第二十三話:暗殺者は百獣の王に挑む
遥か彼方に魔族ライオネルが吹き飛ばされていく。
残ったのは雌ライオンの魔物。
強力な魔物とはいえども、目、耳、鼻を潰され、しかも壊された際のダメージから立ち直ってもいないとなれば赤子も同然だ。
俺たちは危なげなく、皆殺しにした。
周囲に立ち込める、強烈な悪臭を風で一気に天へと舞い上げ、ようやくマスクを外すことができるようになった。
今回使った三種の武器、閃光弾、音響弾、悪臭弾。
これらの利点は、相手の耐久力に関係なく有効であることだ、いくら規格外の硬さがあろうと、光、音、匂いはすり抜けてくる。
強者相手には、生半可な火力を持った武器よりよほど頼りになる。
もともとは対勇者用に考えていた手札なのだ。
「じゃあ、まとめて焼いちゃうよ」
再生を防ぐため、一体一体焼くと時間がかかってしょうがないので、死体を纏めていた。
炎の嵐が死体の山を封じ込め、燃やし尽くし、その灰が散っていく。
「これで大丈夫だね。自分で作ってなんだけど、【スタン・フレア】は思った以上にすごかったね」
「私も驚きましたの。こんなに効率的な光魔法の使い方があったなんて。光魔法は便利なのですが、火力に不満がありました。でも、こういう使い方もあるのですね。なにより、殺さないで無力化っていうのが素敵ですの! 使い道がたくさんですわ」
光の特徴は、概念的な光であれば癒やしの力。
そして、物理の話で言えば、光速故に全属性中最速。しかし、弱点としては彼女の言う通り火力だ。
光に殺傷力をもたせるには凄まじい光量が必要であり多くの魔力を使う。
また、範囲攻撃も苦手だ。なにせ、限界まで集約することで効率の悪さを補うのが基本なのだから。
スタン・フレアは威力と範囲、その両方を補うための魔術。
「雑談をしている余裕はない。あいつが落ちてくるまであと五分程度しかないからな」
あいつを飛ばしたときの感覚でわかった。
奴の体重は四百キロ以上ある。
俺の【グングニル】は百キロの質量を舞い上げる前提の術式というか、それが俺の瞬間魔力放出量での限界。
【グングニル】を作った当初より魔力放出量が上がっており本来の【グングニル】より魔力を込めたが、上昇させる距離はかなり短くなる。
しかも、持ち上げた感覚から体重を逆算し、とっさに計算したものだから、いつもとは比較にならないほど精度が悪い。
空中で暴れようが、【風よけ】で空気抵抗がないため軌道に変化はないのは救いとはいえ、ピンポイントで着弾ポイントを計算するなんて無理な話。
だから、安全重視で三十キロほど離れた北東の広大な荒野、その真ん中を狙った。
多少ぶれようとも、周辺の街に大きな被害は出ないはずだ。
……もっとも、たった一度でもずれただけでとんでもない誤差がでる魔術であり、だからこそ、第一プランは【砲撃】だった。
「急がないとダメだね」
「はいっ、もしかしたら逃げちゃうかもしれません!」
「それはない気がする。ちらっと見ただけだから、確信じゃないが、あの魔族は眷属が殺されてやばいって考えるんじゃなく、敵を憎み、その血をもって贖わせる、そう考えるタイプだ」
一瞬の邂逅の中で、目があった。
あれは百獣の王そのもの。
「どちらにしろ急ぎましょう。先手を取りたいですもの」
「そうだな」
俺たちは走る……のではなく、それではとても間に合わないので風の魔法を使う。
できるだけ被害を少なくするために荒野に送りつけたせいで、着弾ポイントは三十キロ先だ。
「全員、俺にしがみついてくれ。……もっとだ、よし、これならいけるな」
「これ、結構恥ずかしいね」
「はう、ルーグ様にぴったりくっつけるなんて」
「次はどう驚かせてくれるんですの?」
右腕にディアが、左腕にタルトが、背中にネヴァンが抱きついてくる。
