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【コラム 人生流し打ち】

イチローに想うレジェンドの引退 あの落合博満も人の子だった

2019年3月22日 18時51分

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 イチローが引退した。見事な引き際だったと思う。まだやれる、こんなはずでは、でも…。揺れる思いで出した答えだっただろう。大物になるほど悩みは大きくなる。

 長嶋茂雄さんの場合は、畳の上に両手をついて「もう1年やらせてください」と川上監督に直訴したという。栄光に傷がつかないよう勇退を勧めた指揮官が折れる形になったが、結局は翌年引退した。

 この長嶋さんの引退試合をスタンドで見ていた落合博満さんは日本ハム時代の1998年に引退した。決意させたのは上田監督の様子だったようだ。本人から聞いた話である。

 ある試合の前、上田監督が「きょうどうする? どうする?」と顔色をうかがうように聞いてきたという。スタメンの相談である。やれる自信はあったが、意を酌んだ落合さんが「外れましょうか」と答えると、「そうしてくれるか」とホッとした表情を浮かべたという。これですべてを察した。

 「自分を高く買ってくれるところで野球をやる」と言い、ロッテ、中日、巨人、日本ハムと渡り歩いた主砲。ここで潔くユニフォームを脱ぐのが彼の矜持だった。

 納得するまで現役を続けることはできない。後進の芽を摘む可能性があるからだ。特に野手は控えだろうと代打だろうと確実に出場枠を取る。結果を出せなくなったスターほど居心地の悪いものはない。

 さて、落合さん。変人と言われる彼もさすがに人の子だったようで引退後こう言った。

 「不思議なもんでな、引退したとたんにモノがよく見えなくなったんだ。それまで何でもなかったのに」。あの異能の打者でさえ、気力が支えていたのである。

 中日では昨年限りで岩瀬、荒木が引退した。彼らを納得させるだけの後輩たちが出てくることを願う。まずはその気概だけはもってほしい。(増田護)

 

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