穏やかなるかなカルネ村   作:ドロップ&キック
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ほぼサブタイどおり。
今更ですが……エンリはちょっぴりおっかないだけの普通の女の子デスヨ?




第07話:”ジェネラルのお仕事”

 

 

 

門を閉めるだけで強固な砦に早変わりするのに、あえて城外戦を選択するエンリ・エモットを人は阿呆と笑うかもしれない。

それは悪手だと。

だが、後世の歴史書ではこう評されることを書いておこう。

 

『エンリ・エモットは切り札、奥の手、隠し玉を作るのが非常に上手く、またその使い方も上手かったようだ。加えて一見すると悪手に見えるそれを、後から見れば最良手にしていた事例も多い。ある種、兵法の正道を理解した上で邪道を使いこなせたからこそ、常勝不敗神話が生まれたのではと推察される』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モモンガとキーノが村にやってきてから、もうかれこれ10年は経つ。

その間、少しずつでも一歩一歩踏みしめるようにカルネ村は住民を増やしながら防衛力を強化してきた。きっとモモンガはどこかに篭って戦うことが好きなのだろう。イゼル○ーン要塞とか喜びそうだ。

そんなモモンガと共に生きると決めたときから、村は生まれ変わったと言っていい。

故にかつてならありえない光景がそこにはあった。

 

 

「正門前にゼロさんを中心に”拒馬(移動式の簡易馬防柵)”を設置! 騎兵の正面突破を阻止すると同時に回りこまれるのを防いでください! 拒馬の後には大楯隊と長槍隊、連弩(連射できるクロスボウ。別名:諸葛弩)隊を配置!!」

 

矢継ぎ早に指示を出すエンリの声に、

 

「心得た」

 

静かに低い声で返すゼロに、担当する者達が”応っ!”と唱和する。

今更だが、カルネ村には門柱の上に設置されたポリボロスや連弩をはじめ、『他の場所ではまず見ない武器や装備』が割と多い。

また村の防衛戦を前提としてるせいか、アウトレンジ攻撃を行いやすい弓/弩兵が充実しているのも大きな特徴といえた。

 

「シューリンガンさんとグーリンダイさんは短弓隊を率いて左右の草地に潜伏! 命令次第、射撃しつつ距離を置き半包囲を開始してください!!」

 

「「了解だ! 姐さん!!」」

 

ゴブリン・アーチャーの二人は胸を叩き元気に返事を返す。

ちなみに短弓隊は騎乗訓練もやっており、村の虎の子である数頭の馬を駆り流鏑馬じみた騎射もできるようだ。

今回はそこまでする相手でもないようだが。

 

「長弓隊は塀の裏側に身を隠し待機! こちらも命令次第支援射撃を開始です! デイバーノックさんとコナーさん(ゴブリン・クレリック)ダイノさん(ゴブリン・メイジ)は門柱上にて待機。最初に言っておきますがポリボロス同様に魔法を使える方々はカルネ村の秘密兵器、相手がありえないほど強者でもない限り今回は出番はありません」

 

「ムウ……残念だ」

 

この魔法を実戦で試したくて仕方のない、どこか子供っぽいエルダーリッチにエンリは微笑み、

 

「あくまで”今回は”ですって。それに私も今回は前線に出ませんし我慢してくださいよ」

 

それに口に出しては言わないが、予想される戦闘で得られる最大限の利益は『なるべく多くの村民に対人戦の経験を積ませる』ことだとエンリは心得ていた。

帝国であれ”帝国以外”であれ、正規兵と戦えるのなら願ってもない機会といえる。

王国、しかも正規軍との戦闘を常に考慮すべき指揮官としては、『的が向こうから来てくれた』ことは喜ぶべきことだ。

デイバーノックを出してしまえば、経験を積む前に魔法乱射ですぐに決着がつきそうで怖い。

エンリはこの集団を”軍”と捉えた場合、必ずしも一方的な蹂躙……いわゆる”無双”は良いとも思えない。被害少なく勝てるのはいいのだが、せっかくの戦訓を得る機会が失われるし、敵を侮るようになる危険性があった。

