「千葉セクション」の国際標準模式地認定へ向けた審査状況について

概要
国際標準模式層断面とポイント(GSSP)およびその時代名としての【チバニアン】の審査状況は,第二審査へ進む段階で一時中断しています.一時中断の理由は,日本国内の団体メンバーから審査を行っている国際地質科学連合(IUGS)へ,申請に疑義を投げかけるメールが送付され,IUGSの対応としてその真偽を検討するためです.
日本の申請チームは,IUGSからの求めに応じて,詳細な事実関係を記した報告書を2018年5月17日に提出しました.
今回提出する報告書の内容は,チバニアンの申請書の研究データが科学的に正規の研究手順を踏んで得られたもので,
疑義を挟む部分はないことを示す説明とその証拠資料です.
今後,IUGSにおいて報告書についての真偽が検討され,疑義がないと裁定されれば,チバニアンの審査再開となる予定です.

2018年11月17日にIUGS内のSQSにて行われた投票結果が公表されました.

投票結果
賛成:19票,反対1票,棄権2票

以上の結果,「前期‐中期更新世境界」のGSSPとして「千葉セクション」が認められ.上部の委員会に答申されることになりました.
この審査の中では,日本国内の団体メンバーによって提起された疑義についても議論され,科学的な疑義はないと判断されました.

しかし,この「日本国内の団体メンバー」による妨害活動は依然として継続しております.
従って,以下の審査状況に関する説明はこのまま残します.


1.【はじめに】
地質時代の一区分である「新生代第四紀更新世」は前期・中期・後期に3区分され、そのうちの、前期と中期を区分する基準となる地層断面を、日本の千葉県市原市田淵の崖とする提案がされています(現地を「千葉セクション」と呼んでいます)。その審査は、IUGS(国際地質科学連合)によって行われ、4段階の審査に分かれています。第一段階である作業部会では、イタリアの2地点と日本の千葉が提案されましたが、2017年11月の作業部会の投票の結果、上位委員会へ答申される候補地として千葉が選出されました。この提案が最終的に採択されれば、中期更新世の時代は、我々千葉セクションGSSP申請チーム(以降、「申請チーム」とします)が提案する「チバニアン」の名称が用いられ、地質時代境界を決める「国際標準模式層断面とポイント」(GSSP)として、さらに日本の地名由来の地質時代名称として初のものとなります。
しかし、現在この審議は、「古関東深海盆ジオパーク認証推進協議会」(以降、「推進協議会」とします)という団体のあるメンバーが、申請チームの研究に科学的疑義を投げかけるメール(参考資料4参照)を作業部会メンバーへ送ったことによって、一時中断されています。「推進協議会」メンバー(申請チームでは未確認ですが、自らメンバーと称しているため、このように表記します。以下同様に表記)は、本申請の基となった研究成果には不正があるとの主張を行い、この主張を作業部会の審議で落選したイタリア研究チームの関係者を含む複数の作業部会メンバーや、より上位の委員会メンバーへ送付しました。この主張に対し、イタリア研究チームが科学的検証なく強い賛同を示したことから審査は一旦中断され、作業部会、場合によってはIUGSにおける更に上位の委員会で「推進協議会」メンバーの主張についての真偽が裁定されることになりました。また「推進協議会」側は、これ以前にも同様の主張を記した多数の看板等を現地に設置し、さらにその代表者が同様の主張を複数の雑誌へ寄稿(*注1)するなどしています。
申請チームの研究活動には、こ疑惑を向けられるような行為はありませんが、自らの研究活動を再確認すると共に、研究の科学的正当性を主張する報告書を、まず作業部会に提出いたしました。この報告書は作業部会で審議されたのち、IUGS内のより上位の委員会で検討される見込みです。
これまで申請チームは、先に続くGSSP審査に必要な追加論文の作成等に注力するために、「推進協議会」側が行ってきた現地での看板や雑誌への寄稿など事実と異なる主張に基づく活動に対しては静観の姿勢を貫いてきました。しかしGSSP審査自体が一時中断に追い込まれたことを考慮し、「推進協議会」側の一連の活動は決して看過できないと認識するに至りました。このため、申請チームは「推進協議会」側の主張と一連の活動に関する事実関係を公表いたします。


