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【大相撲】

北の富士さん感嘆 入門わずか3年…これほど鮮やかに変身するとは

2019年5月26日 紙面から

◇北の富士評論「はやわざ御免」

 朝乃山が堂々たる相撲で豪栄道を制し2敗を守ると同時に、優勝に大きく近づいた。優勝を左右する大一番は、豪栄道がうまく立って先に左上手を引いた。一方、朝乃山は右は差したものの左上手が取れない。この体勢は圧倒的に豪栄道が有利である。しかし朝乃山は慌てた様子もなく、悠然と相手の出方を見る。この落ち着きはどこからくるのだろうか。右を差しているのでかなりの自信はあったのだろうが、初優勝のかかった大一番に誠に大胆不敵にも思えるほどである。

 今場所は早い段階から平常心を盛んに口にしていたが、言うは易し、行うは難しである。あまたの力士達がこの平常心を目指し追究したものだが、この私も含めて大一番を平常心で取れたことは数えるほどしか記憶していない。入門してわずか3年、この数場所は不振が続いていた並の力士がこれほど鮮やかに変身するとは驚きを禁じ得ない。きょうの一番は、まさに平常心そのもののように慌てず騒がず左上手を引くチャンスを冷静にうかがっていた。

 反対に豪栄道は十分になり、何も仕掛けてこない相手にじれて頭を付けることを忘れて寄って出た。この瞬間を待っていたかのように朝乃山がすくい投げを打ち左から絞り上げるようにして待望の左上手を引くのに成功する。実に巧妙な芸の細かい技である。

 これで完全に胸が合った。もう急ぐことはない。慎重に一歩一歩確かめるように寄ると豪栄道は何一つ抵抗することなく、あきらめ切ったように土俵を割った。

 何度も言うようだが、平然と勝ち名乗りを受ける朝乃山だが、まさにニューヒーローの出現である。この後、3敗の鶴竜が敗れ優勝が決まった。千秋楽を待たずに優勝が決まるのは、私としては本意ではないが優勝したのが新鋭朝乃山とあっては何も言うことなし万々歳であります。

 私はかねてから朝乃山の大器ぶりを評価してきたが、どこか気が弱そうでその点が心配だった。しかし今場所の朝乃山を見て、そんな心配はもういらない。抜群の足腰の良さ、体が柔らかいこと、右四つの型は申し分ない。今場所はよく突っ張ったがもっと磨きをかけたら鬼に金棒である。優しい顔をしているが度胸も良さそうだ。これといったけがもないのは幸いである。

 新大関の休場や、横綱大関陣の老朽化で次代を担う力士が待望されていたが、こんなところに隠れていたとは有難い。千代の富士も突然、天から降ってきたように出現したものだ。男っぷりも良し、人気は嫌でも沸騰するだろう。心配はモテ過ぎることだ。

 そのあたりは私がお教えしてもいい。何? いらぬお世話だ。失礼した。

 それから、栃ノ心が10勝して大関復帰がかなう。立ち合いの変化は感心しないが、13日目の不当な判定があるので、差し引きゼロである。最後まで横綱大関は弱かった。何とかしてもらいたいものである。千秋楽の楽しみは、トランプ大統領を見られるだけである。 (元横綱)

 

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