当院は開業30年を迎えるが、細々と担当している、『寄生虫外来』の現状に触れてみたい。
戦前、戦後の寄生虫感染症といえば、『回虫症』、『鉤虫症』、『鞭虫症』の土壌伝播線虫症が代表だった。農業に人糞を使用していたからだ。現代でも、食に関わる寄生虫感染症が主流。特に多いのが、サバ、イカ、タラなどを食べたあと、急にお腹が痛くなる『アニサキス症』。夜間に発病することが多く、緊急胃内視鏡で確認。以前、NHKの番組に提供した当時、年に5~6件経験した。今は寄生虫予防教育の普及によって激減しているが、油断は禁物。サケ、マスを食べたあとに感染するのが『サナダ虫』(日本海裂頭条虫)。排便中に『ヒモのような白い条虫破片』を見ることで発見される。最近、珍しくなくなったのが、ホタルイカを食べたあとに、皮疹が現れ、皮疹が移動する『施尾線虫症』、ハタハタ、スルメイカ、スケソウダラの内臓にもいる。『爬行感染症』とも言われる。当院でも7件経験した。従来から経験するのが、海外帰国組にみられる『顎口虫症』。感染幼虫は人の体内で成虫になれないため、内臓や皮下組織を移行してまわり、発疹や『移動性腫瘤』を引き起こす。『顎口虫』は、一般にはネコ、イヌの胃粘膜に寄生している。第1中間宿主はミジンコ、第2中間宿主はライギョ、ドジョウ、トノサマガエルなど、淡水魚や両生類、爬虫類などに広く宿っている。日本では中国、韓国から輸入するドジョウ稚魚の『おどり食い』が主な原因と思われる。余り、有効な治療薬がなく、移動中の虫体を検出するしかないやっかいな寄生虫症である。全身2~4cm大の腫瘤が移動すると長崎から来院。私の高校の後輩だった。他医療機関で切除をお願いしたところ、世界でも珍しい『マンソン孤虫症』(3cm大)が確認され、日本では2例目として学会でも発表された。治療薬はなく、切除するしか方法はない、まことに厄介な怪虫(?)である。淡水産のカニ、サワガニ、ズワイガニ、上海ガニなどを食べた後に感染するのが『肺吸虫症』、これを発見するのに苦労するが、たまたま肺レントゲンで肺癌と診断され、手術後『肺吸虫症』と確認された例も多い。
なお、全国から体に虫が這う、ムズムズする、コブが出来ると訴える人々が集まってくるが、すでに複数の医療機関を訪れて、精神病と診断されることが多い。本人は納得せず悩んだすえ、当院に来られ、色々な寄生虫の幼線虫移行症だったり、マンソン孤虫症のような怪虫も発見され、大変感謝されている。
私自身のことで、新しい事件があった。有名な寿司屋でヒラメを食べた数時間後、腹痛、嘔吐、下痢が始まり、初めて救急車のお世話になった。救急病院で食中毒が原因と片付けられたが、実は『クドアセプテンプンクタータ(別名ナナンホシクドア)』という花びらのような美しい姿をした寄生虫が原因と思われる。症状が激しい訳に、症状が一過性で、私の場合、翌朝に何事もなく略治し、外来診療に専念した。この場合、検便で寄生虫を確認することは難しく、食べ残したヒラメ片をチェックすることで、正しい診断につながることになる。馬肉による『サルコシスチスフェマリー』もそうだ。
次回は重症となる寄生虫に触れてみたい。