穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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久々のほのぼの路線(?)、ヤター!
というか出てくるキャラがキャラだけに、これまでとは少々ノリが違います(^^




第12話:”一人と一匹”

 

 

 

「たーいーくーつー」

 

「”()()殿”、それがしも気持ちは同じでござるが我らは哨戒役にして遊撃であるが故、安易に仕掛けてはならぬとの将軍殿からのお達しでござる」

 

カルネ村からそう遠くない平原、巨大な魔獣……いや、本人(?)の趣味なのか和テイストを感じるで鎧、いや赤備えの当世具足で全身を覆い、セットになった鞍を背中につけた巨大なハムスターと、その上で駄々をこねる髪を左右で結ぶ幼女がいた。

 

「わかってるよー、”ハムスケ”。でも、今宵の”そーてんがげき(蒼天画戟)”は血に飢えてるのっ!!」

 

片手に手綱(とはいえハムスケは轡をつけていないので鞍につけられた転落防止のそれ)、片手でビュンビュンと大柄で物騒な長物を振り回す幼女……武将の卵、いや齢一桁にして英雄の領域に片足を突っ込んでいそうなエンリの妹、”ネム・エモット”がそこにいた。

 

彼女が持つ背丈の倍はありそうな武器の名は”蒼天画戟(そうてんがげき)”。

三国志演義においては最強武将の呂布が使っていたとされる方天画戟の亜流のような名前だが……確かにリアルの方天画戟というより、むしろ真・三国無双8に登場したハルバードに近い形状のそれだ。

 

ただ大きな違いは宝玉の色で、名のとおり紅玉ではなく蒼空色……蒼い宝玉が埋め込まれている。

全アダマンタイト製で、刃の部分はこの世界では産出されないはずのヒヒイロカネでコーティング、魔化に加え様々な”魔法付与(エンチャント)”が成されてるようだ。

というより蒼玉は、ユグドラシル由来のデータクリスタルを元素材にしていると言えば凄さが伝わるだろうか?

加えて不壊属性/自己再生/切れ味低下阻止のルーンをびっしり刻み込んである。

魔化とエンチャントとルーン……おそらくモモンガ一党とドワーフの合作だろうが、この三要素を互いに打ち消させず構築するなど中々に大した技術である。

姉の持つ”蓮の杖”も大概だが、妹のそれだって負けず劣らず。

ユグドラシルの素材とこの世界の技術のハイブリッド……現在における完成形の一つが、この蒼天画戟と言って間違いない。

 

「いや、今は昼でござるが」

 

「むぅー。ハムスケもおねえちゃんを将軍とか呼んでると怒られるよー? おねえちゃん、あれでモモンガ様の女神官(ぷりえすてす)って立ち位置に意地と誇りをかけてるから」

 

「……今更感がパネェでござるな」

 

「言っちゃだめだよ。ネムもそう思うけど」

 

何やら実の姉に辛辣な評価を出してる一人と一匹だった。

 

 

 

あまりにエンリをいじると後々恐ろしいことになりそうなので、少々話題を変えよう。

”蒼天画戟”だけでも頭の悪い……もとい。モモンガのネムへの過保護っぷりが垣間見える頭の痛い装備だが、それに輪をかけてるのが身に着けてる軽甲冑(?)だった。

 

端的に言えば……ミニスカ型の装甲をつけたレザービスチェ・アーマー”幼き守護者”だ。

デザイン的にはFGOに登場するデミ・サーバント、シールダー/マシュ・キリエライトのそれに酷似している……というかそれをベースに特に胸の辺りを中心にぺったんな幼女用に平たく再設計されていると言ったほうが正しいか?

オマケになぜかヘソ出しで背中も見えるから、色々デザインが混じってそうだが。

 

また円十字のタワーシールド型宝具は標準装備されてないが、その代わりというべきか? 『大きさを半分にして円を外し形をシンプルにした浮遊する十文字盾』、対の”自立防御型浮遊十文字機動盾(アンロック・クロスガーディアン)”を小さな肢体の左右に浮かせていた。

 

一体、幼女に何を着せてるんだ? あるいは何を装備させてるんだ?と小一時間ほどモモンガを問い詰めたくなるが、彼の名誉のために言っておくが断じて彼の趣味ではない。

むしろ、どちらかと言えばネムの趣味だ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

今から少し前の話になるが……ネムは戦場に立ちたいと言い出したのだ。自分も役に立ちたいと。

ネム・エモットと言う幼女は、幼い頃から自分の”()()()”をよく理解していた。

そして、自他共に認める”早熟の天才”だったのだ。

 

