防犯カメラの映像を基に犯人が逮捕されることが多くなってきた。人工知能(AI)を使った顔認証技術のおかげだが、無条件で利用してもよいのだろうか。米国では疑問の声が上がっている。
サンフランシスコ市議会は先週、警察や公共機関による顔認証技術の利用を禁じる条例案を可決した。市民の権利や自由を守るのが狙いだという。同じカリフォルニア州のオークランド市などでも同様の条例案が提出されている。
理由は二つ。一つはAIも間違う。その結果、誤認逮捕や冤罪(えんざい)を生む恐れがある。もう一つはプライバシーの保護である。
昨年、米自由人権協会が警察も利用するアマゾンの顔認証ソフトを使い、犯罪容疑者二万五千人の手配写真と連邦議員の顔写真を比較する実験を行った。結果は、二十八人の議員が容疑者と誤認識された。アフリカ系とラテン系の議員が犯罪者と認識されやすいという偏りも見つかった。
AIは大量のデータを学習することで精度を上げる。そのデータに偏りがあると、人種や性別などの偏見を持つと考えられる。
多数のカメラをリレー式に使えば、個々人の行動をリアルタイムで監視することも可能だ。中国では治安維持にも使われている。
国内では犯罪捜査で活躍している。昨年秋のハロウィーン直前、東京・渋谷で軽トラックが横転させられるといった騒ぎがあった。警視庁は街頭カメラなど二百五十台の映像を解析して、居住地域もバラバラの容疑者十人以上を特定した。関係者の聞き込みなど、地道な捜査もあって摘発された。
天皇陛下在位三十年記念式典では参列者の本人確認に使われた。政府は事前登録された顔写真などのデータは式典終了後、削除すると説明した。
商業施設やコンサート会場などでも利用が進んでいる。便利ではあるが、息苦しい監視社会になる危険性を常にはらむ。
先端を走るサンフランシスコは足を止めた。私たちも、利便性と危険性を考えるときだろう。
顔認証の精度はAIが人間よりも上だが、100%ではない。AIも間違うことはあることを前提に、データの収集方法や利用方法などのルールを作るべきである。利用実態を含む情報を公開し、技術の進歩に合わせてルールを修正していくことが望ましい。
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