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(咲太郎)失礼ですが東洋映画社長の大杉 満さんでは?
(大杉)そうだけど アータは?
あっ 失礼しました!
私は 劇団赤い星座の奥原咲太郎です!
♪~
(亜矢美)まあまあ 今日は彼氏と ご一緒?
何か御用?
♪~
なつよ 一体 何をする気だ?
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
(なつ)こないだは 失礼しました。
せっかく 食事をごちそうしようとしてくれたのに急に帰ってしまって。
謝りに来たの?
はい…。
あっ あと…この人は佐々岡信哉さんです。
子どもの頃 私や兄と一緒に街で暮らしてたんです。
…って 信? って 信よね? 信?
(信哉)はい…。咲太郎と同い年の幼なじみ?
はい…早生まれなんで 学年は1つ上ですが。
やだ~…もう信ちゃん もう早く言ってよ!
ちょっと お座んなさいよ!(藤田)座んな。
座んなって言ってんだからほら ほら ほら…。
はい…。
私は 劇団赤い星座の奥原咲太郎です!
劇団赤い星座?
女優の亀山蘭子がいる劇団です。
ああ… いつも 脇役でいい味を出してくれているね。
ありがとうございます。いつも お世話になっております。
うん お世話さま。 それじゃ。
あっ いや… ちょっと待って下さい!
あの お願いがあるんです!何だね 君は!
いやいや いいよ…。
お願い? アータが 私に?
お願いというより 挨拶です。
あっ いや… というより お願いです。
何? 早くしてちょうだい。すいません。
あの そちらの新しく出来た東洋動画という会社に私の妹が入りたがってるんです。
アータの妹が 漫画映画を?
はい。 奥原なつといいます。
漫画映画に 命を懸けています。どうぞ よろしくお願いいたします!
命を懸けなくてもいいから。
試験を受けてもらわないとね。
もちろん そのつもりです。
奥原なつは 孤児院から北海道に渡って本当に 苦労したやつなんです。
奥原なつ 奥原なつです!
どうか 鶴の一声 あっ いや…どうか 名前だけでも覚えてやって下さい!
アータの名は?
奥原咲太郎です。
奥原咲太郎君に 奥原なつさんね。
はい 分かった。
ありがとうございます! それじゃあ?
うん。 それじゃ。あっ…。
ありがとうございました!
ここで会えるなんて運が向いてきたぞ なつ…。
よし!よし よし よし よし よし…。
よし…!
孤児院から逃げ出して新宿の街に流れ着いたあの子は闇市で 靴磨きを始めてね。
だけど 勝手に始めたもんだから周りの浮浪児たちから袋だたきに遭ってね。
そこ たまたま私が助けたっていうのかな。
靴磨きをしてたんですか… 兄が?
顔見知りのいない新宿でほかに生きるすべが なかったんだろうな。
しょうがないから親分さんとこに連れてって。
ラーメン食わしてやったらボロボロ泣きだしてな フフフ…。
北海道に行きたいんだ…妹を迎えに…。
北海道へは どうやったら行けますか?
お兄ちゃんが 北海道へ…?
うん。 妹のためだと思って行かせたのはいいけれど一人になってみたらもう会いたくて会いたくてたまんなくなったって。
(信哉)同じこと考えてたんだな…。なっちゃんと同じことをしてたんだよあいつは。
帯広と新宿で。
(亜矢美)だから あなたを捨てたってわけじゃないからね。私が捨てさせたの。
(藤田)そりゃ違うだろ。あんた また踊っただけだ。
♪~
(タップする靴音)
♪~
(藤田)あいつはここで生きる決心をしたんだ。
(亜矢美)それで 救われたのは私の方だったんだよね。生きてく希望なんて何にもなかったからね あのころは。
(亜矢美)あなたのお兄さんを長いこと 引き止めちゃった。
ごめんね…。
あなたがいてくれて本当に いかったと思います。
私にも 北海道に家族がいるんです。
亜矢美さんが 兄を支えてくれたことを私が否定してしまったら私は 北海道の家族も否定してしまうことになるんです。
だから あなたに失礼なことをしたなら謝ります。
本当に すいませんでした。
それから お礼を言いたいです。
兄を助けてくれて本当に ありがとうございました!