傍からみたら、とんでもない絵面だ
三人の美少女が密着し、それぞれに違った感触に意識が奪われそうになる中、詠唱に集中する。
なんとか詠唱が完成。
「【風乗り】」
突風で俺たちの身体が舞い上がり、空中で風のカウルに包まれて滑空し、さらに風を操り加速。
三人分荷物を抱えているため本来より速度は落ちているが、秒速百二十メートル、時速にすると432キロほどはある。
これなら、四分と少しで三十キロは進める。
いくら身体能力を強化しても、走りではこんなペースを維持できない。
「なに、この魔法!? ルーグってば、いつの間にこんなの作ったの?」
「合間合間にな、面白いだろ」
「面白いのが嫌なの! 私もこれ研究したかったよ!」
「うわぁ、すごいです。お空を飛んでます」
「とっても気持ちいいですの」
昔は、土魔法でハングライダーを生み出し、風を操り加速をさせていたが、そんなことをせずとも、今の俺なら風そのものに乗ることができると考え編み出した。
長距離飛行ともなると、物理的に機体を作ったほうがいいのだが、五分程度の飛行なら、こちらのほうが手軽でいい。
みんなは怯えるかもしれないと思っていたが、空の旅を楽しんでいるあたり、なかなか肝が座っている。
あるいは俺への信頼かもしれない。
「魔族退治、順調だね。これならあっさり倒せちゃいそう。だって、群れが強みの魔族でしょ。こんなにあっさり眷属を倒せたんなら、本体だってささっていくよ」
「……それはどうかな」
一つだけ、どうしても気になることがあった。
蛇魔族ミーナは魔族ライオネルは強い、俺では勝てないと言ったのだ。
だからこそ、助っ人を用意したと。
今の所、助っ人が現れる素振りはない。
しかし、あれが嘘を言うとは思えない。
何か魔族ライオネルには隠された力がある。
そんな気がしてならない。
◇
落下予定位置から五キロほど離れた位置に到着。
俺たちがいるのは、北東の荒野、その南西。
中心に落とすようぶちかましたのだが、今回のは精度が悪いので、距離をとっているのだ。
その分、すぐに走り出せるように準備をして、トウアハーデの瞳に魔力を込め周囲を警戒している。
……予想着弾まであと、二十秒ほど。
上を見上げたくなるが、【グングニル】の速度は、トウアハーデの瞳ですら捉えきれるものではなく、着弾してから反応するしかない。
カウントを続け、その時間がきたが落ちてこず、三秒後に予想着弾地点から、南に四キロほどずれた地点に着弾。つまり、俺たちの一キロほど前。
余裕をもっていて良かった。
爆音と共に、土砂が舞い上がり、巨大なクレーターができ、土壁の津波が起きる。
いつもより高度は低いとはいえ、質量が大きい分、威力はほぼ同じ。
予め準備していた詠唱を終え、目の前に鋼鉄の壁を用意する。
ディアがさきほど足止めに使った【鋼鉄城壁】。
俺たちに届くころには、だいぶ威力が弱まっていたが、それなりの衝撃はあった。
「行くぞ、やつはすぐに再生する」
あの惨状だと確実に死んでいるだろうが、【魔族殺し】なしには再生し続けるのが魔族なのだ。
「今回はルーグも前なんだ」
「気になることがあってな」
俺より強い、という言葉が正しければ、タルトでは足止めができずに殺されてしまう。
俺が前に出る分、魔族の核となる【紅の心臓】を砕く役はネヴァンに任せていた。
そのために必要な手札を彼女には渡してある。
「では、がんばってくださいませ」
ネヴァンが俺たちから離れ、マントを羽織る。
俺のお手製であり、事前に荒野と一体化するように色を塗り、人の匂いを消すように工夫したもの。防御力も極めて高い。
狙撃役を任せる彼女への餞別だ。
俺たちの戦いを見たいといったので、特等席で見てもらおう。
◇
