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【社説】

小学生ら殺傷 惨事繰り返さぬために

 スクールバスのバス停で小六女児らが犠牲となった殺傷事件は、安全対策の難しさをあらためて突きつける。それでも諦めるわけにはいかない。子どもが安心できる社会の構築は大人の責務だ。

 事件の動機は不明だが、何らかの負の感情を子どもという弱者の命を奪うことに向けた犯行は卑劣で許し難い。何が起きたのかの全容と、できる限りの背景の解明を望む。

 痛ましい事件が起きて、守りを堅くする。学校はその繰り返しに追われてきた。

 二〇〇一年の大阪教育大付属池田小児童殺傷事件を機に、校門の施錠や、防犯カメラ設置など不審者対策が進んだ。〇五年、栃木県今市市(現日光市)で下校途中だった小一女児が犠牲となる事件が起き、地域の人の見守り活動など、通学路の安全対策が積み重ねられてきた。

 しかし、一七年に千葉県松戸市で小三女児が殺害された事件では、その見守り活動をしていた保護者会長が逮捕された。さらに今回、惨事の現場となったスクールバスは、通学路の安全対策の一つの究極の形ともみなされてきただけに、衝撃も大きい。

 どこまで尽くしても完璧とはならない、安全対策の難しさがあらためて浮き彫りとなっている。犠牲となった児童らが通う川崎市のカリタス小学校は私立だが、地方で学校の統廃合が進む中、公立でもスクールバスは今後広がる可能性がある。乗降時の見守りや、緊急事態への対応について、議論を進める必要がある。

 ただ学校や通学路などを要塞(ようさい)のようにして地域や社会との接点をなくしてしまうことは、長期的な視点で子どもたちの心を育み、安定させることにはつながらないだろう。そこが悩ましい。

 池田小児童殺傷事件の遺族の一人は講演で、学校の安全対策とともに、犯罪者を生まない社会づくりの必要性をこう訴えている。「命の大切さが次の世代に伝えられるよう(子どもたちを)導いてほしい」。米国では昨年、高校での銃乱射事件などをきっかけに、高校生たちが銃の規制強化を求め、デモを行うなどの運動を始めた。

 子どもたちが命の大切さや社会正義を信じることができる社会を維持する。そのためにできることを議論し、実行する。それが大人に課せられた使命だ。今回のように、事件という形で困難が訪れたとしても。

 

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