穏やかなるかなカルネ村 作:ドロップ&キック
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その日、特殊任務についていたスレイン法国の兵士、ロンデス・ディ・クランプは非常に嫌な予感を感じた。
それはただ直感と言うわけではなく……
「カルネ村、か……」
(あそこはかなり特殊な村だと聞いているが……隊長は資料を読んでいるのか?)
ちらりと隊長であるベリュースを見やるが……
(阿呆が……)
心の中で毒づいた。
きっと昨日襲った村での出来事、無垢な村娘を犯しながら殺したことでも思い出しているのだろう。
どうしようもない下衆だが、それも仕方ないとロンデスは諦めもしている。
何しろベリュースは軍才がないどころか軍事訓練もまともに受けていない。
どこぞの金持ちのボンボンが、箔付けのために隊長役を買い取り作戦に参加、自分は体のいいお守り役を押し付けられたとロンデスは考えていた。
要するに貧乏くじだ。
その考えは的外れなものではない。
無抵抗で無力で無垢な民を殺し犯し奪い、そして焼き払う……凡そまともな軍人が喜んでやるとは思えない汚れ仕事を嬉々として行い、それを完璧にこなしてると勘違いしベリュースは呆れるほど単純に増長を始めていた。
(ベリュースは今回の作戦の意味や重要性をわかってるのか? いや、ベリュースだけでなく上層部もだ)
”高度な政治的な判断”とやらで、『バハルス帝国軍のふりをして国境周辺の王国の村々を襲撃、討伐名目で不十分な装備のまま出陣させられる”
対象者が誰なのか想像はつくが、それを問うつもりも詮索するつもりもない。
誰が対象者であっても好んでやりたい任務ではないが、だからと言ってスレイン法国の正規軍人としてやるべきことはやるつもりだったが、
(なぜ、”カルネ村”まで襲撃する必要があるっ!!)
☆☆☆
まず、最初に言っておくがカルネ村は今回の誘引作戦における”襲撃リスト”には載っていない。
ただ、襲うなと特に止められていないだけだ。
そして、カルネ村の襲撃はベリュースの独断だった。
ベリュースの言い分は、
『対象者がまだ釣れない以上、襲撃を続けるしかないじゃないか』
一見、もっともらしい物言いだが本音が別にあることはロンデスに限らず隊員の誰もが知っていた。
端的に言えば、ベリュースと一部の隊員は殺戮と強姦と略奪に味をしめたのだ。
”カルネ村”は、法国でも一定以上の知識がある者なら一度は聞いたことがあるはずだ。
名目上は一介の開拓村だが、その規模は開拓村にあるまじき大きさで、また村とその周辺はラナー王女の直轄領でもある。
同時に、巨万の富を生み出す村としても知られていた。
様々な毛織物を生み出す羊毛産業、麦わらを再利用することで価格を抑え庶民にも手が届く値段での販売を成功させた製紙業、大分前に店ごと拠点をカルネ村に移したバレアレ家による高品質なポーション卸業……他にもまだ規模は小さいが酒造やチーズやバターと言った乳性嗜好品を生み出す酪農にも積極的に手を伸ばし、大きな成長産業となることが確実視されている。
また王国有数の消費地である城塞都市”エ・ランテル”がすぐ近くにあるのも大きいだろう。
ラナー王女直轄ということで他の王国の土地に比べても税率が低いが、それでも村から入る税収は巨大で、ラナーが打ち出した数々の改革の原動力になってるともっぱらの評判だ。
その巨万の富を殺して犯して奪い取ろうとニヤけ面で考えてるのがベリュースであるが、
(だが、カルネ村の”もう一つの側面”を理解してるのか!?)
巨万の富を生み出すと言うことは、それだけ富を狙われやすいということだ。
建前では”トブの大森林から抜け出すモンスター対策”ということになっているが、村は『小型版エ・ランテル』と評されるほど頑強な丸太塀で囲まれていることは、一度でもカルネ村の資料を読んだ者なら誰でも知ってる話だ。
(しかもあの村の住民、かなりの部分が冒険者なんだぞ!)
村の中では特に語られる事はないが、主に徴兵対策として徴兵対象となる成人男性を冒険者として登録することが慣例化していた。
しかも名目だけの冒険者じゃない。
対象者の村民を一つの冒険者チーム”カルネ村修道会”として登録、冒険者組合史上最大級のチームとなっていて、オーダーに合わせて少人数でチームを組み、冒険者資格を剥奪されない程度にローテーションでクエストをこなす取り組みを行っていた。
”カルネ村修道会”というチーム全体で見れば”
穿った見方をすれば、”チーム全体の実力”の平均値をとらせ白金級で留めている事すら策略の可能性もある。
「それどころか……」
その活躍が滅多に表に出ることはなく、故に存在その物に『都市伝説疑惑』がある謎に包まれたアダマンタイト級冒険者……”ダークウォリアー”と”イビルアイ”が、カルネ村を根城にしているという噂まであるのだ。
二人の登録がエ・ランテルで行われているところを見ると、信憑性は低くはないとロンデスは考えていた。
(ただでさえ、たかだか25騎の騎兵じゃ砦などどう考えても落とせるわけないのに、)
これで本当に伝説の冒険者など出てきたら自分たちなど塵芥だろう。
もうこれだけで有り得ないほど憂鬱なのに……
(カルネ村の信仰は……)
ロンデスは、それ以上は考えたくないと頭を左右に振る。
もう精神的負担は御免だと。
無論、ロンデスは中止を進言したが欲に目のくらんだベリュースに聞き入られることはなかった。
もう自分にできることはないという諦観が心を蝕む……
「もう俺は、生きて故国の土を踏むことは無いかもな」
その呟きは、奇妙なほどの現実感を伴っていた……
読んでくださりありがとうございます。
いや~、ようやく法国サイドの視点で書けました(^^
比較的コロっと逝きやすいロンデス君ですが、ちょっとスポットライトを当ててみたんですが……思ってたより書いてて動かしやすかったのが意外。
果たして彼に救済はあるのか……何はともあれ、次回くらいから戦いに入れそうです。
あれ? もっとほのぼの路線のはずだったんだが……ハテ?