オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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結論から言おう。今回死の螺旋を引き起こしたカジットも、クレマンティーヌも容易に捕らえることができた。カジットの弟子は必要ないと思い、半分は戦闘で死亡。もう半分は捕らえてカジットと共に冒険者組合に送った。
カジットはズーラーノーンという組織に所属していたが、記憶を読み取っても有益な情報がなかったので首謀者として検挙。マジックアイテムで魔法を発動していた半裸の少年もそのまま送り届けたが、彼は利用された善良な市民だったらしい。
マジックアイテムのせいで両目を失明していたが、マジックアイテムを取り外すと発狂して死んでしまい、今さらこっそりマジックアイテムを壊しに行くということができない程防備の堅い場所に安置されている。
やろうと思えば完全犯罪も可能だが、神官たちが頑張ってマジックアイテムを剥がそうとしていること、マジックアイテムは貴重でできれば研究材料にしたいこと、無理に剥がしたり壊したりしたら装備者が死ぬ可能性もあるためにモモンガは結局実行できなかった。
魔法などを用いればできなくもなかったが、てっきり首謀者の一人だろうと思って特に調べなかった結果だ。カジットを倒したらアンデッドが消えたために、何も思わず他の人間に任せたため色々と聞かされた後には手遅れになっていた。
モモンガたちでもやれることはアイテムを破壊することのみで、アイテムを残したいエ・ランテルの役人たちの反感をもらいたくなかったために手を出せなくなった。それで冒険者の資格を失ったら元の木阿弥だ。
事件の首謀者を捕らえたことからモモンガたちは白金級に特別に昇格。ブレインも加わった三人パーティーで、名前は「黒銀」。モモンガの黒いローブと、パンドラの白銀の鎧から取られた名前だ。ブレイン成分がないのは、後から加わったから要らないとのこと。
クレマンティーヌの方は様々な情報を知っていた。法国にはレベルの高い人間が複数いること。昔プレイヤーが建国した国だったこと。その名残か、ユグドラシル産のアイテムが多数残っていること。
六大神というプレイヤーの教えを守って亜人種などの異形種を狩っていること。そのためツアーのような異業種が国を治めていることを良しとせず、評議国を嫌悪していること。
特に警戒すべきは、世界級を二つ確実に保持していること。保険で世界級を手元に持っていて良かったと思った瞬間だ。
「はぁ~……」
「どうした、モモン。ため息が深いな。異例の昇級だってのに」
そう尋ねてくるのはブレイン。正式にパーティーに加入して、同じように白金級のプレートをさっき組合長からもらったばかりだ。
今日の目的であるプレートを受け取ってロビーにあるソファに座りながら今日はこのまま帰ろうかと思っていたが、考えを纏めたくて座っていたら質問されていた。昨日だけで情報量はすさまじく多かった。
「昇格なんて考えてなかったんだよ。そこそこ上のクラスになると指名依頼があるなんて知らなかったんだ。できるならカルネ村からあまり離れようなんて考えてなかったわけだし」
「あー……。あの子たちのことか。あのお嬢さん怖かったもんな」
「そのご機嫌取りも考えなくちゃならなくてな」
昨日、伝言も使わず事件を解決していたら、カジットたちを組合に突き出したのが明朝、つまり日付が回ってしまっていた。
そこから事情聴取を受けて、急いでブレインを連れてカルネ村に帰ったらお土産がなくて悲しんでいたネムと、連絡を一つも寄越さず帰ってこなかったことに怒ったエンリがいた。
そこから説教タイムが始まり、ブレインが宥めようとしたが、全く意に返さずモモンガとパンドラは正座をして説教を受けていた。まさか正座を長時間することによる足の痺れがこの世界、というかこの身体になっても起こるとは思わなかった。
「でもまあ、すぐに移動できる魔法あるじゃねえか。ゆっくり悩んで決めればいいんだよ」
「ちなみにブレイン、女の子への贈り物をしたことは?」