ネヴァンを除いた三人が、魔族を使った【グングニル】の着弾ポイントにたどり着く。 巨大なクレーターの中に、雄ライオン……魔族ライオネルがいた。
その場に座り込み、遠吠えをしている。
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNN」
どこか、もの悲しそうな声。
雌を失った悲しみか。
とはいえ、同情はしない。隙だらけなのだから、遠慮なく先手をもらう。
ディアに目配せすると、彼女は詠唱を始めた、【魔族殺し】は射程が短く、これ以上近づけば当てる前に気付かれる。
だから、使用するのは目潰し、【スタン・フレア】。
あれなら、最大で五十メートルまでは先へ飛ばせる。
同時に俺は【魔族殺し】を詠唱。
目を潰して混乱させ、【魔族殺し】を叩き込むプラン。
「【スタン・フレア】!」
ディアの詠唱が完成する。
ネヴァンの放ったものよりも完璧な魔法。
光球が放物線を描きながら、奴のもとへ行き、膨れ上がる。
しかし……。
「GRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY」
爆発直前に、魔族ライオネルが咆哮した。
信じられないことに、その咆哮は空気の層を捻じ曲げ、捻じ曲げられた空気の層が光を屈折させた。
ただ防がれただけなら驚かない。
完全に、スタン・フレアの仕組みを理解したうえで、完璧な対応をした。想定以上の知性。
奴がこちらを向く。
「コエガキコエナイ、オレノオンナ、ヘンジシナイ、オマエラカ、オマエラガ、ヤッタノカ」
殺意に満ちた声。
生物的な本能が警鐘を鳴らし、無意識のうちに後退る。
理性を鍛え上げ、本能を御する術に長けている
「オレノチカラ、カエッテクル、ミンナ、モウ、イナイ」
魔族ライオネルの身体が、どんどん膨らんでいく。
筋肉が盛り上がり、瘴気と魔力が溢れだし、鬣はさらに長く伸びる。
いったい、何が起こっている?
このままじゃやばい、反射的に拳銃を引き抜き、連射する。
再生されるのはわかっている。それでも、この変態を見逃せば、取り返しがつかなくなる気がした。
しかし、盛り上がる筋肉で弾が進まない。
ついには、ライオネルが立ち上がった、丸太のように筋肉で膨れ上がった後ろ足が伸び、逆に胴体は縮み、前足は指が伸びて人間のものに近くなり、爪は伸びるだけじゃなく分厚く、鋭くなり、まるで一本一本が黒い剣。
その姿は、まるで獣人。
奴が跳んだ。
なんて速さ、俺を凌駕している。これじゃ、エポナクラスだ。
狙いは右での膝蹴り、早すぎて回避が間に合わない。
クイックドロウで弾倉に残った弾丸すべてを吐き出しながら同時に回避。
弾丸は筋肉で止まるが、その衝撃で速度が鈍り、ぎりぎり躱せた。
奴は勢いあまって、遥か彼方で着地。
「許さない。おまえを殺すのは最後だ。手足を引きちぎって、目の前で、おまえの女を一人ひとり犯しながら喰らってやる」
さっきまで片言だったのに流暢にしゃべっている。
……なるほどこういうことか。
本人はさほど強くないが、群れが脅威というのは、間違っていないが正しくなかった。
あれは、雌一体一体に己の力を分け与えていただけ。
雌が死ねば、分け与えていた力が返ってくるようで、今のライオネルこそが真の姿。
蛇魔族ミーナは知っていて隠したのか。
「ふう、予定が狂ったな」
なら、修正しよう。
俺には、問題に対処する力がある。
加えて、おそらくだがこちらに有利なイレギュラーも現れる。
蛇魔族ミーナの性格を考えると、ライオネルが持つ真の力を言わなかったのは演出であり、自分の玩具をもっとも自慢できるタイミングで、あいつを送り込んでくるためだろうから。
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