”生まれたときから村にはモモンガとキーノがいた”

”子守を任されたエンリが、ネムを背負いモモンガの家に入り浸っていた(ネムを背負って女神官の修行をしていた)”

 

おそらくはそれがネムの『()()』のきっかけだと、少なくともモモンガはそう考えていた。

 

曰く、『物心がついた時には、モモンガが村に来てすぐにテイムした高難度魔獣のハムスケに鞍もつけずに乗り、走っても振り落とされることはなかった』。

 

曰く、『齢5歳にして普通の武器じゃネムの腕力に耐えられなくなっていた』。

 

他にもネムが示した異常性はいくつもある。

力を持て余す危険性も、力に振り回される危険性も、力に溺れる危険性もモモンガはユグドラシル時代に、何よりこの世界に流れ着いた後の様々な経験と出会いからよく理解していた。

 

だが、かと言って半端な装備で戦いの場にネムを出すのは危険……そこでモモンガは、今でもどういうわけかアクセスできるナザリックのアイテム群に『なにか幼女用の防御装備はないか?』とアバウトな条件を頭で念じながら、謎の多い虚空に手を入れ取り出すと……

 

 

 

何が出てきたのかは……詳しくは書くまい。

だが、モモンガとしてはかつての盟友……もう二度とは会えないだろう懐かしき某バードマン(ペロロンチーノ)の更なる闇、更に深き業など知りたくはなかった。

ギルメンの誰もが知る”最強の吸血姫(シャルティア)”の前に、『知られた途端、リアルで実の姉(茶釜さん)に叩き潰された幻のNPC計画』があったなんてことも知りたくなかった。

その名も決まらぬまま消えた『シャルティアよりちみっこくて平たい、極度のブラコン妹系NPC』が生まれる日を夢見て、ペロロンチーノが数々の汎用性を無視した”幼女/女児特化装備”を用意していたことなど……

 

その文字通り”お蔵入り”していた誰も知らなかっただろう装備を、古き友人が血涙と共に書き残しただろう手記と共に引き摺り出してしまったモモンガの心境はいかばかりだったのだろうか?

 

女児用ビキニアーマー(世界樹の迷宮X風)なんて一体どうしろと? そして、ネムが一目見て気に入り「かわいいー♪ ネム、これ着たいっ!!」と言い出した時、止めるのに洒落ではなく骨が折れたモモンガである。

その時のキーノとエンリの視線は思い出したくない……

 

結論から言えば、今のネムが着ているマシュ・コスもどきのレザーライトアーマーは、ネムがお気に召した戦闘用装備の中では性能はともかく見た目はまだ大人しい方だ。

なんで(今でも生きていれば)ペロロンチーノが、世界を隔てる時空の壁を突き破り出現しそうな衣服ばかりをネムは気に入るのだろうか?

 

長々と装備解説をしてしまったが……ネムがモモンガより授けられた装備は、無論それだけじゃない。

その一つが”遠見の眼鏡”、遠視魔法のかかったいわゆる双眼鏡型のマジックアイテムであるが……それを覗き込んでいたネムは、

 

「あれ?」

 

途中まで距離をとりながらチェイスしていた騎馬集団とはまた別の騎馬隊を視界に捉えた。

一見するとそれは傭兵の集団にも見えたが、

 

(あの先頭を駆けてる人、もしかして……)

 

その短い黒髪の男に、ネムは見覚えがあった。

そう、去年のカッツェ平原。不可視化の魔法をかけたハムスケに乗り、王国と帝国の合戦見学をしたときに見た顔だ。

カルネ村の強者達に比べれば有象無象ばかりの王国軍の中で、今の自分より僅かに格上と思われしその戦い方と強さが目立っていたのでよく覚えていた。、

 

「確か名前は、」

 

顔と名を一致させたネムは、もう一度お供のゴブリン・ライダーの一人をカルネ村へ伝言を持たせ走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
名前だけしか出てきてなかったネム&ハムスケの初登場でござる(ハム感

ネム:カルネ村の幼き呂布の卵(実力はまだまだ伸び盛り)
ハムスケ:呂布より強い赤兎馬(鎧が赤)

うん。強さ的にも洒落にならないコンビの登場です(^^;
単体ではともかくセットならもしかしてモモンガとキーノを除けばカルネ村最強?

モモンガ:「ネムはまだ幼いし、いい装備を用意したいけど……ペロロンチーノさぁん!!」

キーノ:「モモンガの友人って一体……?」

モモンガ:「……聞かないでくれ」

骸骨の苦悩は続く。




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