2.【メールにおける「推進協議会」メンバーの主張と事実関係】
「推進協議会」メンバーの主張の概要は、「①申請チームは2015年夏に千葉セクションに設置した地磁気逆転を示す杭表示の一部に、実際とは異なる崖からのデータを使用した;②真の千葉セクションからのデータが出版されていないのは、申請チームが『地磁気逆転をねつ造している』からだ;③申請チームは千葉セクションを天然記念物に指定することで、第三者が現地に近づけないようにし、ねつ造の事実を永久に覆い隠そうとしている」としています。
これらの主張に対して、申請チームは自らの研究活動を検証し、その事実関係を下記の通り確認しました。



3.【事実関係の詳細説明】
これらの内、①、②に対する事実関係の詳細説明を示します。

①に関する事実関係の詳細
問題となっている杭表示は、2015年7月〜8月に名古屋で開かれた国際第四紀学連合(INQUA)の現地での見学旅行(巡検とよばれるもの、8/3-4に実施)のために行われたものです。地層中に保存されている過去の地磁気(古地磁気)データは、現地では目視できないものであるため、見学者への教育・普及の目的で設置されたものでした。

○ねつ造との主張に関する事項:杭表示のデータ提供依頼
・2015年6月中旬頃に「推進協議会」代表者から、古地磁気担当である岡田誠(茨城大学)へ、杭表示のためのデータ提供依頼があった
・この当時は現地の最上部の詳細データがなかったが、現地での見学説明(教育・普及)で必要と判断し提供することにした
・試料を採取した場所が違うが、説明で使用するには十分なデータがすでに科学雑誌で公表されていたため、このことを伝えた上で、データを提供(2015/6/22 メール文章有り)。この最上部に相当するデータは、現地から約1.7km離れた場所にあり、火山灰層対比によって同じ時期の地層だと理解されている地層から得られた(Suganuma et al., 2015)
上記のとおり、「推進協議会」代表者は、このデータが違う場所のものであることを了解していました。加えて、現場の杭表示は、研究発表ではなく、現地の見学を行いやすくするために設置されたことから、研究上の「ねつ造」といった行為ではありません。

○改ざんとの主張に関連する事項の事実関係
・「推進協議会」によって現地に地磁気の方向を色の違う杭で示す表示が行われた
・杭の色については、現在と逆方向を示す地層を赤色、現在と同じ方向を緑色、中間的な方向を黄色で示された
・申請チームの古地磁気担当である岡田と菅沼悠介(国立極地研究所)より、黄色で示すものとしては、中間的な方向のものではなく、地磁気の極性が反転する時期を示す論文中で定義した「極性遷移帯」とした方がよいとの提案をした
・「推進協議会」代表者にメールで杭表示の変更を依頼し、「了解しました」と回答(2015/7/6 メール文章有り)
・見学旅行で行われる現地見学の直前になっても表示の変更が行われないため、2015年7月下旬に、菅沼が変更の必要性についての理由(下記の参考:極性遷移帯を表示する依頼をした詳細な理由を参照)を、「推進協議会」代表者へ口頭で再度説明し、杭表示を論文 (Suganuma et al., 2015) に合わせることを依頼した
・現地見学会の実施前に「推進協議会」によって依頼通りに杭表示が変更された
・見学旅行(2015年8/3-4実施)が実施された。イタリア・日本の申請者を除く投票権を持つ審査委員11名のうち、この見学旅行に参加したのは2名でした
「推進協議会」は、この杭表示の変更のことを「改ざん」と主張しています。しかし申請チームは、「推進協議会」が現在の科学的知見では間違った表示を行っていることに対して、科学雑誌で認められた科学的にみて正確な表示への変更を求めたものです。

