ゲームアプリを継続的に成長させるために欠かせないのが、コミュニティ戦略です。「App Ape Award 2018」では株式会社MOTTO佐藤基氏、PUBG株式会社井上洋一郎氏、Supercell株式会社 脇俊済氏、株式会社ミラティブ赤川隼一氏による特別セッション『スマホゲームを継続成長させるコミュニティマーケティング最前線』を開催。ゲームのコミュニティマーケティングの最前線について活発な議論が交わされました。
プロフィール:1984年生まれ。2011年株式会社ディーエヌ・エーに入社。入社後は一貫してモバイルビジネスのマーケティングを担当し、特にスマートフォンゲームのマーケティングは黎明期から現在まで約7年間経験。マーケティング部門の責任者を経て、2018年に独立し、株式会社MOTTOを設立。主にモバイルゲームやアプリのマーケティング戦略の立案と実行を支援。これまでにマーケティングとして関わったタイトルは「逆転オセロニア」など、約100タイトルを超える。
プロフィール:2002年GameOn入社。2008年オンラインFPS「Alliance of Valiant Arms」通称AVAの日本運営プロデューサーとして活動。2018年PUBG株式会社入社。オンラインゲームの運営者として15年以上の経歴。AVAとの出会いによってFPSに目が向くこととなった。日本にFPSの定着や市場の拡大を目指して奮闘中。
プロフィール:大学卒業後、人事系コンサルティング会社に就職し、アソシエイトとしてさまざまな企業の組織分析などに携わる。その後、創業直後のAppBankに入社。ライターとしてアプリレビューを行ったほか、広告営業部門を立ち上げ、AppBankが運営するメディアの広告販売、広告ネットワークビジネスのローンチを先導。2016年3月Supercellに入社以来、モバイルゲーム「クラッシュ・ロワイヤル」「ブロスタ」のコミュニティ・マーケティングを担当。YouTuberの育成や、YouTuberを起用したマーケティング、SNSを通してのコミュニケーション、コミュニティ向けのイベントやその他プロジェクトの企画・運営を日々行う。
プロフィール:2006年、新卒として株式会社ディー・エヌ・エーに入社。広告営業やマーケティングに携わった後、「Yahoo!モバゲー」を立ち上げ。その後、新卒出身者として初の執行役員に就任し、海外事業の統括やゲーム開発に携わる。2018年2月、株式会社エモモ(現 ミラティブ)を創業。
Mirrativのコンセプトは「友達の家でドラクエを後ろから見る感じ」
佐藤:ゲームは厳しい市場になりましたが、そのような環境下でも成長されている皆さんに、今起きている変化と、それにどう対応しているかについて、お伺いできればと思います。
私はディー・エヌ・エーでスマホゲームのマーケティング担当していましたが、昨年独立しゲームやアプリのマーケティング支援する活用をしています。ゲームやアプリのマーケティングを一緒に考えさせてもらっているほか、マーケティングを遂行するための組織作りや、マーケターの育成にも取り組んでいます。
赤川:ミラティブの赤川です。Mirrativとはスマホゲーム実況のアプリで、スマホゲームでは一番多くの配信ユーザーがいます。
Mirrativは「友達の家でドラクエやってる感じ」をキーコンセプトにしています。見る側は後ろで漫画を読んでいて、ボス戦のときだけ茶々を入れるような雰囲気ですね。eスポーツ的なものではなく、コミュニケーション的な新しい実況の形をスマホで提供しています。「ガチャでSSR出た!」とスクリーンショットでTwitterに投稿する流れはもともとありましたが、それが特に若い世代では動画になりつつあります。
井上:PUBG井上です。セガのPC部門からはじめて、GameOnではオンラインのFPSゲームタイトルで活動してきました。よりコミュニティ活性に携わりたいと、2018年にPUBGに入社しました。
脇:Supercellの脇です。「クラッシュ・ロワイヤル(以下クラロワ)」「ブロスタ」のコミュニティを担当しています。若い人を相手にすることが多いので、Twitterやインスタグラム、YouTube、Mirrativを自分でも利用しています。
