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【社会】

<91342人 裁判員10年>(番外編)現場の変化や課題法曹三者に聞く

 制度開始から10年を迎えた裁判員裁判。刑事裁判に市民の視点が加わったことで、現場はどう変わったのか。東京地裁で裁判員裁判を担当する法曹三者に課題を聞いた。 (聞き手・蜘手美鶴)

◆裁判官・東京地裁 楡井(にれい)英夫裁判長(50) 刑や判決文 市民の目影響

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 刑の議論をするときに、裁判員は「被告だったら」「遺族だったら」という立場で、処分や処遇を非常に具体的に考える。裁判官三人の議論では、服役後の議論まではしない。やはり刑を決めるには市民の視点も重要だと考えさせられる。

 市民の視点は判決文にも影響を与えている。裁判員が「この行為は悪いけど、無理もないよね」と自然に話したことを、判決の中で取り入れることがある。被告に「俺の生き様を見てくれた」という思いが伝われば、納得感も高まるのではないか。

 死刑求刑事件は裁判員の負担も重い。だが、市民にも関わってもらうことが、死刑制度を考えてもらうことにもつながると思う。

◆検察官・東京地検公判部 溝端寛幸検事(43) 長い公判前手続き 問題

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 公判前整理手続きの長期化は問題だ。連日の開廷と分かりやすい立証のため、事前に証拠や主張を整理することは重要だが、初公判までが長くなればなるほど目撃者や被害者の記憶は薄れる。裁判の迅速化のため、検察庁としても早期に証拠開示するなどして対応している。

 分かりやすい公判を心掛ける中で、悩ましいのが被害者らの証人尋問。供述調書を読み上げるよりも、目の前で証言を聞いた方が裁判員にとっては分かりやすいが、証人にとっては精神的にも肉体的にも負担になる。

 全ての事件で証人尋問が必要か。事件の中身を見ながら、今後も工夫を重ねていかなければならない。

◆弁護士・第二東京弁護士会 宮村啓太弁護士(41) 否認事件 とことん議論を

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 弁護人からすれば、被告の立場が一番守られるべきもの。裁判員は「無罪推定」の原則を徹底し、市民の知識、経験、常識に従い、とことん議論してほしい。

 評議はそれぞれの常識を戦わせる場で、単なる「裁判官の体験をしました」という場ではない。罪を犯した被告も、刑に服していずれは社会復帰する。裁判員も被告も広い意味では同じ。被告のことも自分のこととして考えてほしい。

 争いのある否認事件こそ、市民に判断してもらいたい。痴漢事件などでは、どの裁判官に当たるかで被告の命運が分かれることもある。市民の目を入れて幅広く見てもらうことは、被告にとって決して困ることではない。

 

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