(参考:極性遷移帯を表示する依頼をした詳細な理由)
岡田および菅沼が2015年の見学旅行前に杭表示の変更を依頼した理由は以下の通りです。
一般に、地層中に含まれる過去の地磁気データには、本来の地磁気の変動に加えて、現在までの様々な環境変化の影響や精密な測定に由来する不要なデータ(ノイズ)が含まれています。このノイズを取り除くための研究が、多くの研究者によって長年取り組まれてきた結果、現在の分析方法ができました。そのため、分析したデータをそのまま地磁気の方位として示すことは適当ではありません。また、過去の地磁気を研究する古地磁気学での現在の理解では、地磁気が逆転するには一定の期間がかかります。その期間について地層から認められる場合は、それを「極性遷移帯」として示し、地層中における地磁気の逆転境界を「極性遷移帯」の中間に設定することが一般的です(Vallet et al., 2014; Channell et al., 2017など)(下図参照)。


上記の様なこれまでの研究による理解から、申請チームも千葉複合セクションのデータについて同様の扱いとしています(Suganuma et al., 2015)。以上の理由で、岡田・菅沼は、論文と同様の杭表示をお願いすることにしました(下図参照)。





従って,「推進協議会」が主張する「改ざん」は論文の定義の確認不足による勘違いと言えます(下図参照)。
前述のように、現在の科学的知見では間違った表示を行っていることに対して、
科学雑誌で認められた科学的にみて正確な表示への変更を求めたのみにもかからわず、
一方的に「改ざん」として多数の看板等を現地に設置し、さらに複数の雑誌へ寄稿されていることは大変残念な状況です。




以下,論文で用いられた図および表を示します。

Suganuma et al. (2015; Geology)に掲載されたFig.1。
Fig. 1のVGP latitude (˚) 左の紫色の棒、およびsupplementary table中の紫色部分が「極性遷移帯」を示します。
千葉複合セクションの複数カ所からサンプルを取ったことが明記されています。

Suganuma et al. (2015; Geology)に添付したデータ表 Supplementary table 1
試料番号のTBH***は千葉セクション(田淵)の、YNG***は柳川の試料であることを示す。


Suganuma et al. (2015; Geology)に添付した地層とサンプリング位置の図 Supplementary figure 2
同時に降り積もった火山灰層を使って、同時代に堆積した異なる壁面の地層を繋いでいく(対比する)ことは
地質学における基本的な手法でありこれを「捏造」とは呼びません。


○杭表示が現地データでないことの説明不足に対する対応
・現地の杭表示は、教育・普及上の観点から重要であったのですが、2015年のINQUAで行われた現地見学において、その説明が現地でなされていなかったこと(案内者には「推進協議会」代表者も含まれます)や、一般の方も見学にくる現地で適切な表示が行われていなかったことは、申請チームとして反省・謝罪すべき点であると考え、この事実および謝罪を学会や記者の方へ公表いたしました
  *2016年9月20日 共同通信/産経・日経・千葉日報など (https://www.chibanippo.co.jp/news/national/351972) 

・2016年8月に南アフリカケープタウンで行われた万国地質会議(IGC2016)において、岡田の発表の中で「杭表示についての説明不足の件」について説明するとともに、現地で新たに採取した地磁気データについて公表
・2016年9月に千葉大学で行われた日本第四紀学会において、「杭表示についての説明不足の件」についてのお詫びと新たな地磁気データを報告
・この件について、新聞報道がなされた(*注2)
・GSSPの申請書において、2015年の見学旅行における「杭表示についての説明不足」の追加説明を含め、千葉セクションから新しく得られたデータについて詳細に説明した。


②に対する事実関係の詳細
「推進協議会」メンバーは、申請チームの一連の研究には千葉セクション現地での古地磁気データがなく、申請書に記載されたデータはねつ造・改ざんによるものだと主張しています。
○現地のデータの存在(下図参照)
・現地において、世界最高水準の時間解像度で地磁気逆転の記録が得られており、その結果が2017年3月にEarth Planet and Space誌より出版された(Okada et al., 2017)
・千葉セクションの近傍で掘削されたボーリング試料からも同様の結果が別の研究グループより報告されている(Hyodo et al., 2016)。
・GSSP申請書では、この論文で記載したデータをもとに千葉セクションの重要性を説明した

現在,千葉セクションで確認できる地磁気データ
この地域での先駆的研究,Niitsuma(1971),新妻(1976),Okada & Niitsuma (1989),Aida et al., (1996)の基盤の上に,    
Suganuma et al.(2015)に加えて,2本の論文(Hyodo et al., 2016 & Okada et a., 2017)で地磁気逆転が確認されたことによって,
千葉セクションのGSSP提案が採択される強い科学的な根拠となった.



