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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第九章:回復術士は新たな道を示す

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第一話:回復術士は王になる?

 飛行機の着陸と共に、ジオラル兵たちが集まってくる。

 今日到着することはエレンに伝えていた。

 彼女が手配してくれていたのだろう。

 飛行機を錬金魔術で分解しておく。


「それを倉庫に運んでくれ、丁重にだ」

「はっ、かしこまりました」


 飛行に使っていた竜素材は疲労がたまり過ぎて、他のものに流用することも難しい。

 保管しておくことに意味はない。

 それでも、こうするのは感傷だ。


「そして、そいつも運んでくれ。違った意味で丁重にな」

「もちろんです。ケアルガ様の注文通りに特注の牢は完成済みです」


 そいつとは、身動き一つ取れないよう拘束した、【砲】の勇者ブレットのことだ。

 エレンの手回しは、こちらにも及んでいるようで先行して帰還させていた、精鋭兵が回収に来ている。

 一般兵であれば、任せられず、俺自信が付きそう必要があると考えていた。

 だが、彼らにあれば任せられる。

 ブレットが連れていかれるのを見届け、ようやく肩の荷が降りた。


「では、皆様こちらに。エレン総帥様がお待ちです」


 エレンには総帥という立場を用意してある。

 ノルンであることは伏せたままであり、王族としての権力はない。

 それだといろいろ不便なので、ノルンの力を存分に振るえるだけの役割を用意した。


 いっそのこと、フレイアをたまにフレアに戻すように、エレンもノルンに戻せばいいのだが、ノルンを恨んでいるものが多い。

 ジオラル王国の軍師として大活躍し、様々な街や城を落としてきたし、やり方が容赦なさすぎた。

 新生ジオラル王国はイメージ戦略を重視している以上、ノルンが指揮をとっているというのは対外的にはあまりよろしくないのでノルンには戻していない。

 俺たちは兵士たちについていく。


「今回の城は地味だな」


 素直な感想を漏らす。

 ジオラル城などと比べると、大きさは四分の一ほど。

 もともと、ここはとある伯爵が自腹で立てた城なのだ予算が違いすぎるせいだ。

 しかし、地味ながらも要所要所がしっかりしているし、いろいろと改修をして守りを固めているようで悪くない。

 俺たちは城門をくぐる。


「んっ、なんかふつー」

「ですね。贅沢なものや綺麗なものがないのは逆に新鮮です」

「実家と対して変らないわね」

「どうでもいいの」


 俺の女たちも結構シビアに意見を言う。

 ジオラル城だと、城門から城までの間を金がかかった見事な庭園や、芸術品の数々が出迎えてくれるのだが、ここはただの石畳。


 いや、違うな。わずかにだが継ぎ目が見える。

 何かしらの迎撃兵器を地下に隠しているな。

 多くの城が、その財力と文化、技術力を見せつけ、己の力を誇示するのに対し、ここはシンプルに機能性と防御力を重視したというところか。

 個人的にはこちらのほうが良い。

 小さいという感想を持ったが、これぐらいのほうが守りやすくていい。

 ……俺の城にするなら、ジオラル城よりこっちだな。

 それこそ今まで【模倣ヒール】してきた知識と技能によって、とんでもない化物に作り変えるのも面白そうだ。


 ◇


 案内された先は、応接間の一つだった。

 いくつかあるうち、貴人を案内するもの。

 扉を開けると瞬間に、桃色の影がせまってきた。


「ケアルガ兄様!」


 俺をそう呼ぶのは世界で一人しか居ない。

 エレンだ。

 俺に抱きつき、胸板に頬ずりする。


「ケアルガ兄様の匂いです。やっと帰ってきてくれましたね」

「遅くなって悪かったな。いろいろとあってな」

「大丈夫です。それが必要だったってわかりますから」


 エレンは頭が早くて助かる。


「でも、寂しかったのは事実なので甘えさせてくださいね」

「ああ、いいよ。好きなだけ甘えるといい、ベットでもな」


 そう耳もとで囁くと、顔が赤くなった。

 まったく、あの悪逆非道のノルン姫がこうも可愛くなるとは。

 人間っていうのは、環境一つでこうも変わるものだ。


 ◇


 席に付き、紅茶を楽しむ。

 リラックス効果がある茶葉で、疲れを取るために砂糖がたっぷりはいっている。

 壊れかけの飛行での長旅に参っていたこともあり、ありがたい。

 茶を楽しんでいる間、エレンはフレイアたちとお互いの無事を喜び合っていた。


「あっ、そうだ。ポーションを全部使い切ったので、補充をお願いしたいです。あれがあると本当に便利で」

「……あれ、全部飲んだのか」


 俺はエレンが政務で忙殺することが目に見えていたので、特別なポーションを調合して土産に置いていった。

 それは、特製疲労回復ポーション。

