夢見りあむは誰も救わない。
夢見りあむは誰も救えない。
でも。
夢見りあむを見て勝手に救われる人は、居る。
今日のレッスンは、新人のりあむさんと一緒にやるそうです。
レッスン室には既にりあむさんが居ました。やる気いっぱいですね。
りあむ「ほたるちゃんと一緒のレッスンか……やむ」
……聞かない方が良かった台詞が聞こえてきました。
とりあえず声を掛けましょうか。
ほたる「あの……私のせいで、ごめんなさい……」
りあむ「うわ!?ほたるちゃん!?いやその、やむって言うのは違くて!」
ほたる「え?上手く調整が付かなくて、次のレッスンがマストレさん担当になった事を気にしてたのでは……?」
りあむ「マジで!?それはやむ!じゃなくて、えーっと……デビューライブ!デビューライブ見てました!」
デビューライブ……少し前のですね。緊張したけど、楽しかった。それに、嬉しかった。
ほたる「ありがとうございます。みんなと一緒で、とっても楽しかったんですよ」
りあむ「え?楽しかった?あぁー……この事務所でのデビューライブ?無理無理。あんな倍率高いの取れないって」
この前のじゃない……?他にデビューライブなんて、した事無い筈なのに。
ほたる「あの、それ以外のデビューライブというのは……?」
りあむ「ほら、あったじゃん。前の事務所だっけ?2つ前?ほたるちゃんがデビューする予定だったライブ」
そう。デビューする筈だったライブ。デビュー出来なかったライブ。
忘れてた訳じゃない。それでも、私の不幸で全てが台無しとなり、あの輝かしい舞台に立てなかった。あと一歩、何も足りないものは無かったのに、届かなかったそんな日。
あの日を、デビューライブだと思った事は無かった。
ほたる「あぁ、ありましたね。あの時は舞台に立てませんでしたが……」
りあむ「そうそう!新アイドルお披露目って言うんで期待してたらさぁ、あんな事になってめっちゃやむ!ってなってさぁ」
ほたる「本当に、あの時はごめんなさい……」
りあむ「え?ほたるちゃんのせいじゃないでしょ」
ほたる「ですが……」
りあむ「あの事務所見限るつもりだったし。まぁ見限る前に潰れちゃったけど」
ほたる「あの後、すぐでしたもんね」
りあむ「そんでさー、最後、ほたるちゃん舞台袖から一回こっち覗いたでしょ?あの時一目惚れしちゃってさぁ!この事務所の推しアイドルはほたるちゃんに決めた!って思ったんだよね!だから、ぼくにとって、ほたるちゃんのデビューライブはあの日なんだよ!」
あの日。
あと一歩、届かなかったあの日。
デビューが出来なかったあの日。
どれだけ泣いたか。
どれだけ悔しかったか。
どれだけ私の不幸を呪ったか。
あの日、私のデビューは果たされなくて、私のアイドルは誰にも届かなくて。
アイドルを諦めてしまおうか、そんな事すら思ってしまっていた。
でも。
届いてた。
私のアイドルは、届いてた!
りあむ「そんな推しと一緒のレッスンなんて烏滸がましいっていうか……」
ほたる「りあむっ……さ……」
りあむ「何々?ってうわ!そんなに泣いてどうしたの!?どこか痛むの!?」
だめ……涙が、止まらない。
ビジュアルレッスンもたくさんして、どんなに悲しくっても涙を止められるようになった筈なのに。
ほたる「うぅっ……あぁ…………」
りあむ「大丈夫!?えぇと、泣き止んでよぅ!」
上手く喋れない。
なんで、どうして。
りあむさんに言わなくちゃいけない事があるのに!
マストレ「夢見、それと白菊。揃ってるか?ある程度加減はするが、夢見は良い経験だと思っ……て……」
りあむ「あっ」
ほたる「うあぁ……」
マストレ「夢見!何白菊を泣かしているんだ!!」
りあむ「ぼくじゃないのに!やむ!」