○「推進協議会」が現地のデータを知らない可能性はない
・2016年2月より複数回にわたって「推進協議会」代表者に直接伝えてきた
・岡田が新しいデータを公表した万国地質会議や日本第四紀学会にも「推進協議会」代表者は参加している
・「推進協議会」が現地のことを紹介するために配布している「絵はがき」でも、現地のデータを公表した論文(Okada et al., 2017)が引用されている
以上のことから、「推進協議会」代表者やその関係者が、新しいデータの存在を知らなかった可能性はないと判断できます。



4.【GSSP審議の中断以外の問題点】
「推進協議会」は、千葉県下におけるジオパークの認定を目指して2009年に設立された団体ですが、ジオパークの認定に重要である地元自治体との協力関係はありません(*注3)。そして、ジオパーク未認定にも関わらず、冒頭で記したイタリア研究チーム、作業部会関係者、IUGSの上位委員会メンバーに宛てた「推進協議会」メンバーの英文メール中で「Council of the Paleo-Kanto Great Depth Submarine Basin Geopark(和訳:古関東深海盆ジオパーク協議会)」と正式に認定された「ジオパーク」であるかの様な名称を名乗っています(*注4)【参考資料4, *a】。また、「推進協議会」の活動は、次のような問題を含んでいます。 

○科学への不信感を抱かせる可能性
「推進協議会」が主張する申請チームの研究不正疑惑は、「推進協議会」代表者による雑誌への寄稿や現地の看板設置などで展開されています。この代表者は、地層の研究に関する名誉教授の称号を持ち、内閣府認証NPO法人理事長などを務める学術的・社会的に責任のある立場の方です。科学上の疑義がある場合、一般的な方法として、学会や研究論文雑誌など、専門的な研究者が研究データを吟味する場において主張されるべきものです。
研究不正行為は、一般の方々への科学研究に対する不信感を著しく募らせることから、科学者全員が自らの研究に対する姿勢を常日頃から見つめ直す必要があるといえます。しかし、正しい手続きによって行われている研究に対して、一方的な発言等を繰り返すことは、我が国の科学研究の発展を阻害するものであるのは間違いなく、一般の方にとっては、正しい科学研究への理解を妨げ、普及や教育の観点からも大きな問題であるといえるでしょう。

5.【今後の予定】
現在、申請チーム作成による報告書をIUGSの作業部会に提出しています。この報告書に基づき、今後IUGSの委員会等で申請チームの研究および申請書についての真偽が検討されますが、これまでご説明したように申請チームの研究には、不正となる点はありませんので、公正な判断が下されることを信じております。
その判断後の展開については予断を許さない状況ですが、いつ審議が再開されても対応できるよう、各審議に向けて申請書へ追加情報の記述などの作業を続けて行きます。さらに、現地の保護に影響が生じぬよう関係機関に対して協力を続けて参ります。
先行き不透明な状況ではありますが、今後も千葉セクションのGSSPや【チバニアン】採択に向けたご支援をよろしくお願い申し上げます。

*注1) 楡井 久、 健全な環境科学・基礎科学のために、 「産業と環境」、2017、8・9月号、p2-13。
楡井 久、日本は「科学技術倫理」を見直すときだ、「潮」、2018、3月号、p146-149。

*注2)2016年9月20日 共同通信/産経・日経・千葉日報など
産経デジタル (https://www.sankei.com/photo/daily/news/160920/dly1609200007-n1.html)
千葉日報オンライン (https://www.chibanippo.co.jp/news/national/351972) 

*注3) 日本ジオパークネットワーク(JGN)によると (http://www.geopark.jp/geopark/member.pdf) 古関東深海盆ジオパーク推進協議会(代表:楡井久氏)は、2011年にジオパークを目指す団体として、日本ジオパークネットワーク準会員となっています。ジオパークと認定されるための活動には、関係市町村もしくは県(行政)の協力が不可欠ですが、「古関東深海盆ジオパーク推進協議会」は、JGNの正会員、準会員、および登録はしていないが関心があるとしている地域のすべての中で、唯一地元自治体と関係をもたない団体です(http://www.geopark.jp/geopark/jgn-lg.pdf)。