 あれを併用すれば、一睡もしてなかろうと頭がすっきりする。

 かなり余裕をもって用意していたはずなのに、あれを全部使い切るとは、いったいどれだけ無茶をしたのだろうか。


「ブレットが倒されてから一睡もしてませんからね。こっちの戦いも大変です」

「そうか、なら今晩愛し合うのは控えたほうがいいな」


 エレンを愛してやりたいが、それほどの修羅場だ。

 こうして茶を飲む時間を作るだけでも大変だったのだろう。

 俺たちの戦いはブレットを倒して終わったが、政務を担当するエレンにとって、むしろここからが本番なのだ。


「ダメです。それを励みに頑張ってたんですから!」


 鬼気迫った表情だ。


「わかった。なら、存分に愛してやる」

「はいっ!」


 相手がエレンでなければ、本当に大丈夫かを確かめるのだが、エレンは信頼していい。

 愛し合うことにうつつを抜かし、政務が滞るなんて真似はしない。大丈夫になるよう調整しているはずだ。


「それで、わざわざこんな部屋を使うってことは何かあるんだろう?」


 この部屋は広く、会議に必要な設備が揃っている。

 複数ある部屋の中で、ここを選んだのが偶然であるはずがない。


「見破られましたか。今日ぐらいは、みんなで和気あいあいといきたかったのですが、いろいろとまずい状況になって対処が必要になりました」


 そうなるだろうな。

 ブレットが大暴れして、あやふやになっているがジオラル王がやらかしまくった過去は消えていない。

 世界共通の敵がいなくなれば、再燃してしまう。


「先日、世界会議の開催が決まったんです。その場で、ジオラル王国は過去の罪を糾弾されるみたいですね。なにせ、事実上、世界征服をしていた国です。野心がある国からしたら、目の上のたんこぶ、潰せるうちに潰したいって考えます」

「だろうな。ジオラル王のこともあるし、ブレットはもともとジオラル王国の勇者だ。実に叩きやすい」

「はい。一応私達には世界を救ったっていう大義名分カードがあるんですけど、自分で撒いた種だって言われると辛いものがありますね。いつものジオラル王国なら、多少苦しい状況でも圧倒的な力を背景にごりごり押せちゃうんですけど、それも厳しいです」


 今のジオラル王国はボロボロもいいところだ。

 各地に戦いの爪痕は残り、先の戦いで軍にも負傷者、死傷者が多数でてまともに機能しておらず再編中。

 ……逆に言えば、だからこそ周辺諸国にとっては食べごろ。


「あと、どこの国もジオラル王がやらかす以前のことも持ち出してくると思うんですよね。実際、そういう動き見えてますし」

「ジオラル王国は、いろいろやらかしているしな」

「はい、やらかしまくってます」


 圧倒的な力を背景に、何十年も前から好き勝手やっている。

 そのたまりにたまったツケを払わされるときが来ているようで、その流れは変えらないだろう。


「手はあるんだろう?」

「ないですね。ジオラル王国はもう無理です。まだ、ブレットとの戦い前ならいろいろと余力があったのですが、勝つために使い切っちゃいました。王都が壊滅したのもすごく痛いです」


 エレンは笑顔で即答する。

 ……実に彼女らしいな。

 的確で容赦のない判断。


「あっ、あの、エレン、この国がなくなってしまうんですか?」

「セツナはどうでもいい」

「……私は複雑ね。ケアルガについていくためにすべてを捨てたけど、クライレット家には愛着があるわ」


 俺にだって愛着がある。

 ジオラル王国そのものを愛しているかと言えば、微妙だ。

 でも、ラナリッタやブラニッカには友人がいて、思い出もある。

 もし、ジオラル王国が滅亡するなら、ハイエナのように周辺各国が集まり、ジオラル王国をパイのように切り分ける。


 戦渦の渦が吹き荒れて、大事な馬車や友人たちが失われる。

 それは避けたい。

 全員の視線がエレンに集まる。

 俺以外もわかっているのだ、エレンはジオラル王国は無理だと言ったが、すべてを諦めたわけじゃないと。

 話には続きがあるはずだ。


「思ったより動揺しないんですね。なら、私の狙いを言います。ジオラル王国を存続させるのは無理です。なら、壊される前に、この国をぶち壊しちゃいましょう」


 ああ、そういうことか。

 逆転の発想だ。


「クーデターを起こします。ジオラル王国で【癒】の勇者ケヤルによるクーデターが勃発、ジオラル王国は滅びて、新たな国が生まれるわけです。過去の罪は全部ジオラル王国と一緒に消えてもらいましょう」


 そう、あくまでここにあるのはジオラル王国の罪。

 ならば、ジオラル王国なんてものは捨ててしまえばいい。俺たちが守るべきは、この国の土地と民だ。


「あっ、その、それを認めさせたところで、他国は攻めてくるんじゃ。国が弱っている状況はかわりません」

「その場合は、ケアルガ兄様を中心にお城に殴りこんで、相手の王族を皆殺しにすればいいだけです。総力戦なら勝てないですけど、ここにいるのは世界最強のパーティですからね。敵の中枢に奇襲かけて、ぶち殺すぐらいわけないです」


