穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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お骨の竜(スケリトルドラゴン)じゃないっすよ~。
お骨と白い竜の出会いの物語、開始です。




第28話:”過去篇I・スケルトン&ドラゴン”

 

 

 

さて、想像してほしい。

空から突然落っこちたと思ったら、目の前に白くてデカくていかにも強そうなドラゴンがいた情景を。

 

今から約100年前……まだ鈴木悟の名を捨てていなかった頃のモモンガが、”()()()()”で始めて見た光景がまさにソレだった。

 

「や、やあガイコツ君」

 

だが、いきなり『目の前に黄金の杖を両手で握り締めたローブを纏った骸骨』が堕ちてきたツアーも、実はかなり困惑していたのだが。

 

「あっ、どうもです。えっと……ドラゴンさん?」

 

どうやら骨折した様子もなく、五体満足。種族的には死んでるけど無事なようだ。

もしかしたらパッシブスキルの上位物理無効化IIIが仕事したのかもしれない。

尻餅をついていた悟は、立ち上がると同時に思わず素で返してしまう。

 

「へっ? ガイコツ?」

 

「うん。これ以上ないほど立派な骸骨だよ? 君は」

 

「……ほわっと?」

 

「あー、自分で確かめるといいよ。鏡かなんか持ってないかい?」

 

モモンガは片手でスタッフを持ったままいつものクセで虚空に腕を突っ込む。

いや、もうこの時点で色々おかしいのではあるが、人間……に限らず全ての知的生命体は、許容量限界(キャパシティ・オーバー)を起こした場合、精神的保護機構が働き色々切り捨てるのかもしれない。

 

そして悟が取り出したのは、実は遠視機能がついた魔法の鏡だったのだが、

 

「フワァッ!!?」

 

 

 

骨の体がうっすら輝く。種族特性である精神沈静化が働いたのであろう。

 

「もしかして気がついていなかった?」

 

「ええ、いや、確かにユグドラシルの中では”死の支配者(オーバーロード)”だったんですが……」

 

「ふーん。”()()()()()()”、ね……」

 

悟は「えっ? まさかサービス終了直前のサプライズ・イベントかっ!? なら、サービス終了時間はまだ過ぎてないとか? あるいはユグドラシル2のチュートリアルだったり……」とブツブツ呟いていたが、ツアーはとりあえず一番重要な事を聞くことにした。

 

「ねえ、ガイコツ君……君はもしかして”()()()()()”なのかい?」

 

 

 

「へっ? ドラゴンさんもプレイヤーですよね? 竜種の。えっ、もしかしてNPC、いやレイドボス? いやいや、いくらなんでもこんな流暢にしゃべるAIなんて未だに開発できる訳が……」

 

「申し訳ないけど、私は生まれたときからドラゴンだよ? 一分一秒とてドラゴンをやめたことはないかな?」

 

「えっ!? それじゃあ、やっぱりレイドボスなんですかっ!?」

 

「残念ながらそっちでもないんだ。ねえ、ガイコツ君……」

 

「ハ、ハイ」

 

ふと目の前のドラゴンが真剣な目をしたような気がして、背骨がピンと伸びた。

 

「ここはもう”ゆぐどらしる”……ゲームの世界じゃないんだ」

 

「……………は?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ば、バカな……今時、異世界転移なんて……そんなジャンルが異様な盛り上がりをみせた時代もあるって、話では聞いたことあるけど……!?」

 

呆然とする悟……さっきから自動車のウインカーの如く点滅を繰り返しているが、沈静化の仕事は中々終わらないようだ。

 

だが、徐々に落ち着きを取り戻す精神状態の中、それが事実であることを鈴木悟は受け入れ始めていた。

目の前のドラゴン、ツァーに言われるまま試してみた情報ウインドの展開もGMコールもできない。そして何よりログアウトができない……ログアウトできない状況のフルダイブ環境でデスゲームなんて、それこそ今では古典文学作品の棚に並ぶことも珍しくない古典ラノベの舞台だ。

 

それが現行の法律ではどう足掻いても不可能だということは悟も理解している。

 

「昔の友人の言い回しを借りれば、『ここはゲームじゃなくてクソッタレな現実』ってことになるのかな?」

 

「そ、そんな……」

 

また白磁のスケルトン・ボディを点滅させる悟だったが……

 

「ああ、そうだ自己紹介しておこうか? 私はツァインドルクス=ヴァイシオン、”白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)”なんて大層な名で呼ばれることもあるけど、どっちも長ったらしいから”ツアー”でいいよ」

 

「あっ、俺……じゃなかった私は、」

 

「”俺”でいいよ?」

 

楽しそうな笑い声を上げるツアーに悟はコホンと咳払いして、

 

「俺は鈴木悟。いや、モモンガ……なのかな? この骨の体の場合」

 

「モモンガ……がいいね。響きから考えて”スズキ・サトル”は、君が()()()()で人間だった時の名前だろ?」

 

悟は小さく頷き、

 

「そっか……俺はもう人間じゃない、のかな?」

 

「そう悲観することはないさ。アンデッドもそう悪いものじゃないと昔の仲間も言っていたしね。種族固有のメリットあるし、それに……そうだな、もしかしたらその鎖骨がセクシーとか言い出す娘も、この世界のどこかにいるかもしれない」

 

「いや、それ全然嬉しくないんだけど……」

 

少し拗ねてしまったような悟……モモンガにツアーは苦笑して、

 

「それに人間に戻れなくても、人間に化けれない訳じゃないし。ましてや人として生きれないなんてことも無いけどね」

 

「へっ?」

 

「まあ、それは追々にね」

 

ツアーは一度言葉を切ると徐に、

 

()()()()、ちょっと私の昔話に付き合ってくれるかい?」

 

「昔話?」

 

「ああ」

 

ツアーは長い首を頷かせ、

 

「君にとってもきっと良い”この世界の()()()()()()()”になると思うよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

いきなりツアーとエンカウントしたモモンガ様、もしかしてハードモード?……という訳でもないみたいです(^^

十三英雄と一緒に旅した後なので、ツアーも「ぷれいやー絶対コロス竜」ってわけじゃないでしょうし。

はてさて、このお骨と竜の出会いはどこへ流れ着くのか?



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