穏やかなるかなカルネ村 作:ドロップ&キック
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凡そ今から100年前、”ソレ”は唐突に起こった。
空が割れ……
「どわあぁぁぁぁぁーーーっ!!?」
「親方、空から骸骨が……?」
その風景を見上げながら思わず100年ほど前に旅をした仲間の持ちネタを呟いてしまうツァインドルクス=ヴァイシオン、ツアーだった。
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その日、鈴木悟はとても寂しい気持ちで過ごしていた。
一世を風靡したDMMO-RPG”
原作という世界線では来た筈のヘロヘロは来なかった。
日頃の過労がたたり、緊急入院したとメールが届いていた。
たっち・みーもウルベルト・アレイン・オードルも来なかった。
降りしきる雨の中、二人は同じ場所で互いに銃口を向け合い引き金に指をかけていたのだから。
ペロロンチーノも来なかった。
彼は急な陣痛が起きた年齢が自分の半分にも満たない身重の妻を抱え、産婦人科のある病院に車を走らせていた。
皆、それぞれの日常があった。
それを知っていたからこそ、悟は激昂することが出来なかった。
だからせめて自分だけは、最後までモモンガでいたかった。
生きてきた年数の約半分を、ゲームに費やしその名と共に過ごしてきたのだから……
だが、だからと言って空虚な玉座で最後のときを過ごしたくは無かった。
そこは、かつて仲間達と過ごした時間がこびりついているような気がしたから。
失ってしまった……もう戻らない過去が楽しければ楽しかったほど、現在の孤独を浮き彫りにさせてる気がした。
だからその残滓にすがるのは、鈴木悟には耐えられそうも無かった……
最後の日くらい、思うままに過ごしてみようと彼は外へ出た。
もう誰も来るはずが無いことをわかっていたから。だから、
普段なら異形の者が入れないはずのバザーやマーケットも、あちこち普通に開放されていた。
散財するのも悪くないと、回れるだけの店で買い捲った。
驚くべきことに
売りに出されていた”
そこかしこに
一日で、ナザリックに溜め込んだ財貨の1/10以上を使ったが、後悔はなかった。
鈴木悟はその日、初めて「
バザーでは、かつてナザリックに攻め込み、いつの間にか顔見知りになってしまった人たちともエンカウントすることが出来た。
幾人からは、礼まで言われた。『魔王でいてくれてありがとう』と。おかげで楽しかったと。
餞別と称していくつもの貴重なアイテムを貰ったり、あるいは交換したりして楽しめた。
街中ではPKもPKKもできない。
とても平和な時間を、悟は過ごせたようだ。
ただ帰る頃には目新しい世界級アイテムは計3つに、シューティングスターが計7つに膨れ上がっていたのは御愛嬌だろう。
☆☆☆
23:00過ぎ。ナザリック地下大墳墓へ戻った悟はギルドの象徴、ギルド武器の”スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン”を手に取った。
その思い出を杖の形にしたようなスタッフを手に、玉座に戻らずそのまま外へ出た。
破壊されてしまえばギルドが崩壊するギルド武器を手に持ったまま外へ出るなど普通なら正気ではないが、破壊され全てが終わるならそれもよいと考えていた。
23:50、何を思ったか大墳墓の地表にいた悟は《フライ/飛行》に強化をかけ、上空へと飛び立った。
もしかしたら、ナザリックだけでなく最後の瞬間に”自分の生きてきた世界”を脳裏に強く焼き付けておきたかったのかもしれない。
上へ上へ駆け上がる……
もし自分に青春時代なんて呼べるような物があったとすれば、それは全てユグドラシルと共にあった。
喜びも悲しみも友情も、全てユグドラシルの中にあったのだ。
もしかしたらユグドラシルの終了は、同時に鈴木悟と言う男の青年期の終わりを意味していたのかもしれない。
「なべてこの世は美しき場所なればこそ」
そうとある詩の一節を
だが、
「されど
それが偽らざる本音だった。
現実に俺の生きる場所は無い。お帰りと言う人も居なければ、居なくなって惜しむ人も居ない。現実はただ虚ろで、ユグドラシルの中でこそ俺は確かに生きていた、と。
「失われた過去は戻らず、ただ虚空の彼方に消え去るのみ……我もまた然り、か」
そして鈴木悟は、終焉を受け入れるように瞼の無いはずの目を閉じた……
彼は気がつかない。今がユグドラシルという”ゲームの最後の瞬間”だったことに。
そして自分の言葉がまるで発動呪文だったかのように、空が裂けた事を……
読んでいただきありがとうございました。
ついに始まってしまいました伏線回収シリーズとも言える過去篇です(^^
今回の”過去篇I”ではシリーズ開始時100年前のツアーとの出会いを中心にピックアップしようかと思っています。
どうでもいいですが……ペロロンさん、絶対勝ち組だな(笑
そして今のところ鈴木悟さん、
もしかしなくても大幅強化?