オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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「なんだアレは……」
モモンガたちは何故か帰り道にそこそこのモンスターたちと遭遇して夜にエ・ランテル近郊へ到着したが、外から見えたエ・ランテルは朝出発した街と同じとは思えなかった。
アンデッドが街を闊歩して、人間を襲っている。そのアンデッドの数は尋常で、モモンガですらそんな数を召喚できないと思うほどだ。
パッと見ただけで千体は超えている。死の騎士やスケリトルドラゴンなどの中級アンデッドが見当たらず、下位のアンデッドばかりなのが幸いか。冒険者たちがなんとか抵抗していた。
アンデッドの大量発生は自然現象ではないはずなので、おそらくは人為的な行い。あの数が自然現象だとしたらエ・ランテルなんて都市はできていない。
考えられるのは他の都市とも隣接する重要拠点の制圧。エ・ランテルはそれだけ重要な場所だし、ここを落とせれば王国の併合も容易くできるだろう。それにアンデッドというチョイスがいい。
何せ疲れを知らない不死の軍団だ。あれだけの数を召喚してしまえば都市に大打撃を与えるのも容易にできる。エンリの話だとアンデッドは嫌われているらしいが。
「くっ、早くエ・ランテルの中に入り込むぞ!住民にどれだけ被害が出ているか……!」
「応ッ!」
待機組のリーダーが号令をして一目散に向かって行く冒険者たち。こういう正義感が今回の任務へ手を出した理由なのだろう。実力を見誤るのは論外だが、好感はもてる人々だった。
モモンガたちもエ・ランテルが滅びれば次はカルネ村になる。エ・ランテルという場所がなくなれば農作物などを収めてお金にすることもできない。それにモモンガたちも冒険者組合的にはエ・ランテル所属なので、なくなったら拠点を移すなど面倒になる。
王国よりも他の国の支配下に収まる方が良いかもしれないが、エ・ランテルが都市として内側からなくなるというのは問題だ。交通の便にしても、戦争を続けるための拠点にするにしても、できるならエ・ランテルという都市の機能を残したままの方がいい。支配する側もできれば無傷で手に入れたい城壁都市のような気もするが。
モモンガも駆けていくが、後ろから馬が駆ける音が聞こえてきた。それはこちらに近寄ってきて、まるでモモンガたちの足を止めるかのように馬が止まった。
「何者だ!」
「そこの白銀の騎士!俺との一騎討ちを望む!」
「私ですか?」
馬に乗った男はパンドラを指名する。顔を見て気付いたが、レベル三十台の男だった。アジトから急いで来たらしい。
正直、構っている暇ではないのでモモンガはパンドラに目線を送る。意思疎通ができたのか、しっかりと頷いていた。
「私の主はモモン様です。彼の方に忠誠を誓う身であるので、命の賭け合いはできません。ですが、剣術ならばいくらでも披露いたしましょう!」
「おお、願ったり叶ったりだ!あの剣術が間近で見られるなら、それがいい。模擬戦もいいのか?」
「もちろん!ただし、今の騒動をどうにかしてからですが」
「ああ、すぐに解決してやる!その騒動ってなんだ?」
「エ・ランテルがアンデッドで溢れています。その討伐と元凶探し、ですね」
モモンガはパンドラとも情報を共有していたので、目の前の男の欲求は理解していた。丸く収めるために交渉をしたパンドラに脱帽していた。ここで時間を取られるわけにはいかない。
「ブレイン・アングラウス!?王国戦士長と並ぶ周辺国家最強の剣士じゃないか!」
「はっ。周辺国家最強の剣士は今日からそいつだよ。俺じゃ一太刀も与えられずに負けるだろうからな」
冒険者の一人が叫んだことで名前もわかったところで、この後を考える。近くにこの世界で言うところの強者は欲しかったところだ。レベルキャップやレベルの上がり方、あとは武技をどのように取得したのかなど聞きたいことはたくさんある。
それにパンドラの剣技ということは、たっち・みーの剣技ということ。それを見たいという心とそれに近付こうと差がわかっていながら邁進する野心をモモンガは気に入っていた。
