史上76人目の通算200盗塁を、僕は勇者の証明書だと思っている。その意味を伝える前に、まずは大島の盗塁哲学を紹介する。「成功させるために最も大切なのは?」。この問いに、彼は即答した。
「それはスタートでしょう。そして、いいスタートを切るためには勇気、思い切り、意欲が必要だと思います」
盗塁の正否に関わる「3S」の中で、大島はスピード、スライディングよりもスタートを上位に位置付ける。才能、技術、研究心も重要だが、勇気のない選手は盗めない。それは200盗塁の価値とつながってくる。現役では4人目、中日では5人目(原田督三、中利夫、高木守道、荒木雅博)。一方、同じ200で比較した場合、本塁打は103人(現役6人)もいる。
力自慢の外国人が含まれるのはあるにせよ、僕は能力よりも評価の差だと思う。打てば打点、得点が加算するが、打てなくても文句は言われないのが本塁打。盗塁は後続が打ち、得点になってこそ評価され、刺されれば「無理をして…」と言われかねない。故障のリスクを負ってまで走る「勇気」が、いつしかうせていくからだ。
失敗を恐れず、走り続けた証しが200盗塁。勇者の仲間入りを果たした大島には、自慢の盗塁がある。2015年4月12日のDeNA戦(ナゴヤドーム)。延長12回1死からの二盗だ。「代打オレ」で登場した谷繁兼任監督が、バントを決められず追い込まれたところで林昌範-黒羽根利規のバッテリーから盗み取った。進塁打で三進。ルナの安打でサヨナラのホームを踏んだ。
「林さんから走れたのはその一つだけっていうのもありますし、しびれる場面でしたから」。味方の失敗をカバーし、勝利をたぐり寄せた勇気。これが通算96個目の盗塁だった。あれから4年。チームの1軍野手では最年長の33歳となったが、走る勇気はなお衰えてはいない。