*注4) 日本ジオパークネットワーク(JGN)による申し合わせ事項として、「ジオパーク」の名称使用は日本ジオパークに認定された地域に限定する、としています(http://www.geopark.jp/contact/pdf/mousiawase.pdf)。それ以外の場合は、認定されていないことが明確になるように表示することが求められています。「推進協議会」は、日本名はこの申し合わせ事項に沿っていますが、今回のメール上の英語による団体名称は日本語名称を英訳したものとはなっていないため、申し合わせ事項には沿っていないといえます。
メール上での表記:Council of the Paleo-Kanto Great Depth Submarine Basin Geopark
JGN登録英語名:Council of the Paleo-Kanto Great Depth Submarine Basin Geopark, Plan


6.【参考文献】
Channell J.E.T. (2017) Complexity in Matuyama–Brunhes polarity transitions from North Atlantic IODP/ODP deep-sea sites. Earth Planet Sci Lett., 467:43-56. doi:10.1016/j.epsl.2017.03.019

Hyodo M., Katoh S., Kitamura A., Takasaki K., Matsushita H., Kitaba I., Tanaka I., Nara M., Matsuzaki T., Dettman D.L., Okada M. (2016) High resolution stratigraphy across the early-middle Pleistocene boundary from a core of the Kokumoto Formation at Tabuchi, Chiba Prefecture, Japan. Quaternary International, 397: 16-26. doi:10.1016/j.palaeo.2010.02.037

Okada M., Suganuma Y., Haneda Y., Kazaoka O. (2017) Paleomagnetic direction and paleointensity variations during the Matuyama-Brunhes polarity transition from a marine succession in the Chiba composite section of the Boso Peninsula, central Japan. Earth, Planets and Space, 69:45. doi:10.1186/s40623-017-0627-1
https://earth-planets-space.springeropen.com/track/pdf/10.1186/s40623-017-0627-1

Suganuma Y., Okada M., Horie K., Kaiden H., Takehara M., Senda R., Kimura J., Kawamura K., Haneda Y., Kazaoka O. and Head M.J. (2015) Age of Matuyama-Brunhes boundary constrained by U-Pb zircon dating of a widespread tephra. Geology, 43: 491–494. doi:10.1130/G36625.1

Valet JP, Bassinot F, Bouilloux A, Bourlès D, Nomade S, Guillou V, Lopes F, Thouveny N, Dewilde F (2014) Geomagnetic, cosmogenic and climatic changes across the last geomagnetic reversal from Equatorial Indian Ocean sediments. Earth Planet Sci Lett., 397:67–79 


