穏やかなるかなカルネ村 作:ドロップ&キック
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ツアーって、普通に『
「《オール・アプレーザル・マジックアイテム/道具上位鑑定》……おおっ! こんなアイテムがあったんだ!」
モモンガは、幻術で人のように見せるのではなく本当に人間になれる
「だけど種族Lvと種族特性や種族ボーナスが丸々無くなるのかぁ……あっ、でも魔法が丸々使えるのはいいかも」
「種族れべる……人間以外の種族が持つ固有の難度だっけ?」
モモンガは首をかしげると、
「ああ。”ぷれいやー”の言葉で言う”総合れべる”のことさ。こっちの世界で強さの基準で、大体総合れべるを3倍にすると難度になると思っていい」
「そういう感じなんだ? あっ、そういうことなら……」
とモモンガは虚空に手を突っ込むが、
「あれ? そういえば俺、どうやってアイテム取り出してるんだ……? あれ? なんでナザリックのアイテムが取り出せるんだ……?」
ぴたっと手を止め、いきなり悩んでしまう。
わからない。でも、わかってしまうのだ。
ゲームのときと同じような感覚で、アイテムが取り出せるのを。
いや……とモモンガは考え直した。コンソールを使わずに自分は取り出している。なので厳密には同じじゃない。
「イメージ、の問題なのかな?」
「……モモンガ、一つだけ確認したいんだけど従属神、君たちの言葉で言う”えぬぴーしー”は取り出せそうかい?」
ツアーに促され、モモンガは試してみる。
ナザリックのNPC達をイメージして……
「……駄目、みたいだ」
「なるほどね……いくつか仮説は成り立つかな?」
内心ホッとしながらツアーは続けた。
彼としても100年前の”魔神戦争”再びなんてのはツアーだって望んではいない。
「もしかしてモモンガが大事そうに持ってる黄金の杖は、ギルド武器かい?」
「ああ」
「間違いなく”ゆぐどらしる”の世界は閉じたんだね? そして君はその時、黄金の杖を持ち出して拠点の外にいたと?」
「閉じたのは多分だけど、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持って外にいたのは確かだよ」
「なるほどなるほど……大分読めてきた」
おそらくではあるが……ツアーはこの世界でも有数にユグドラシル・プレイヤーに造詣が深い。
本人望まずとも関わる事が多かったために、そうなってしまったのだ。
「モモンガ、細かいところは判らないけどおそらく”
(あるいは彼の拠点とそこに紐付けされていた従属神が”重すぎて”、この世界に顕現できないって可能性もある。意思や記憶を持たないアイテムの方が”軽い”だろうしね)
そして更に深く思考を潜らせる。
(とすると彼のギルド武器にアイテムは紐付けされてる可能性もあるね……)
だが、いずれにせよ、
(モモンガに言うべきじゃないな。憶測に過ぎないそれに縋れば、彼は前を見れなくなるかもしれない。取り戻せない過去ばかり振り返っても、幸せなんて無い……ははっ、プレイヤーは排除すると心の決めていた私が笑ってしまうな。モモンガが不幸になってほしくないなんて)
無論、打算はある。これ以上、世界を歪ませられるのは御免こうむる。
だが、モモンガに”世界を穢す者”になって欲しくないのも、またツアーの本音だった。
(我ながら酷いエゴだね……)
「意思ある者……? 話の流れから察するとNPCのことだと思うけど、彼らはデータの塊だぞ? アイテムと元になってるものは同じはずなんだが」
「そうとも言い切れないのさ。少なくともこの世界においてはね」
「どういう意味だ?」
☆☆☆
「そんな馬鹿な……NPCがユグドラシルの記憶を持ち、自分の設定を知った上で自我を持って動き出すなんて……?」
「事実だよ。実際、私はぷれいやーとも従属神、えぬぴーしーとも戦ったからね」
愕然とするモモンガに、淡々とした口調で返すツアーだった。
「でも、少しだけ惜しいことをしたかな。一度でいいから、意思を持つNPCと話してみたかったよ」
「……私はお勧めしないよ。モモンガ、特に君には」
「なぜ?」
少し心外と言う雰囲気を出すモモンガだったが、
「従属神はぷれいやーに絶対服従だ。従属神にとってぷれいやーは造物主なんだから当たり前かもしれない。そして『そうあれ』と作られた通りに行動する……モモンガ、君は自分のギルドの全てのえぬぴーしーを把握してるかい? そうあれと作られた彼ら彼女らの忠誠を受け止めきれるかい?」
言葉に詰まるモモンガにツアーはかぶりをふって、
「私はそうは思えない。少し話しただけでも判る。君のようなタイプは、間違いなくその重圧に耐えられないよ」
「俺が、弱い……から?」
「違う。君が善人過ぎるからさ。モモンガ、確認したいけどギルド武器が壊された場合、ギルドは崩壊するんだよね?」
「ああ。ルール的にはそうなるけど……」
「ギルドが崩壊した場合、えぬぴーしーは命令を受け付けなくなり暴走する……そう、制御不能の巨大な力を持つ”魔神”という存在、世に災いを齎す存在となるんだ。君がそのリスクを背負わなくてよかったと私は思ってるよ」
100年前の魔神戦争の根本的な原因はそれだった。
ツアーは今となれば思うこともある。結局、殺し合うしかなかったけど、それでも哀しく儚い存在だったと。
「ツアー……」
「過去に縋って生きるのも、また一つの生き方だとは思う。それは否定しない」
「だけど、俺はそんなに強くないよ」
ツアーは微笑み、
「なら、失った物を嘆く暇は無い……前を向いていくしかないだろ?」
読んでいただきありがとうございます。
サブタイの元ネタは”流言飛語”から。流言飛語って四字熟語は基本、根拠のないデマとかなんですが、ツアーの場合はあながちデマや嘘じゃないからタチが悪いです(^^
しかもNPCとかには出てきて欲しくないのも確かだけど、モモンガを気に入り始めてるのもまた確か……
ツアーの内心は割と複雑なんではないかな~と。