生き方を探すひとびと
こうしてなつの新宿生活は始まるのです。
雪次郎は、粉をこぼすなと杉本に注意されています。
杉本は口が悪いのですが、そう間違った指導でもないのです。
こぼすとどうしてダメなのか。滑って転んだ雪次郎をからかいつつも、しっかり教えます。
そうそう。指導って態度だけでなくて、理由と因果関係の説明も大事です。
野上もこの杉本も、そこがちゃんとしていて救われます。
パワハラまっしぐら。具体的な理由を言わずに、ともかくダメだと怒鳴り散らす****の**さぁんとは違うのだよ。
ここでナレーターの父が、新宿では必死に誰もが行き方を探しているようだと語ります。
なつは仕事の合間に絵を描き、喫茶店で仲と陽平に見てもらうのでした。
「この絵でもいける」
その言葉にちょっとひっかかるなつです。
「この絵ならいける!」
という、太鼓判を押すものとはちょっと違います。
いいと思いますよ。
仲は誠実なんです。しょうもない美辞麗句で気を引こうとか、そういう器用なことはできないのです。
咲太郎とは、ある意味真逆なんでしょうね。
そのことは、なつがセル画をお守りにしていると言ったあとの反応でもわかります。
「責任を感じます……」
これが咲太郎系、プレイボーイなら、なんかモテそうなことをペラペラと言い出しそうでしょう。
縁があるね、とかなんとか。雪次郎のような一途なチャラ男でも、ちょっと違うでしょう。
それができんのよ……そういうモテとは遠い男です。
ちょっと暗いというか、そういう雰囲気がちゃんと出ていますよ。
井浦新さんの使い方を、チームがしっかりと理解している証拠です。
井浦さんもその要求を理解し、きっちりと応えているんですね。
この兄・咲太郎が危険です!
ここで陽平は、弟も寂しがっている、そして絵を描いていると伝えて来ます。
天陽もなぁ……それをなつ本人には言わないし、言えない。
兄にはポロリと。
ここで無理矢理二人を接近させない周囲にも信頼感が湧いて来ます。
兄は弟を理解しているんですね。
そういうことではなくて、絵を通して通じ合うことが、弟の愛なんだと。
なんだか切ない。なんだか寂しい。
でも、そんな天陽は絵筆を握る姿が想像できてしまう。こういう思いもあるんだねぇ……。
そんな天陽を絶対理解できない枠代表の、咲太郎がやって来ました。
なつが間に立ち、互いを紹介し会います。
ここで、あのウェイトレスのさっちゃんこと佐知子がやって来ます。
「さいちゃん、座ったら❤︎」
「ちょっと……」
「ゆっくりしていってね。なっちゃんも休憩中でしょ」
「あんまり兄に関わらないで……」
さっちゃんというか、咲太郎関連女性のすごいところは、みんな語尾に浮かぶ❤︎が見えることですね。
ただの恋心じゃない。
門倉番長にうっとりしていたよっちゃんもめんこかった。
淡い気持ちを時々雪次郎に見せていた、あの夕見子ではありえない。砂良とも違う。
そういうのとは、何かが違う。
もっとこう、浮かれているというか、なんというか……。
魔性にメロメロになった――そういう❤︎が浮かんでいます。
なつがそんな佐知子を制するのは、これは依存症になるから気をつけてと言いたい。そういうことかも。
そんな妖しい空気がちょっと漂う中。
咲太郎は妹がものになるか? とズケズケと仲に聞きます。
仲も陽平も、誠実です。
儲からないしきつい。そう告げるのです。
だからこそ責任感を覚えるわけですね。妹の援護を頼まれても辛いものがあります。
「あんたが誘った。責任重大だよな。裏切ったら海に浮かぶよ」
なつが、兄のしれっとしたヤクザジョークにギョッとしています。
どういう生き方して来たんだ、咲太郎よぉ!
※この路線。これは沖縄ですが……
あ、この咲太郎。往年の千葉真一さんとか、北大路欣也さんとか、渡瀬恒彦さんぽさが出て来たかも。
なんだかすごいことになってきちゃったぞ、岡田将生さん!
そんなヤクザジョークの兄はさておき、陽平は書店で買って来た本をなつに渡します。
アニメ用ではないものの、馬の動きを連続撮影した写真集でした。
なつは感激します。
決して安くもないでしょうに、陽平はいい人ですね。
東京での日々を過ごして
ここからはアニメに切り替わります。
東京での日々がやさしいタッチで描かれるのです。
アニメとは何か。それがわかるよい演出です。
技術だけではなくて、なつが育んだ感受性の発露だとすっきりわかるのです。
そして二ヶ月が経過し、試験当日――。
全国から絵心ある若者が、会場に集まって来ます。
なつが握りしめているのは、泰樹からもらった懐中時計です。
それを手にして、じいちゃんに健闘を誓います。
なつよ、その扉、推し開けよ――。
そうナレーションが告げる中、来週へ!
