皆さん、こんにちは。このブログ「Z会×医学部 解体新書」で不定期連載している医師の東徹です。
最近は人工知能の話題を耳にすることが多くなった気がします。将来はいろんな仕事が人工知能によって要らなくなる、などと言われています。そこに医師も含まれるのではないか、とも言われているようです。先日もテレビで脳科学者がそんなことを言っているのを聞きました。みなさんはどう思われますか?人工知能だけだとちょっと範囲が狭いので、アンドロイドなども含めた「機械技術は医師を駆逐するのか」という問いに変えて考えてみます。
私は医師が機械に置き換わるのは時間の問題だと思っています。データの解析はコンピューターの得意分野です。診察するデバイスが出来れば症状をデータ化出来ますから、診断までは比較的容易に出来そうです。自動運転の車はほぼ出来ています。その延長で考えれば自動手術もいつか出来ると考えてなんの不思議もありません。
物質的な面が機械で対応可能なのは想像しやすいと思います。でも、医療は人と人とのコミュニケーションが大事ですから、精神的な面は難しそう…と一見思いますよね。でも、そうでもないようです。
先日、大阪大学の石黒教授の講演を聞く機会がありました。石黒教授は「マツコとマツコ」というテレビ番組にも出演されているアンドロイド技術の世界的な第一人者です。その講演で聞いたところでは、実はアンドロイドの方が人間相手よりも話しやすいことが多く、人とはほとんど話をしない認知症の老人や自閉症の子供が、アンドロイドには喜んで話をする、ということが稀ならず起こっているそうです。
物質面でも精神面でも機械が上回るかもしれない。となると、これからの医師は何をすれば良いのでしょうか。
唐突ですが、そのヒントは将棋の電王戦に垣間見た気がしました。
電王戦というのは、プロの棋士とコンピューターソフトが対戦するイベントで、ここ数年話題になっています。昨年まではソフトが圧倒していましたが、今年は棋士が勝ちました。今年は何が違ったかというと、棋士が徹底的にソフトを研究したんです。すると、いろいろとソフトの弱点が見つかりました。これは、プログラマーだけでは見つけるのは難しく実際に将棋が強くなければわからないことのようです。やはり、高度な知識と経験は非常に重要なのだ、と確信しました。
まずは、人間の医師は機械の弱点をきちんと指摘出来るだけのスキルを身につけないといけない、ということが言えると思います。
では、その先はどうでしょう。人間で指摘出来る弱点もいつかは全て克服されるでしょう。その時、医師は必要でしょうか。
将棋は知的スポーツです。スポーツは機械に負けてもその価値を完全に失うことはありません。ウサインボルトよりも速く走る車はいくらでもありますが、いまだに私達は世界陸上で感動することが出来ます。
しかし、医療はそうはいきません。機械の方が優れているなら人間は必要なくなるでしょう。
そう考えると、機械の弱点を指摘して克服する、という作業は、自分の仕事を自ら失くしていく行為、と言えるのかもしれません。あと30年ほどで人工知能が人間を凌駕する、とも言われています。そんなに遠い未来の話ではないようです。
でも私はそれで良いのではないかと思うのです。自分の仕事を失おうとも患者のために尽くす。それで良い。というか、そう思える人に医師になって欲しいです。
今でも、自分の職域を守るためにいろんな規制をかけようとする医師はたくさんいますが、みなさんには、そんな私利私欲を超えた医師を目指していただきたい、と、それが今回のメッセージです。
ちょっと話が大きくなり過ぎました。
そんな先の話も大事ですけど、まずはしっかり勉強をして医学部に入る、それからですね。頑張って下さい!