「力の差がわかっていたのに、挑んだと?」
「ああ。たとえ負けると分かっていても、この高みを見ずして俺は何のために剣の道を進んできたのかわからなくなる。ガゼフよりも強い強者。そんな存在と出会って逃げ帰るなんて、一人の剣士としてできやしねえ」
「話はまとまったな?ブレインくん、私がパンドラの、あー、主のモモンだ。今回の騒動が終わったらじっくり話そう。パンドラ、お前は先行して私たちが潜入する道を切り開いてくれ」
「わかりました!」
パンドラは、それこそ全速力で駆けていった。動いている影すらすぐに視認できなくなるほどに。ぼそりと誰かが人間の速度じゃないと呟いたが、規格外だということでモモンガは何も口にしない。
「では我々も向かいましょう。パンドラと言えども限度があります」
「あ、ああ」
パンドラ一人でも大丈夫だとは思うが、それでもモモンガも他の冒険者の速度に合わせて走る。ステータス的にはもっと早く走れたが、魔法詠唱者が剣士より速く走るわけにはいかなかったのでそこそこに走る。
ブレインだけ馬だったので先にエ・ランテルへ向かってしまう。パンドラの剣技を見るためだろう。馬に乗っていけばよかったなと後悔したモモンガだった。
エ・ランテルの中は、どこもかしこもアンデッドだらけだった。パンドラがかなりの数を減らしているようだが、それでもまだまだいる。
そして街の中に入って気付いたことだが、建物などの被害が少ない。アンデッドの性質上生者を憎むということで人間ばかりを襲っている印象だ。
屋根の上にいたパンドラが降りてくる。ぬーぼーに変身して情報収集をしていたのだろう。
「モモン様、このアンデッドの発生源は墓地のようです!」
「ありきたりだが、堅実だな。ところでブレインくんは?先に向かったはずだが」
「近くにいますよ。私を見失ってアンデッドの相手をしています」
「彼も連れていくか。墓地には主犯がいるんだろう?」
「神殿のような物を発見いたしました。そこに生きている人間が十人ほど。魔法を使っているらしき人物は一人でしたが」
さすがの調査力だった。適当に魔法の矢を放ってブレインの近くにいたアンデッドを吹っ飛ばし、回収する。
「ブレインくん、力を貸してくれ。主犯が墓地にいるらしい。我々三人で元凶を叩こう」
「三人で?……いや、たぶんあんたも魔法詠唱者としてかなりのもんなんだろう?なら大丈夫か」
「ここだけの話、第七位階まで使える」
「なっ!?」
どうせパンドラに師事するということはカルネ村までやってきそうなので、さっさとタネばらしをする。人間の到達点が第六位階ということなので、高位の魔法を見られたら第七位階だということにしておこうと決めておいた。
二人の実力がバレる可能性は十分にあった。タレントだ。そういったものでバレた際にこの程度はできる、という線引きをしておこうと話していたがこうも早く使うことになるとは思わなかった。
この世界の人間にとって第七位階というのは未知の領域。全部その未知に放り込むという暴挙に出ただけ。
「何で冒険者、しかも駆け出しなんだ……?」
「戸籍が欲しかったんだ。私たちにはこの国の戸籍なんてないからな」
「南方出身か?それなら納得できるが……」
「そんなところだ。では行こうか」
パンドラが剣を振ったり、モモンガが第三位階程度の魔法を使って道を開いていき、その圧倒的な殲滅力に茫然としてしまったブレイン。
「すげえ……。いや、俺はあそこに辿り着くんだ。あいつらについていけば、あそこに並べるかもしれない……!」
ブレインも駆けだす。アンデッドの動きも気にしながら、パンドラの動きを見て何か一つでも会得しようとした。身体の動き、重心移動、力を入れる瞬間。差がありすぎたために、学べるものがたくさんあった。
気が付いたら墓地に辿り着いていたが、道中下級とはいえアンデッドを100体以上倒していて、その光景を見ていた冒険者たちがさすがはブレイン・アングラウスと評価する。
前を行く二人のことは、目に留まらない速度で倒していくために判断できなかった。
