【大相撲】いっそのこと取り直しでもよかったと思う2019年5月25日 紙面から ◇北の富士評論「はやわざ御免」13日目の土俵は、2敗の朝乃山と鶴竜が明暗を分けた。朝乃山と栃ノ心の一番は、際どい勝負判定をめぐり、5分を超える大物言いとなった。 勝負の流れはこうだ。右の相四つの立ち合いは、激しく当たりあったが、意外にも先手を取って攻めたのは、朝乃山だった。栃ノ心は、相四つだから、組み止めて、胸さえ合わせれば勝機有りと読んだとしても不思議ではない。 一方、朝乃山は胸を合わせては、勝ち目はなし。左を取られる前に攻める。ただ、この1点に絞ったようだ。それだけに、立ち合いの踏み込みと当たりが強かった。この当たりの強さは、栃ノ心の意表をつくに十分で、朝乃山の一気の寄りにあっという間に土俵際まで攻め込まれる。この時点で、朝乃山の勝ちは疑う余地がなかったと思われた。 しかし、栃ノ心は粘った。左に俵を伝ってまわり込み、左手で相手の頭を押さえ、右から突き落とした。両者の体が同時に土俵下に転落する。軍配は栃ノ心に上がった。一時は、一方的な朝乃山の勝利と誰の目にも、そう映ったと思う。場内に悲鳴があがる。 しかし、少し時間を置いてから、物言いの手が挙がる。それから約5分、どんな議論があったかは、知るよしもないが、審判長の場内説明はこうである。 栃ノ心の足のかかとが出ていたので、軍配差し違いで朝乃山の勝ちであった。この説明に、場内は騒然となり、ブーイングが起きる。どうにも釈然としない判定であった。 私も目の前のテレビで何度も見たが、栃ノ心の足は、うまく俵の上で回転して、残っているようにみえる。あの足が協議の対象なら、5分以上も時間は必要としないであろう。栃ノ心も残っていると断言している。力士は、少しでも蛇の目に足の裏が触れると自覚するものだ。あれほど長時間、紛糾するなら、いっそのこと取り直しでもよかったと私は思う。両者にとって、ともに負けられない一番だっただけに、残念な判定であった。 しかし、こうなった一因は栃ノ心の相撲にある。大関復帰へあと1勝のプレッシャーに、別人のように一変してしまったふがいなさは、誰の責任でもない。彼自身の精神面の弱さにあるのだから。 精神力の弱さでは、鶴竜も負けてはいない。高安に腰高を露呈し、あえなく3敗となった。これで朝乃山がトップに立ったが、あと2番はものすごい重圧が襲ってくる。栃ノ心戦の立ち合いができれば、平幕優勝も夢ではない。14日目の豪栄道戦が最大のヤマ場である。豪栄道という大関は、気楽に取らせると無類に強い。だが、意外と速攻に弱い面があるので、立ち合いが勝負だ。 私は弱者の味方である。今場所は、朝乃山に勝ってもらいたい。さて、今夜はうなぎでも食べようか。それからニンニク注射でも打って、トランプ大統領を迎えよう。 (元横綱)
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