ゲームを愛するインフルエンサーに「環境支援」を行う
佐藤:最初に僕から、日本国内のゲーム市場のマクロな視点での変化についてお話しします。
こちらはApp Apeのデータになりますが、日本国内でゲームアプリを遊ぶアクティブユーザ数の推移になります。
2017年の後半あたりから、一人当たりが遊んでいるゲームの数が減ってきています。これは新しいヒットタイトルが生まれにくくなっている背景の一つとも言えるのではないかと思っています。
次のグラフが、2018年12月における国内売り上げTOP100のゲームタイトルのうち、2018年にリリースされたタイトルの割合です。
TOP100のうち22タイトルが2018年リリースになり、80タイトル近くはそれ以前のリリースになります。。つまりロングセラータイトルが多い市場であり、これも新しいヒットタイトルが生まれにくくなっている背景の一つだと思います。さらに2018年リリースのヒットタイトルは、グローバルプレイヤーのタイトルが大変目立っています。国内ゲーム市場はグローバル環境の競争になっている状況です。。
まず井上さんにお伺いしたいのですが、PUBGもモバイル版を去年リリースし、ヒットされましたが、どのようにマーケティングされているのでしょうか。
井上:PUBGはPCゲームからの流れがあり、バトルロイヤルゲームジャンルを牽引してきたので、モバイルでも結果が出せるかなという感触の元、スタートしました。
マーケティングとしてはPCのころから「インフルエンサーへの対応」を続けています。2017年3月にサービスをスタートしましたが、これが短期間で全世界に広がったのはインフルエンサーによるものです。
ただ、有名なインフルエンサーにお金払って起用したわけではないんです。代わりに何をやったかというと、インフルエンサーの支援です。
インフルエンサーは本人たちの収益もありますが、ゲームが好きで配信をしています。好きだからこそチャンネル登録者数、視聴者数が伸びていく。こういった方たちとパートナーという形で当社はアライアンスを結んでいます。
当社からはインフルエンサーに向け、ゲームのアイテムやオリジナルのグッズ提供のほか、ゲーム内にルームを建てるといった権限を与えたり、ゲームの大会や公式番組への出場機会を提供したりしています。配信するモチベーションを保てるような支援ですね。インフルエンサーに対してペイをするというよりは、環境を作ることにペイをしました。
広告よりもインフルエンサーを支援する理由とは?
佐藤:日本のゲームはアプリインストール獲得を目的とした広告、プロモーションにお金を使うケースが多いと思いますが、そういった施策にはあまりお金を使っていないのでしょうか??
井上:そうですね。広告、プロモーションは大きくお金を使う競合があったりすると、グローバルの札束の競争になってしまいますから。当社として注力するのはやはりインフルエンサーパートナーの支援です。先日パートナーの第四次募集も終わりました。
佐藤:アプリインストール目的のデジタルマーケティングとインフルエンサー支援だと、後者の方が効果的なのでしょうか。
井上:はい。支援を行うことでインフルエンサーのロイヤリティが高まり、視聴回数が増え、結果、我々のゲームのお客さんも増える流れにはなっています。
赤川:今のお話で面白いと思ったのが、日本のゲームマーケティングにおけるインフルエンサーはTwitter上やInstagram上にいる印象でしたが、PUBGは配信と紐づいているんですね。
初めて井上さんとお会いしたときも「グローバルのPUBGは売上より先にTwitchの再生数をKPIにしている」と伺い衝撃でした。そういう考え方の会社がこれだけ成功しているのは新しい流れですよね。
世界のインフルエンサーをフィンランドに集結、生配信
佐藤:グローバルと共通の考え方で、日本でもヒットしている点は面白いですよね。
次に脇さんに伺いたいのですが「クラロワ」「ブロスタ」はどういった考えのもと、マーケティングをされていますか?