 どれだけ厳重な守りがあろうと、今の俺たちなら狙った相手を殺すことぐらいたやすい。

 そして、それができれば王国というものは潰せる。


「今までの問題って、相手が大義面分をもってこの国を切り取っていくってことなんです。それを撃退してもカドが立っちゃいます。でも、ジオラル王国を罪ごと捨てて、相手が侵略してきただけなら、ただ勝てばいい。それから賠償金をふんだくってやります」


 負い目があるジオラル王国なら殴られても泣き寝入りするしかない。

 しかし、新たに生まれ変わった国なら、殴られたら思いっきり殴り返すことができるのだ。


「この案には必須条件が三つあります。一つ、求心力。民がついてこなければ、国を生まれ変わらせるなんてできません。それは【癒】の勇者ケアルの名前があれば一発ですね。この国、いえ世界を救った救世主ですから。それに王女フレアも賛同したという筋書きにしましょう」

「ああ、存分に俺の名を使ってくれ」


 かつて、この国は実質的に俺の所有物だと言ったが、これで名実ともに俺のものになる。それは悪くない。


「二つ、後ろ盾。エスタ王子を覚えていますか?」

「ああ、水の国の切れ者か」

「実は彼にはすでにこのプランを話し、協力を取り付けています。水の国は影響力が強いですからね、生まれ変わったことを認めさせることは可能ですよ」


 彼が味方になってくれたのは心強い。

 黒い化物たちに襲われて対抗できたのはジオラル王国と、彼の国だけだ。


「三つ、力。ジオラル王国は力を失ったからこそ窮地で、それがあれば困ってないのですが、やっぱり力はどうしても必要です」

「その算段はあるのか?」

「ええ、もちろん。世界を救った英雄たる【癒】の勇者ケアルと仲間たち。ケアルガ兄様が一発、かませばいいんです。この国は俺の所有物だ、手を出したらぶっ殺すって。なにせ、世界を滅ぼしかねない化物を倒した男ですからね、世界最凶以上に強いと各国も理解しています」

「わかった、世界会議ではぶちかまそう」

「そして、とっておきの隠し玉。魔王イヴ・リースを会議に連れてきてください。その場でケアルガ兄様の国と魔族領域の同盟発表をます」


 つまり、その瞬間に、俺たちに喧嘩を売れば魔族領域をも敵に回すと脅すことができる。


「面白いが、そこまでやるならジオラル王国を維持することもできたんじゃないか?」

「かなり厳しいですが、その場を収めるぐらいはできちゃいます。でも、そうすると山程水面下に問題が残っていつ破綻してもおかしくないんですよね。そもそも、悪評まみれのジオラル王国と魔族領域が同盟を結ぶのは、ただでさえ、みんなは魔族を恐れているのにさらにイメージダウンになります。だから、一回全部綺麗にしちゃいたいんです」

「理にかなっている。この流れで行こう」


 さすがはエレンだ。

 これなら、ジオラル王国の民は生き残れる。


「ただ、それに当たって最大の問題がありまして」


 深刻な顔で、エレンが目線を下に向けて考え込む。


「言ってみろ、覚悟はできている」


 こくりとエレンが頷いた。


「名前です。新しい国には、新しい名前が必要なんですよ!」


 真顔で、どうでもいいことを言う。

 しかし、どうでもいいと思ったのは俺だけで、女たちはみんな真剣な顔だ。


「ケアルガ兄様の国ですから、ケアルガ兄様に相応しい名前をつけないといけません」

「そうですよね。ケアルガ様のかっこよさと優しさと強さと素敵さがわかる名前にしないと」

「難問、セツナには難しすぎる。でも、大事」

「お腹へったの、グレンは肉を所望するの」

「いっそのこと、『ケアルガ王国』なんてどうかしら?」

「「「それだっ!」」」

「いや、それはない」


 約一名を除いて、盛り上がっている。

 名前なんてと考える、俺のほうが異端らしい。


「とりあえず、名前を決めるのは後日にしよう。この場で浮かぶようなものでもないだろう?」

「それもそうですね。まだ、ちょっと時間がありますし」

「話はこれで終わりか?」

「はい、この話を早めにしたかったんです」


 そうか、ならもういいな。

 立ち上がり、エレンをお姫様抱っこする。


「きゃっ、ケアルガ兄様、嬉しいですけど、いきなりでびっくりしました」

「エレンの部屋に案内しろ、愛してほしいんだろう」

「はっ、はい、離れ離れになった分、たくさん愛してください」


 可愛いな。不意打ち気味にキスをすると、エレンは受けれてくれた。

 まだ少女なのに、生意気にも自分から大人のキスをねだってくる。

 いい子だ。

 きっと、今日まで俺が想像もできほど俺のために頑張ってくれていたのだろう。

 それを労ってやる。

 俺の全力をもって彼女を喜ばせてやろう。

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