富か、鳥の楽土か 海鱸の島で鳥糞採掘願に地元から大反対の嘆願
新聞記事文庫 土地(9-037) 大阪朝日新聞 1935.6.21(昭和10) データ作成:2010.3 神戸大学附属図書館
日本海の真ッ只中における海驢群の楽土「リャンコウ島」をめぐって鉱業と天然保存との抗争が物すごい渦を捲いて流れはじめた―。 ことの起りは先月初め大阪鉱山監督局へ米子市加茂町安島為三郎、鳥取県西伯郡大和村大字小波小林源太郎の両氏から、島根県隠岐島庁所管リャンコウ島におけるグア燐鉱試掘願いが提出された。 リャンコウ島には二千の海驢群と共同生活する約二十万の海猫の大群があり、従って千古シャベルを入れぬ同島の東嶼および西嶼の両列岩十余万坪は四尺乃至八尺に及ぶグアノーの大宝庫で、往年の北鳥島や硫黄島をも凌ぐものがある、国家的見地からこうした大宝庫を捨てて、南米方面から燐鉱の輸入を仰ぐのはオヨソ意味ないことであるとして、島根県知事らの副申を添えて願い出たもの。 ところが、これを聞いて驚いたのはリャンコウ島の漁業権保有者であるとともに島の動物群保護者の位置に立つ島根県隠岐五箇村の前村長八幡長四郎、橋岡忠重、池田幸一の諸氏で、直に大阪鉱山監督局、島根県庁、隠岐島庁へ長文の嘆願書を発するとともに、動物学界その他に愬えて猛烈な反対運動を起した。 嘆願の理由は、リャンコウ島は米領フリビロフ島、日本海豹島露領コンマンドルスキー島と並ぶ世界の四大海獣島であり、前三島がオットセイを主とするに対してここはアシカ科中の胡●(和名とど、学名ユーメトピアス・ボバタ)の特産地として世界唯一の名所であり、海猫の産地としては日本一である。いまここに鉱業を移入し、斧やハンマーや火薬の音を聞かせ、それでなくとも崩潰頻々たるこの島の礫岩を砕くときは敏感なる海驢と海猫は一朝にしてこの島を見捨てさることは火を睹るより明かだ。現在のリャンコウ島夏季経営は海豹島、ブリビロフ島同様、保護を主とし捕獲を従とし、幼獣、産獣は極力庇護を加えて、一年十五頭以上は捕獲せず養殖せしめている状態である、また同島の位置は朝鮮鬱陵島の東北東に位し軍事上にも相当の重要地点であり、さなきだに暴風による崩潰の多い地点を発掘によりいよいよ脆弱にすれば島そのものの滅亡さえ招来するというのである。 大阪鉱山監督局では容易に許否を決定し難くなり、十八日島根県庁その他へ照会を発し厳密に実情を調査することとなった。同局楢崎技師は語る。 大宝庫をそのまま放置するのも勿体ない話だが、後からの反対陳情者もなかなか重大である、十万や二十万の利益で世界に誇る日本の天然物を滅亡させることの可否もよく考えねばならぬ何しろ絶海の孤島で実地調査するのも容易なことでない、近く学者や関係者などの意見もよく聞いた上許否を決したい。
<コメント>
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さっそく、ありがとうございました。大阪鉱山監督局には原本があるかもしれませんね。
それにしても、今回の広島の資料との関係はどうなるのだろう?
2016/3/29(火) 午後 6:54 [ cqh*m42**0427 ] 返信する
matsuです。
大阪鉱山監督局は、現在は
「中部近畿鉱山保安監督部近畿支部」という名前のようです
http://www.safety-kinki.meti.go.jp/kanri/kouzan-enkaku.htm
当時は山陰地方も大阪で管理していたようですね。
一時、西部地方鉱山局と改称したようですし。
2016/3/29(火) 午後 7:14 [ cqh*m42**0427 ] 返信する
多分、ですが、当時は島根県の鉱業は大阪鉱山監督局の所管であったのが、その後の機構改革で今は中国経済産業局の所管となったので、謄本もそこから発行された、ということではないでしょうか。
2016/3/29(火) 午後 7:14 [ Chaamiey ] 返信する
それも十分にありうると思います。ただ、日付が微妙に違うのが気になります。
2016/3/29(火) 午後 8:07 [ cqh*m42**0427 ] 返信する
「リャンコウ島」
昔は、リャンコではなく、「リャンコウ島」と呼んだんですね。
この「ウ」は伸ばしただけなのか、「ウ」の音をしっかり発音したのか?
2016/3/29(火) 午後 8:09 [ cqh*m42**0427 ] 返信する
「竹島」になって30年経っても「リャンコ」だったんですね。なぜなんでしょうかね。
2016/3/29(火) 午後 8:19 [ Chaamiey ] 返信する
日本は自国領の島を長々と西洋名で呼ぶことがよくあるようです。沖大東島(1900年編入)をラサ島と呼んでいる昭和前期の小説を読んだことがあります。あと、未だにベヨネース列岩(東京都)とかあったりしますし。横文字好きな国民性なんでしょうか。
2016/3/31(木) 午前 0:59 [ h2b ] 返信する
はあ、そういうことがあるのですか、なるほど。まあ、絶海の孤島であればそれほど有名にはならないので、正式名称がなかなか普及しなかったという事情もあるのかも知れません。
2016/3/31(木) 午後 5:06 [ Chaamiey ] 返信する
matsuです。
アシカ科中の胡●(和名とど、学名ユーメトピアス・ボバタ)
とありますが、
学名を見ると、「日本あしか」ではなく「とど」だと思っていたようですね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%89
トド(胡獱[2]、Eumetopias jubatus)
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史料に時々「海馬」と出てくるのは、こちらの「とど」だと思っていたようです。
動物名辞典
http://www.weblio.jp/content/Eumetopias+jubatus
故獱
読み方:トド(todo)
アシカ科の海獣
学名 Eumetopias jubatus
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海馬
読み方:トド(todo)
アシカ科の海獣
学名 Eumetopias jubatus
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胡獱
読み方
2016/4/2(土) 午前 9:20 [ cqh*m42**0427 ] 返信する
韓国の史料でも日本の史料でもニホンアシカを指しているらしい言葉がいろいろと現れますが、実際には何の動物のつもりで書かれているのかは判別が難しいですね。
2016/4/2(土) 午後 8:04 [ Chaamiey ] 返信する