*****************(参考資料)****************
【参考資料1:問題の経緯】
「千葉セクション」をGSSP候補地とする活動は、1990年ごろから大阪市立大学教授(当時、現名誉教授)の熊井久雄氏が先頭となり行われてきました(参考資料3)。この当時の活動は、1995年の国際第四紀学連合(INQUA)ベルリン大会まで精力的に行われました。「推進協議会」は、この当時に、現地の案内や調査を行っていた方々が主体となって設立され、地元の方々と協力して、GSSP候補地である「千葉セクション」の整備に尽力されてきました。
千葉セクション申請の動きは、この時代境界のGSSPの検討が停滞していたこともあり、しばらくの期間は大きな動きがないままでしたが、2006年に、千葉セクションを含むいくつかの地点を候補地として、再度検討する国際的な動きが起こったことから、再度検討が進められました。
現在の申請チームは2013年に再編され、代表者が熊井氏から岡田誠(茨城大学)へ引き継がれました。再編された当時は、「推進協議会」の中心メンバーである代表者らも、現在の申請チームと協力してGSSP申請を行うチームとして活動をしてきました。
ここ数年(2016年頃から)、「推進協議会」は我々GSSP申請チームの活動を批判する動きを見せるようになり、千葉セクションの杭・看板の表示、雑誌や一般講演会などを通して、申請チームの「古地磁気学者」が現地の杭表示において、データの「ねつ造・改ざん」を行い、GSSP申請書も「ねつ造・改ざん」データに基づいたものであるとの主張を繰り返しています。
このことについては、前述の資料のとおり、申請チームの研究活動には研究不正はなく、新たな研究成果も踏まえ、また競合する申請チームであるイタリア研究チームの研究成果情報を踏まえながら、不足している研究データを補うことで、GSSPの申請の締め切り(2017年6月)に向けて、申請書の作成に尽力してきました。そのため、「推進協議会」の活動を知りながらも、静観する立場を取ってきました。
2017年11月、「推進協議会」代表者による「ねつ造・改ざん」主張が記された記事が雑誌に寄稿され、2018年1月にかけて現地で彼らの主張を示した看板設置および階段建設が大規模に行われました。さらに2018年2月、「推進協議会」メンバーから、その主張を示したメールが複数のGSSP審査委員に送付されました。この時は、IUGS作業部会議長から「杭表示の誤りについても申請書に記載されており、その上での投票結果であった」ことが返答されました。
2018年4月8日には、「推進協議会」の別のメンバーから、同様の主張を示したメールがGSSP審査委員だけではなく、複数のイタリア国内のGSSP関係者に送付されました。このため、IUGS最上位委員会のイタリアメンバーを含め、イタリア研究チーム関係者による強い主張によって審議は一時中断し、IUGS内に設置される別の「委員会」で彼らの主張する「ねつ造・改ざん」の真偽を裁定することになりました。
「委員会」から申請チームに対して、事実関係を説明するための報告書の提出が指示され、報告書を提出いたしました。

【参考資料2:杭表示に関する時系列による事実関係】
・2015年6月中旬
INQUA 2015 (国際第四紀学連合名古屋大会、会期:2015年7/27-8/2)の千葉セクション巡検(8/3-4)に備えるため、「推進協議会」代表者から古地磁気担当者である岡田へ、田淵露頭で極性の杭表示を行うので地磁気データを提供してほしい旨の依頼があり、岡田はSuganuma et al. (2015) のデータを提供しました。この際、千葉セクションのByk-E火山灰層(白尾テフラ)の50cmより上の層位には地磁気データはなく、1.7 km離れた柳川から得られた同火山灰層を基準とした地層のデータである旨を伝えました(2015/6/22 メール文章有り)。「推進協議会」代表者によって千葉セクションに極性を示す杭表示が行われた後、古地磁気担当者である岡田・菅沼の間で黄色表示は中間極性(VGP緯度が±45°以下のもの)ではなく、論文中で定義した「極性遷移帯」にした方がよいのではないかと相談しました。「推進協議会」代表者にメールで杭表示の変更を依頼したところ、「了解しました」と回答がありました(2015/7/6 メール文章有り)。
・2015年7月下旬
杭表示変更依頼については、INQUA 2015の会期中においても杭表示の変更が行われていませんでした。菅沼が口頭で上記の理由を「推進協議会」代表者に再度説明し、杭表示を論文に合わせることを依頼しました。このように、千葉セクションにおける地磁気逆転の杭表示は「推進協議会」代表者の依頼によって行われたものであり、提供したデータも、千葉セクションだけでなく、近隣地域の同じ時代のデータが含まれている旨も当初より伝えていました。
・2016年
2016年8月の南アフリカケープタウンにおける万国地質会議(IGC2016)において、岡田が、上記の巡検における「杭表示についての説明不足の件」について説明し、新たに採取した千葉セクションの地磁気データについて発表しました。また、2016年9月の千葉大学で行われた日本第四紀学会においても、「杭表示についての説明不足」についてのお詫びと新たな地磁気データを報告しました。このお詫びについては新聞報道されました。
・2017年
千葉セクションから得られた新たな地磁気データは、2017年3月にEarth Planet and Space誌より出版されました(Okada et al., 2017)。2017年6月に提出したGSSP申請書はこのデータを元に書かれています。また、GSSP申請書中において、2015年の見学旅行における「杭表示についての説明不足」に対する補足説明を含め、千葉セクションから得られたデータについて示しました。
・2017年11月
国際地質科学連合(IUGS)の作業部会で、3カ所の候補地(千葉セクション、モンタルバーノ・イオニコ、ヴァレ・デ・マンケ)から、上位の会議に答申する候補地を選ぶ投票が行われ、千葉セクションが選ばれました。なお、この審査は提出された申請書を基に行われています。