脇:当社でもインフルエンサーを重要視しています。「ブロスタ」のリリースをしたときに、世界中から当社のゲームや、ブロスタのβ版からプレイしてくれているユーチューバー含むコンテンツクリエイターを100名ほど本社にお越しいただいたんです。本社がフィンランドのヘルシンキにあるので遠かったですが(笑)。二泊三日でパーティーをしたり、ゲームチームの考えをお伝えしました。
このパーティーにおけるメインイベントが、世界を5つの地域で分け「ブロスタ」の地域別リリース時刻に合わせ、各地域のユーチューバー達にスタートのボタンを押してもらうというものでした。カウントダウン用のカッコいい動画も作り、その様子ももちろん生配信しました。日本が世界で一番最初のリリースになるので、最初にボタンを押したのは日本のユーチューバーでした。
佐藤:インフルエンサーがキーになるのでしょうか?
脇:そうですね。理由はいくつかあるんです。
まず当社の日本のオフィスは10人もいないんです。その中で自分たちで動画を全部作ったり、ではすぐ限界が訪れます。インフルエンサーといい関係をつくり、支援していく形が利にかなっているんです。ビジネス的な言葉でいうと効率的、効果的なのは間違いありません。もちろんゲームを作る人間としても喜ばしいですし。
井上:全く一緒です。ゲームを好きな人と絆を作っていき、彼らの意見に耳を傾ける。ちゃんと向き合うことで彼らの言葉もポジティブなものに変わってきます。
インフルエンサーには2タイプいる~高まる「マイクロ」の重要性~
佐藤:あらためてですが「インフルエンサー」の定義とは何でしょう?
脇:世の中に通用する定義ではないでしょうが、私の中では「YouTubeとTwitterとMirrativで「クラロワ」「ブロスタ」をしている人」です。コミュニティは分散させない方が熱量も高まりやすいので今はこの3つに注力しています。若い人を中心にインスタグラム利用者も増えてはいますけれど。
赤川:インフルエンサーもメガインフルエンサーとマイクロインフルエンサーとタイプがいますよね。チャンネル登録数が数十万人いるユーチューバーといったメガインフルエンサーも大事ですが、マイクロのユーザーに対しいかにアプローチしていくか、が今後より大切だと思います。
PUBGモバイルがリリースされ、24時間で、Mirrativで5000以上もの関連ライブ配信があったんです。これはつまり、マイクロインフルエンサーが自分の友達10人に向け、語り掛けているんです。「さあ、メガユーチューバーに発注しよう」の流れだけではなくなりつつある。口コミの最新型とも言えます。
発注では「色」が出る~コミュニティ運営で気を付けたいこと~
佐藤:「インフルエンサーを支援する」は「インフルエンサーに仕事に発注する」とは全く異なる施策ですよね。PUBGでも支援が中心であり、発注やタイアップは積極的に実施していないのでしょうか??
井上:発注やタイアップも実施しておりますが、支援が中心になります。PUBGをプレイしていない方にご依頼してもやらされている感が出て、むしろネガティブな内容になってしまう可能性もあります。大切なのは「ゲームが好きだ」という思いで、これはメガインフルエンサーでもマイクロインフルエンサーでも一緒ですね。この考えのもと一緒にやってくれるインフルエンサーと提携しています。
ゲーム内に友達がいたほうがゲームを長く遊び続けることがデータでも判明
佐藤:Supercellは積極的にMirrativを活用していると思います。Mirrativをどんな意図で活用しているのでしょうか??
