遺伝の仕組み
遺伝とは、生殖によって親から子へ形質などの特性が遺伝子で伝達されていくことです。生物は一般的に一種類の遺伝子につき、両親それぞれから受け継いだ一対の遺伝子を持っています。親は繁殖のために新しい個体を形成するための配偶子(メダカにおいては卵と精子)を形成します。体細胞には一対の遺伝子が存在しますが、配偶子にはその半分しか存在していません。その半分ずつが接合(メダカにおいては受精)することによって、遺伝子が一対になり新しい個体が形成されます。新しい個体は遺伝子の組み合わせによって両親の形質、あるいは片方の形質を発現します。
遺伝を知るために必要な用語(遺伝子型と表現型、ホモとヘテロ)
遺伝子型とは、生物個体が持つ遺伝子の構成のことです。表現型とは、生物個体が持つ遺伝子が形質として表現されたものです。遺伝子が存在していても形質が発現しない場合があるため表現型と遺伝子型は必ずしも一致するとは限りません。
ホモとは同じ遺伝子を持っている遺伝子型の個体を指します。ヘテロとは異なる遺伝子を持っている遺伝子型の個体を指します。
上記の二つを人間のABO血液型を例に見てみましょう。例えばA型では遺伝子型はAAとAO、表現型はAとなり、遺伝子型AAはホモ、遺伝子型AOはヘテロです。B型も同様に遺伝子型はBBとBO、表現型はBとなり、遺伝子型BBはホモ、遺伝子型BOはヘテロです。O型は遺伝子型OO、表現型はOとなり、OOのホモです。AB型は遺伝子型と表現型ともにABとなり、AとBのヘテロです。
メンデルの法則
G. メンデルの研究によって得られた知見を後代の研究者がまとめた法則です。遺伝に関する基本法則であり、まとめ方により解釈の差はありますが、「優性の法則」、「分離の法則」、「独立の法則」の3法則とされています。実際には優性の法則と独立の法則には例外があるため、分離の法則のみが法則として成り立ちます。
- 優性の法則
優性の法則とは、形質が現れやすい優性遺伝子とそれに隠れる劣性遺伝子があり、同時に存在する場合、優性の形質のみが現れる法則です。ヘテロではAの形質のみを発現します。優性と劣性といいますが、どちらが優れているという意味の差別的なものではありません。優性の法則には不完全優性や部分優性などの例外があります。 - 分離の法則
分離の法則とは、親から受け継いだ遺伝子は融合せずに次世代に伝わる際には分離する法則です。Aaの遺伝子は融合して優性遺伝子AのみになることはなくAとaで構成され、配偶子はそれぞれAとaに分離します。 - 独立の法則
独立の法則とは、二対以上の対立遺伝子について各対立遺伝子はそれぞれ独立して分配される法則です。AとBの二対の対立遺伝子はそれぞれ独立して配偶子に分離されます。ただし、同一染色体に遺伝子が乗り、連鎖現象などがあれば独立の法則は当てはまりません。 - メンデルの法則に基づいた遺伝の例
以上のメンデルの法則に基づいて、一対の対立遺伝子の遺伝と二対の対立遺伝子の遺伝の2つの例を示します。
まずは一対の対立遺伝子の遺伝の例です。AAとaaの交配から得られた雑種第一代(以下F1、1st filial generationの略)の遺伝子はAaとなります。F1から得られる配偶子が持つ遺伝子は分離してAとaの2つになります。そしてこの2つの組み合わせは、AA、Aa、Aa、aaとなります。雑種第二代(以下F2)の遺伝子型分離比はAA:Aa:aa=1:2:1で、表現型分離比はA:a=3:1となります。
次に二対の対立遺伝子の遺伝の例です。AABBとaabbの交配から得られたF1の遺伝子はAaBbとなります。F1から得られる配偶子が持つ遺伝子は分離してAB、Ab、aB、abの4つになります。そしてこの4つの組み合わせはAABB、AABb、AaBB、AaBb、AAbB、AAbb、AabB、Aabb、aABB、aABb、aaBB、aaBb、aAbB、aAbb、aabB、aabbとなります。F2の遺伝子型と表現型の分離比はAB:Ab:aB:ab=9:3:3:1となります。それぞれの遺伝子の表現型に着目するとF1と同様にA:a=3:1、B:b=3:1となり、AとBはそれぞれが独立して遺伝していることが分かります。
メダカの遺伝子いろいろ
メダカの基本的な遺伝子とその遺伝の特徴などをいくつか紹介していきます。
- 体色
メダカの体色に関する遺伝子には主にBとRがあります。Bは黒色色素の優性遺伝子で、Rは黄色色素の優性遺伝子です。BRの表現は黒メダカ(野生型)、Brは青メダカ、bRは緋メダカ、brは白メダカとなります。BにはB’という黒斑の遺伝子も存在します。優劣関係はB>B’>bで、複対立遺伝子と呼ばれます。 - ヒカリ体型Da(Double anal fins)
ヒカリ体型Daは不完全優性です。不完全優性とは完全優性に対して対立遺伝子間の優劣関係が明瞭でなく不完全な場合のことです。完全優性ではヘテロはAの形質が表現されますが、不完全優性ではAとaの中間の形質が表現されます。劣性ホモ個体の背鰭の軟条数が6本であるのに対して、ヘテロ個体は背鰭の軟条数が10本前後、尾鰭がやや菱形といった表現になります。 - ダルマ体型f(Fused)
ダルマ体型fは劣性遺伝子です。この遺伝子は椎骨融合を起こして体長を短く、臀鰭の軟条数を減少させます。ただし、劣性ホモはすべてダルマ体型になるわけではなく、発生段階の温度等の条件によって発生率や表現の程度は変化します。また、表現の程度の変化には椎骨融合の位置が関係していると考えられ、それには他の遺伝子も影響を与えていると考えられています。そして、この遺伝子には異なるタイプがあり、少なくとも6タイプが確認されています。同タイプの劣性ホモでなければダルマ体型になりません。 - 背曲がりwy(Wavy)
背曲がりwyは劣性遺伝子です。この遺伝子は脊柱を波状に曲げます。劣性ホモ個体はすべて背曲がりになるわけではなく、発生段階の温度等の条件によって発生率や表現の程度は変化します。
管理人ninomiya
メダカの遺伝の特徴
メダカの遺伝は上記のメンデルの法則に則って考えることができますが、複雑な遺伝が起こる場合があります。特定の遺伝子が性染色体上に存在するために雌雄によって表現が異なってくる場合や特定の遺伝子が他の遺伝子の形質発現を被覆する場合があります。
最もメダカの遺伝で特徴的なのがトランスポゾンです。トランスポゾンは転移型遺伝因子で、ゲノム上を転移して遺伝子の働きを抑制する作用があります。ヒカリ体型や嚢胞腎メダカ、鱗のないメダカ、左右逆位のメダカなどはこの因子によって生まれた変異体です。多くの生物にトランスポゾンはありますが、メダカのものは最大の大きさであることが判明しており、変異をもたらす確率が高く、その影響が大きくなる可能性があるとされています。トランスポゾンによって親とは全く異なる表現の突然変異個体が生まれてくる可能性があります。
まとめ
遺伝の仕組みやメンデル法則とメダカの遺伝子を把握することで交配内容をより具体的に考えることができます。仕組みや法則には例外があるため一概に説明することはできませんが、それらから遺伝させたい遺伝子がどのような遺伝子なのか、逆に遺伝させたくない遺伝子がどのような遺伝子なのかを交配を通して考えたり、メダカの遺伝子に関する研究を調べたりすると積極的に交配を楽しむことができるようになります。