【参考資料3:千葉県の地層が境界の候補地の一つとしてあげられた経緯】
○1990年12月
日本第四紀学会の委員会で千葉県の地層が候補地の一つとして取り上げられることが報告されました(日本第四紀学会、1991)。ここでは、INQUA Subcommission on Major Subdivisions of the PleistoceneのChairmanであったG. M. Richmond氏より房総半島が有力な候補地として考慮されている手紙が、アジア太平洋層序委員会(1982年INQUAモスクワ大会でSub-commissionとして組織された)の委員だった熊井久雄氏(当時、大阪市立大学教授)と市原実氏(大阪市立大学名誉教授)に届いており、その対応を検討していることが報告されました。なお、この手紙は1990年10月に熊井氏と市原氏が受け取ったもので、これと同時にRichmond氏がChairをつとめる前述委員会のメンバー全員へ向けて、この時代区分の基準となる地層の議論をするとの趣旨で送られた手紙とともに送られたものでありました。
○1991年7月
日本第四紀学会誌「第四紀研究」の論文(Kumai, 1991, 第四紀研究, 30, 131-140)において、日本の第四紀の地層について、この当時までの知見をまとめるとともに、Introductionにおいて、1991年8月に北京で行われるINQUAで、更新統の細分についてのシンポジウムが企画され、前期・中期更新世境界の模式となる地層として房総半島(千葉県)の地層を候補地の一つとして提案している事が述べられています。なお、この論文の投稿は3月、出版は7月でした。
○1991年8月
INQUA第13回大会(1991年8月2-9日、中国・北京)で行われた層序委員会にて、第12回大会(1987年カナダ・オタワ)でワーキンググループとして発足したSubcommission on Major Subdivisions of the Pleistoceneにおいて、委員長にG.M. Richmond氏、副委員長に熊井久雄氏が選出されました。下部・中部更新統境界の候補地として、日本(房総)、ニュージーランド、イタリアなどがあげられました(熊井久雄,1992;日本第四紀学会、1992)。
○(参考)〜1991年8月
INQUA北京大会でアジアに訪れていたRichmond氏への案内として、熊井氏が中心になって、地元研究者ら(楡井久氏、風岡修氏ほか)とともに、千葉の候補地を含む養老川沿いの地層の案内をしました(公式記録はなく、伝聞であるが、熊井久雄(2014)にこれに関する記述がある、年代は不明)。
○1992年9月
日本第四紀学会評議委員会において、INQUAの研究委員会「Commission on Quaternary Stratigraphy、 Subcommission on Major Subdivisions of the Pleistocene」に対応する日本第四紀学会の研究委員会として、上・中・下部更新統境界に関する研究委員会(責任者:熊井久雄)の設置が承認されました(日本第四紀学会、1992)。
○1995年1月
1月28日に、日本第四紀学会講演会「中・下部更新統模式セクションに関するシンポジウム(房総半島の候補地について)」が東京大学理学部2号館2階地理学教室講義室を会場として行われました。発表者:熊井久雄(大阪市立大学)、風岡修(千葉県地質環境研究室)、会田信行(千葉県立佐原高校)、原雄(千葉県廃棄物情報センター)、五十嵐厚夫(東北大学)、小林巌雄(新潟大学)(日本第四紀学会、1995)。
○1995年4月
平成7年度科学研究費補助金(総合研究B、代表:熊井久雄、課題番号:07354011)の採択。記録に残っている分担者は、小林巌雄(新潟大学)、菊地隆男(東京都立大学)、斉藤常正(東北大学)、高山俊昭(金沢大学)、吉川周作(大阪市立大学)。
○1995年8月
第14回INQUA大会(1995年ドイツ・ベルリン) にて、下部・中部境界の候補地に関するシンポジウムが行われた(Major divisions of the Quaternary、 chair: Richmond、 G.M.)。この時の報告はニュージーランドのWanganui Basinと日本の千葉について行われ、日本の千葉についての発表者は、熊井久雄(大阪市立大学)、楡井久(代読:宮川*これは報告者の勘違いで実際は里口)、里口保文(大阪市立大学)、五十嵐厚夫(東北大学)、真野勝友(筑波大学)、会田信行(千葉県立佐原高校)。同INQUA大会中に行われたCommission on Stratigraphy研究委員会では、イタリアVrica周辺地域、ニュージーランドのWanganui Basin、日本の千葉の3カ所が候補地として上がっており、シンポジウムの報告を受けて模式地に関する活発な議論が行われた。イタリアからは1948年のロンドンで行われたIGCでの了解事項として「第四紀の模式地は地中海で設定する」との申し合わせがある等の意見があり、ChairのRichmond氏からは、この会議の場で投票によって決めようと提案があったが、時期尚早とのヨーロッパの委員からの反論によって、議論は北京で行われるIGCまで持ち越しとなった(米倉、1996)。