「ないな。剣の道一筋だ」
「聞いた俺がバカだった」
パンドラに聞くのは何か違う気がしたために聞くこともしない。モモンガは一人悩みながら、あることを思いつく。
「うん、そうだな。森の賢王に会いに行こう」
「今日の話でしょうか?」
「いや、明日だ。今日はお詫びの品を買いに行くことに専念しよう。臨時収入も入ったし」
昨日の騒ぎで特別報酬、そして昇級祝いの報酬ももらってそこそこ懐が暖まった。二人分のお土産くらいは簡単に買える。
件の森の賢王は、一度話しておきたかった。縄張りに入ってしまっているのはモモンガたちの方だし、変にお互いを警戒しない方が良い。
あと、賢王だというのならば、こちらの意図くらいわかってくれるだろうという意味も込みで。
「戦うのか?アダマンタイト級冒険者のチームでも手を出さない森の賢王を?」
「いや、交渉だ。カルネ村に近い森林は奴の縄張りらしいからな。お互い不干渉にしようと話しに行くだけだ」
「人語は話すらしいが……。交渉ねえ。一度戦ってもみたいが」
「命の取り合いはするなよ?森の賢王が管理してるから街道のモンスターもそこまで多くないらしいぞ?」
「そうなのか。すごいんだな、森の賢王って」
「会ってがっかりしないといいがな……」
「あん?」
森の賢王は見た目ハムスター。魔獣とか言われていても、可愛いという感想しかモモンガは出てこなかった。それがこの世界では最強クラスのモンスターなのだから驚きだ。
「そういえばブレイン。こっちで強さを示す指標のようなものはあるのか?例えばレベル、とか」
「れべる?そんなもん聞いたことないな。強さの指標ってなると難度だ。森の賢王の難度は100を超えるって言われてる」
「森の賢王で100……。スケリトルドラゴンは?」
「50前後だな。そこそこ強いアンデッドは60辺りだ」
「スケリトルドラゴンで50……。そうなると俺たちの指標から三倍した数字が近いか」
ユグドラシルでスケリトルドラゴンは17レベルが平均。森の賢王は30台だ。こちらの世界の難度という指標は随分と細かいらしい。
「ガゼフは100ぐらいか?」
「そう言われてるな。100を超えるモンスターも人間も少ない。そりゃあ、周辺国家最強の剣士とも呼ばれるさ」
「あのガゼフがねえ……。ドラゴンともなると180とか、100後半になるのか?」
「地竜とか種類にもよるだろうが、大体100後半だな。評議国を治める竜王なんて存在は200越えが当たり前、それが複数らしい。喧嘩売るなよ」
「だからカルネ村で平穏に暮らしたいだけだ」
ツアーとも同盟のような物を組んでいるので、評議国と戦う理由がない。降りかかる火の粉は払うが、こちらから積極的に攻めようとは思わない。現に法国がやったことは許せないが、仕返しをしてそのままで済ませている。
モモンガたちは色々な店を回りながら、二人へのお土産を吟味する。ちなみにブレインも今後カルネ村の空いている家で暮らすことになり、生活用品などを買っていた。
結局モモンガはエンリとネムの姉妹に髪留めと手鏡を買っていった。手鏡は村では貴重品だとお店で聞いたのでちょうどいいと思って購入。
あとはお詫びということでもないが、料理をするエンリのためにエプロンも買っていった。花柄のカワイイ物だ。実は装備品にもエプロンはあったのだが、新妻エプロンなる名前なのでやめておいた。
二人の機嫌が良かったために安堵した白金級の男冒険者たちがそこにはいたとか。
そしてこの日の夜、エ・ランテルの詰め所に忍び込んだ集団がいて、捕まっていたズーラーノーンのメンバー全員とマジックアイテムがつけられたままの薬師の少年が忽然と姿を消していた。
詰め所にいた人間は全員眠らされていて、襲撃者の顔もわからなかったという。
この事件を経て、エ・ランテル一のポーション屋は閉店することとなる。唯一残ったリイジー・バレアレが徘徊する姿が後によく確認され、その度に衛兵が家に戻すことが増えた。そして戻した後も、人間とも思えない絶叫が、エ・ランテルでも有数の資産家の家から聞こえてくるようになる。
ンフィーは後々助けに行きます。
今回はタイミングが悪かったということです。