東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

日米首脳会談 なぜ選挙のあとなのか

 あまりに露骨、横柄な物言いではないだろうか。日米の貿易交渉妥結は参院選挙後までずれ込む見通しという。人々の暮らしを大きく左右する交渉である。選挙の材料に使ってはならないはずだ。

 交渉で米国の標的ははっきりしている。巨額の貿易赤字削減を念頭に日本に対し、農産物の輸入増、自動車の対米輸出規制、円安阻止を狙った為替条項の導入を求めている。

 日本は牛肉など農産物の輸入関税について、少なくとも環太平洋連携協定(TPP)で認められたレベルまで引き下げざるを得ないだろう。その場合、政府は国内農家の暮らしを守る対策を行う必要がある。犠牲になる人々を救済してこその自由貿易だ。

 最大の焦点は自動車問題だ。トランプ米大統領は車の輸入増加を「安全保障上の脅威だ」と主張。その上で、関税の大幅な引き上げをちらつかせ、日本側に譲歩を迫る戦略だ。

 この安全保障問題への関連づけについては疑問を持つ人も多いはずだ。トヨタ自動車は「安全保障上の脅威ではない」と異例の反論を行ったがその通りだろう。

 自動車産業は、完成車輸出が主役だった一九八〇年代と違い、すでにグローバル化している。日本メーカーは米国に工場進出し現地の雇用に貢献している。部品の輸出入は日本と米国、中国などを還流し、お互いの利害は切り離せない状況にある。

 貿易の循環を断ち切る関税引き上げを含む規制強化は、世界経済に不利益しかもたらさない。大統領は、時代に逆行した貿易規制が結果的に自国経済をも傷つける現実を理解すべきだ。

 さらに指摘したいのは、貿易交渉の妥結時期と参院選挙が深く関連しているようにみえる点だ。交渉の行方は農家や自動車産業で生きる人々の生活に影響する。あえて選挙直後に合意を図るのなら、不誠実ではないのか。

 大統領は原則として貿易交渉を二国間で行うことを好む。力の差を見せつけ分かりやすい貿易上の成果を狙う手法だ。

 貿易の最大の目的は、お互いの足りない部分をモノやサービスの移動により補完。その上で双方が生活の質を上げることだ。

 大統領のやり方は人類が培ってきた貿易の機能を無視している。ならばここは妥結時期にこだわらずに交渉し、自由貿易の灯を守り続けるのが筋だろう。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】