○1996年3月
Workshop for Quaternary Stratigraphy of Boso (1996) Stratigraphy of the Quaternary Sediments in the Boso Peninsula on the Pacific Ocean, Central Japan. Internal Research Group for the Lower-Middle, Middle-Upper Pleistocene Boundary, Japan Association for Quaternary Researchの出版。執筆者は,Kumai, H.、Workshop for Quaternary Stratigraphy of Boso、Satocguhi, Y.、 Igarashi, A. 、Kamemaru, A.、Nirei, T.、Mano, K.et al.、Aida, N. et al.、Hara, Y. et al. 、Sakai, J. et al.の10編。
○2006年10月
日本第四紀学会の委員会報告(層序年代学委員会、代表:三田村宗樹)において、Commission on Stratigraphy and Geochronology(委員長:Prof. Brad Pillans)では、第32 回IGC(2004、イタリア)での中/前期更新世境界の国際模式層断面及びポイント(GSSP) の設定にあたって、提案のあった3つの候補地、南部イタリアのMontalbano Jonico sectionとValle di Manche section、日本の千葉セクションから選定する方向で、議論がなされていることが報告されました(三田村・熊井、2006)。
○2011年 1月
中・下部更新統境界国際模式地に関する国際シンポジウムを、市原市のサンプラザ市原を会場として、また現地での討論会が行われました(1/15、 16)。発表者、熊井久雄(Member of Commission on Stratigraphy and Chronology、 INQUA)、Prof. Brad Pillans(President of Stratigraphy and Chronology、 INQUA)、Prof. Martin J. Head (Member of Commission on the Stratigraphy of IUGS)、風岡修(千葉県地質環境研究室)、会田信行(千葉県立小見川高校)、五十嵐厚夫(復建調査設計)、青木かおり(立正大学)、里口保文(琵琶湖博物館)、(当日発表者・廣瀬孝太郎、大阪市立大学)、内山 高(山梨県環境科学研究所)、楡井久(紙上発表;Officer、IUGS-GEM)
○2015年8月
INQUA XIX名古屋大会(7/27-8/2)において、Early-Middle Pleistocene transition: local records, global correlationsセッションが行われた(8/1)。Martin J. Head氏よりこの時代の重要性が発表された後、南イタリアの候補地5件、日本の千葉の候補地16件(菅沼、風岡、岡田、兵頭、久保田、亀尾、泉、里口、竹下、木村、西田、本郷、中里、林、田中)、他地域5件が行われました。また、ポスト巡検で千葉セクションを含む地域の巡検が行われました(XIX INQUA 2015 abstracts;鈴木・小口、2016)。
○2016年1月
日本第四紀学会評議委員会において、第四紀年代層序研究委員会(代表者:岡田誠)が設置されました(日本第四紀学会、2016)。中部・下部更新統境界のGSSPについて千葉セクションの申請を推進するための研究委員会として活動することが承認されました。
これ以降申請チームが整備・拡充され、2017年6月にGSSP申請書を提出しました。


文責 国立極地研究所 菅沼悠介
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