墓地の神殿の前。そこには全員赤黒の全身ローブを着て、フードで顔を隠した集団がいた。見るからに怪しく、今回の事件の首謀者たちだろう。周りにアンデッドがいるのに、襲いかかっていない。
何が目的かわからないが、良くないことをしようとしているのは明白だろう。人を襲っている時点でアウトだ。
「何者だ?」
「冒険者だ。お前たちは何がしたくて……この問答めんどくさいな。
「なっ!スケリトルドラゴン!」
問いかけてきた相手に向かってモモンガは魔法を放つと、土の中から大きな骨でできた巨大な龍が現れて、龍の形をした雷撃を打ち消していた。アンデッドばかり召喚しているので何となく予想はしていたが。
「スケリトルドラゴンには魔法への絶対耐性がある!たとえ凄腕の魔法詠唱者でも敵うはずがない!」
「魔法への絶対耐性?ああ……。逸脱者でも第六位階だったか。パンドラ」
「はっ」
一太刀。それだけで充分だった。巨大な身体は粉砕していき、そこら中に骨の破片が転がっていた。
レベル差というのは、有利不利をなくしてしまうほどに絶対なものだった。堅いアンデッド相手なら鈍器の方が良いのだが、スケリトルドラゴンは精々10レベル後半。100レベルのパンドラには本当にただの雑魚だった。
モモンガでも杖で殴るという手段で倒せただろうが、そんなことをする魔法詠唱者なんていないだろうからパンドラに任せた。ブレインが近接攻撃について教えてくれと言ってくるのを避けるためだ。
「エ・ランテルがなくなると困る。隠れてる奴も出てこい。夜遅いからさっさと帰らないと心配するだろ」
「子どもが帰宅時間を気にするような気軽さで来るんじゃないわ!こちらは長年かけて死の螺旋を引き起こしているというのに!」
「死の螺旋とやらは知らんが……。そこの柱の陰に隠れてるやつ。さっさとしろ。子どもが寝る時間に帰れなくなるだろ」
「アハハハハハっ!そんなに時間が大切ぅ?このクレマンティーヌ様を前にずいぶんと余裕じゃねえか!」
柱の影から出てきたのは軽装備の女。見たところ近接が得意そうな女なのでパンドラに任せることにする。
「パンドラ、ちょっと離れた所であの女倒してこい」
「畏まりました」
「時にブレインくん。君はアンデッドと戦ったことはあるか?」
「あるけどよ、そこまで数は多くねえな。冒険者だったわけじゃねえし」
「ならちょうどいい。そこの男が召喚するアンデッドを倒してくれ。私と君がいればその人数でも問題ないだろう」
「ああん?いいのかよ。私と互角に戦える戦士はそこのブレイン・アングラウス含めて片手で収まるくらいしかいねーぞ?」
クレマンティーヌはそう宣言する。その数少ない内の一人をぶつけなくていいのかと問いているのだ。
「スケリトルドラゴンを一太刀で倒せるパンドラなら問題ないと思っただけだ」
「パンドラ、ねえ。聞いたことない名前の上にその装備。蒼の薔薇のラキュースと同じで装備が凄いだけの、技量はないポッと出の思い上がりでしょ。法国で名前を聞かない強い奴なんているわけないし」
その言葉を聞いて、一瞬動きが止まる。法国。それは仮想敵国として最も警戒しなければならない相手だ。こんな所にいるとは思わなかったが。
「法国の関係者か?パンドラ、予定変更だ。そいつを生け捕りにしろ。それぐらい可能だな?」
「問題ありぃません!ちなみに何をしても?」
「許す。俺の本当の名にかけて全てを許す」
「……はっ。ご勅命、賜りました」
パンドラは胸に手を当ててモモンガの命令を受諾する。法国はカルネ村に攻め入った悪逆国家だ。その関係者がここで大事件を起こしているのだから、見逃す理由も慈悲をかける意味もない。
「ブレインくん。私の常識では、強くなるには数多くの戦いが、それも人間ばかりの相手ではなく様々な種族を相手にするのが良い。私がここまでの強さを手に入れたのは仲間たちと様々な戦場を駆けたから。それ以外に方法は知らない。だからこそ、アンデッドとの相手というのは強くなるための一つ目の指針だ。あとは少し強めの敵と戦うと良い。強者との戦いは学ぶことが多い」
「モモン、さん……。あんた、オレのことも考えて……」
「呼び捨てで構わないさ。対等な友人も欲しいと思っていたし。さて、事件の解決と君の修業。どちらもこなそうか」