何よりも怖いのが、兵が「俺たちが何もしなくても勝てるんじゃね?」と思い込み、一騎当千の猛者に依存し緊張感も防衛意識も欠落させてしまうことだ。

実は知性派脳筋(クレバーマッチョ)なゼロはその辺は弁えてくれそうだが、

 

(デイバーノックさん、絶対に浮きながらノリノリで試し撃ちしそうだもんな~)

 

そういうのは出来れば、たまに村に来る身の程知らずのモンスターとかにやって欲しいのが本音だ。

無論、王国に限らず誰かが本気で村を潰そうと大軍引き連れてやってきたときは遠慮なく吹き飛ばして構わないが。

 

「いや、姐さん。御大将は普通前線に出ませんって」

 

と苦言申し立てるのは、今にもホブ・ゴブリンに進化しそうなゴブリン・リーダーのジュゲムだった。

実に最もな意見だ。

 

「ところで姐さん、俺たちの出番はどうなってるんですかい?」

 

「もちろん、ありますよ? 私の作戦計画がきっちりハマるなら、矢でハリネズミになった兵隊さんが落馬して転がりまわるはずですから……」

 

エンリはにっこり微笑み、

 

「生きている人だけでかまわないので、死なないように取り押さえてください。あっ、でも抵抗する気が起きない程度に痛めつけるのはありです。人間、素直なのが一番ですから♪」

 

その悪意の欠片もない笑みを見て、ジュゲムと部下のゴブリンたちはゾゾッと背筋に冷たいものを走らせた。

こういう笑みを浮かべたときの姐さん(エンリ)は、本気で怖いと言うのがゴブリンたちの共通見解だ。

今から約1年前、調査に入ったトブの大森林東部でこの悪意のない笑顔を浮かべたまま、

 

『”蓮の杖”を魔法触媒ではなく打撃武器として使用したときの威力とグさんの再生限界の検証ですね♪ モモンガ様も実験と実証は大事だって言ってましたし。敬虔な信徒として神様の言葉には従わないと♪』

 

『マ、マテ!』

 

『知ってます? メイスは元々刃の武器が持てない聖職者が、武器として用いたワンドから発展したそうですよ? ならきっと、これも正しい使い方ですよね♪』

 

と”O.HA.NA.SHI”……一度頭を魔法で吹き飛ばしたグを大岩に座った状態で雁字搦めに縛りつけ、頭が再生され意識が戻るたびにメイスのようにワンドを振るい何度も何度も何度も何度も、蓮の蕾をモチーフにしたらしいワンドの重くて硬い先端でグの頭を潰し砕き飛ばし続けたのだ。その度にグの絶叫が森に響き、周囲の動物や魔物や亜人を怯えさせ、同時に東の巨人が王の座から失墜したことを告げたのだった。

再生限界を見極めることはできなかったのは、その前にグの心がポッキリ折れたからだ……当たり前である。

ただ、エンリにも一応は言い分があり、

 

『当時の愚……グは力の強弱でしか物事を判断できませんでしたから。これも教育の一環だと思ってます』

 

それを目の当たりにしたのが率いられていたジュゲム以下、エンリの近衛扱いになってるジュゲムたち19人のゴブリンだった。

エンリの実にイイ笑顔を見つつ、姉妹揃っておっかない……改めてそう思いながら、ジュゲムはこの村に接近しつつある騎馬隊に憐憫を感じたのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

たかが10年、されど10年。

異端異教の村として有事に備え培ってきた防衛力が試されようとしていた。

 

「どこの誰だか知れませんが、モモンガ様とキーノ様の安住の地であるカルネ村に手を出す……それがどれほど罪深いことか、いっぺん死んだ程度じゃ忘れられないぐらい魂の奥底まで刻んでやりましょうっ!!」

 

”蓮の杖”を天に(かざ)すエンリの鼓舞に応え、村人の雄叫びが響き渡った!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございました。

職業:ジェネラルとコマンダーはきっちり仕事してるみたいですよ?
女神官はしばらく休業のようですが(^^

魔法触媒、殴打武器、指揮棒と意外と活躍の幅が大きい”蓮の杖(ロータス・ワンド)”。
これの真価を発揮したとき、更なる流血を呼ぶ?



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