女難ルートはかくして始まった
すごくいい話です。
感動しました。美しい。
しかし、そんな感動を打ち消すようで恐縮ですが、咲太郎はちょっとあやうい道に踏み込みましたよね。
「女難」の道だー!
女難といっても、女のせいじゃない、複合的要因ですが。
かつての咲太郎は、父と同じ料理人ルートを目指していたはずです。
うっすらと、そうでした。
それが亜矢美と出会い、救われて、ショウビズの世界に踏み込んだんですね。
そして、女に救われ、救った体験があまりに甘美でそこに酔っ払ってしまったのでしょう。
その結果が、マダムへの莫大な借金。
ストリップバー勤務。そのダンサー・ローズマリーとの火遊び。
レミ子の心の操を奪う。
佐知子をメロメロにする。
全部、咲太郎のトラブルというか、騒動は女絡みなんだよなぁ。
その悪い癖が、なつ関連でも出てきました。
コネと口利きでなんとかしようとすること。
それだけ厳しい世界を泳いできた癖といえばそうですが。どうなんでしょうね。
「俺の口利きで成功したぜぇ〜!」
そういうことを言い出したら、よくない兆候です。
おまけになつの恩人である仲に、責任重大だと凄むわ。
海に浮かべるだわ。
根は悪い人ではない。
ただ、トラブルメーカーになりつつある。
そんな咲太郎なのでした。
昭和の暗い道へと踏み込んだ
朝ドラは、やっぱりさわやかな印象があります。
モデルの周辺はどす黒いものが渦巻いていたにも関わらず、クリーンアップした作品はあったものです。
その極め付けが、NHK大阪の『わろてんか』と****でしょう。
芸の世界の黒いところ。
そういうものをきっぱりと消し去った結果、おままごとになった前者。
モデルの逮捕歴、捏造経歴、婚姻関係まで真っ黒だったと、ドラマ化のせいで暴かれた****。
ハッキリ言いましょう。
あんな真っ黒けモデルをドラマにした時点で、朝ドラ枠に仁義も道徳もあったもんじゃありません。
それでも一応はお行儀良くする。
そんな建前を本作はぶっ壊してきた感があります。
それが咲太郎周辺です。
戦災孤児をストリップ業に動員させていた浅草の劇場。
博打で盗品をやり取りする芸人たち。
藤正親分。
借金のカタに労働というのがあり得る世界。
孤児同士がリンチしあう殺伐とした新宿。
真っ黒けではありませんか。
咲太郎は、今後どんな悪の道に突き進んで転げ落ちても不思議はない。
そして咲太郎には、そうならない道もあったはず。
信哉がそうでしょう。
そこをあえて踏み外してきた本作。咲太郎は罪深い奴ですよ。
咲太郎周辺の色気も厄介でして。
朝ドラモデルに不倫歴があること、婚姻関係に問題があったことも、なかったわけではありません。
『カーネーション』は果敢にもそこに挑んだものですが、そこは避けた方が無難でしょう。
そこへもやっぱり咲太郎が踏み込んでくるわけです。
咲太郎が面白い。
なんなんだこいつは!
北海道から移って大丈夫なのか、と不安でしたが、咲太郎が暴れる限りなんだかんだで楽しく見られそうです。
このキャストそのまんまで、昭和アウトロー映画やドラマを作っても面白そう。
そんな期待感すら湧いてきます。
あ、いや。なつの道も気になりますからね!
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
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TEAM NACS ファンの道民の方々は、
安顕さんを保護者目線で見てハラハラしてしまう、そうですね。
Twitterで見て笑ってしまいました。
雪之助さんが酔った時のことは忘れる所は、道民の突っ込みが入ったかな。
お前だよ~!北海道はいいなあ。
前作のラーメンシーンでは一切泣くことはありませんでしたが、今朝の咲太郎君のラーメンシーンは一緒に泣きました。そして亜矢美さんと咲太郎君のタップダンスの場面では今度はすごく嬉しくなって泣きました。ええドラマや。
亜矢美が腹中に抱えていた隠し事。
それは「咲太郎を手元に置いて離さなかった後ろめたさ」だったわけですね。
でも、誰が悪いわけでもない。
なつが店を訪れて、こういう形でわかりあえてよかった。
それにしても、亜矢美は信哉のことも知っていました。「ノブ」と。
焼け跡の中で、身寄りもなく生き延びてきた人達。咲太郎の言うところの「戦友」。時にこういうつながりになって形を現すこともあるんですね。
十勝編で、泰樹が、酪農初期に利益を度外視して支援した乳業メーカーのことを忘れられなかったこととも、どこか通じるような(→※もっともこちらは結果的に利用されてしまいましたが)。
こういう「人の縁」は、本作の柱の一つかも知れません。
それから
その後のなつの二ヶ月間を表現したアニメーションは、なかなか効果的だったと思います。
今後も要所要所で活用されると良いと思います。
あの大失敗の「新宿の街角」も、アニメーションでリアルに、印象的に表現していたら良かった。後知恵ですが。(←まだ言ってるし…)