ああ…。
ああ もう… やだ やだ ほら 頭上げてよ。
ねえ ねえ ほら 座って 座ってほら ほら…。
ねえ ねえ… あっ そうだ そうだ。
咲太郎に聞いたんだけどさ何か 夢があるんだって?
はい。 それも 北海道に行けたから夢を持つこともできたんです。
ムーランルージュを今でも夢みてる兄と おんなじです。
じゃ いろんな苦労もしたかいがあったんだね。
はい。
悲しみから生まれた希望は人を強くします。
喜びから生まれた夢は人を優しくします。
この人… 詩人さん?
いえ 放送記者です。
♪~
(佐知子)なっちゃん これも お願いね。
はい。
なつの東京での暮らしはこうして続きました。
(杉本)おい ここに また粉が落ちてる!
お前が こぼしたんだろ?(雪次郎)はい!
床に 粉が落ちてたら足滑らせて危ないと言ってるだろ。
はい… すぐに掃除します。
うわっ…!あっ さっき そこに砂糖こぼしちゃったからごめん そこも掃除しといて。
なあ 危ないだろ。
はい…。
この新宿では みんなが 自分の生き方を必死に探しているようでした。
そして なつは6月の東洋動画の採用試験に向けて絵の勉強も続けていました。
どうでしょう?
(仲)この絵でも いけると思うよ。
この絵でも?うん。(陽平)うん。
「白蛇姫」の製作が遅れてるんだ。
今は 一人でも多くの人材が必要だからね。
本当ですか?
私は 仲さんから頂いたセル画を大事にしています。
私のお守りです。
あっ… それは 責任 感じちゃうな。
いや そういうつもりじゃないです。責任 感じて下さいよ。
仲さんが なっちゃんに希望を与えたんですから。
おかげで 僕の弟は寂しがってますよ。天陽も 元気に 絵を描いてるみたいだ。
はい。 私も負けません。
(陽平)うん。
おお なつ!
お兄ちゃん…。
お兄さんなの?あっ はい。
こちら東洋動画の仲 努さんと 山田陽平さん。
漫画映画を作ってる人でいろいろと教えてもらってんのさ。
そうですか。 兄の奥原咲太郎です。
咲ちゃん 座ったら?あっ いえ…。
おう さっちゃん コーヒーね。ちょっと!
なっちゃんも ゆっくりしてね。休憩中でしょ。
すいません…あの あんまり兄に構わないで下さい。
それで どうですか?
なつは ものになりそうですか?
お兄ちゃん!
大丈夫ですよ。 やる気さえあれば。
まあ ただ もうからないしきつい仕事ですけどね。
まあ 初めは 何でも そんなもんですよ。
軽い気持ちで妹さんを誘ってしまった手前僕も援護します。
あんたが誘った?
そりゃ 責任重大だよな…。
裏切ったら 海に浮かぶよ。
ちょ… お兄ちゃん!いや ジョークだよ。
ショービジネスのジョーク。
あっ さっき これをそこの本屋で買ってきたんだ。
仲さんが 面白い本だって言うから。
えっ 何ですか?見てみて。
すごい…。
馬の動きが よく分かる。
(陽平)それを なっちゃんにプレゼントするよ。えっ!
(仲)アニメーションのために作られたものじゃないけど動きの基礎を勉強するにはいいと思うんだ。 うん。
♪~
仕事や勉強を重ねながらなつの東京での日々はあっという間に過ぎていきました。
♪~
そして 2か月がたちアニメーターになる試験の日を迎えました。
そこには 絵心ある若者たちが全国から集まっていました。
じいちゃん… 行くべ。
ああ なつよ その扉を押し開けよ。
来週に続けよ。