟指揮権も裁判官の裁量次第である。

 日弁連は今月、再審での証拠開示が適切に行われるための意見書をまとめている。そこでは積極的な裁判官と消極的な裁判官の間で生じる「再審格差」の問題が指摘されている。つまり、喫緊に求められるのは、新たな証拠開示の法制化である。

 布川事件が再審決定となったのは、無罪を示す新証拠が次々と出たからだ。犯行現場近くで目撃された人物は、この男性とは別人だという証言。殺害方法が供述と矛盾する鑑定書。さらに現場から採取された毛髪も男性のものとは異なっていた。指紋もなかった。

 取り調べ段階で、自白した録音テープを音声分析したら、「重ねどり」の編集痕跡があった。問題なのは、これら検察に不利な証拠を検察自身が長く隠していたことだ。見逃せない。

 近年の再審無罪のケースは、検察側の証拠開示が決め手になっている場合が多い。松橋事件(熊本)、東京電力女性社員殺害事件(東京)、東住吉事件(大阪)…。新証拠が確定判決をゆるがせ、無罪に導いている。

 もはや全面的な証拠開示が必要なときだ。裁判員裁判の時代でもある。冤罪(えんざい)をこれ以上、生んではいけない。

 

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