脇:ゲームコミュニティと相性がいいからですね。ゲームコミュニティは「非リア充」が多い。もっとも、リア充なんて全体の人口の5%もいないでしょうけど。
非リア充の人にもいろいろありますが、人生で注目を受けることがあまりなかっために、いざコミュニティができるとそれを大切にする傾向があると思います。自分と同じタイプを見つけると長く居続ける。それはゲームが目指している「ずっと遊び続ける」ことと相性がいいんです。
赤川:ゲーム内に友達がいるほうがゲームを長く続けるんですよね。Mirrativに触れたか触れてないかで30日後のゲームのリテンションが10%とか違ったりするんです。一緒に遊ぶ仲間がいるとゲームが続くというのは感覚的には理解していましたが、それがデータ的にも出ているんですよね。
井上:モバイルでゲームを配信するにはある程度知識がないといけなかったんですが、Mirrativによって簡単になりました。友達を作らないとオンラインゲームは続かないと私も思います。ですので、生配信や動画といったプラットフォームの活用が重要ですね。
佐藤:先ほどインフルエンサーの種類にメガ、マイクロの二種類が出てきましたが、どちらかを支援するということではなく、ゲーム配信のコミュニティ全体を支援していくと。
赤川:はい。コミュニティはひいきが嫌いで、平等感が大切です。メガインフルエンサーに効果の中心があったとしても、みんなのことを見ているよ、というまなざしがあることがとても大切ですね。
Supercellさんの取り組みですごくいいなと思うのが、クリスマスでMirrativに配信しているユーザーに対し、公式アカウントが直接入室して「メリー!」とコメントしてくるんですよね。それでユーザーが「クリスマス!」と返す。配信している側にすれば公式からメッセージが来た!となりますよね。フラットに付き合うスタンスを感じる。
当然ビジネス的なそろばんがあったとしても、ひとりひとりのユーザーに運営が真摯に向き合っている平等感は大切です。
佐藤:逆に失敗するやり方のようなものはあるでしょうか?
井上:コミュニティは人付き合いです。公式は真摯にならないと嫌われます。常に察知して、注意してですね。謙虚で、真摯であること。これを忘れると攻撃の対象にさえなりますから。
「フォロワーを増やす」ではないコミュニティ施策の目標の立て方
脇:コミュニティ施策は目標設定が難しいですよね。ROIを計算するのが難しい。売上とも、インストール数とも紐づけられない。ですので、僕が行っているのはOKRという目標管理手法です。定性的、定量的な目標両方をうまく管理できる管理手法なんです。
具体的に言うと去年のクラロワでは、「クラロワのプロがプレイヤーたちに熱狂され、ファイナルの話題で持ちきりになる」という目標を立てました。ものすごく定性的ですよね。ただ、これに紐づけて数値目標を出すんです。例えば、Twitterなら「30万インプレッションをインセンティブなしのeスポーツ関連ツイートで達成する」といったような。リツイートしたら何かがもらえるなどのインセンティブがあると簡単に達成してしまうので、インセンティブなしにしています。
大目標として、あるジャンルで一番を取ろうと。それに紐づいてコミュニティにどう感じてほしいのかがある。それらをもとに目標を立てていくと論理的にコントロールできるのかなと。これが例えば「コミュニティと仲良くなろう」とか「フォロワー数をとりあえず増やそう」という目標だと、おそらくそれを達成しても「何だっけ?」という感じになってしまいますよね。
ゲーム事業として大切なものは何かと議論したうえで立てた目標のもと、例えばMirrativの人がどれだけ配信して欲しいのか、配信している中身はどうなっていて欲しいのかと考えると、コミュニティのマーケティングを計画的にできるようになります。
佐藤:最後にまとめとして、2019年に取り組みたいことをお話しいただければと思います。
井上:拡散力がどのくらい出たのかを数値として見ながら今年は取り組みたいです。Twitterのトレンドがどのくらいトラフィックに影響するのか、セールスが上がったときにどういった状況になるのか。これらを紐づけて見られるようにして今後の糧にしていきたいです。
脇:Mirrativに関して話し忘れたことがありました。コミュニティ特性もありますが、Mirrativでキャンペーンを行う際に、数値に一喜一憂するのは活用方法として間違っていると思います。というのも、コミュニティは少しずつ大きくなるものです。何カ月もかけて高めていく数値目標こそ目指すものであり、中長期的に見るべきです。
コミュニティは単発の施策ではありません。もちろん単発の数値がいいとうれしいし、多くの人に影響を与えられたという意味で一つ一つの施策に成功失敗はあるんですが「数カ月後見たら、ちょっとベースが上がっていた」というのが本当に大切な数値になります。
これからはプレイスキルといった技術が重要なゲームが増えてきて、Mirrativのような「誰かと遊んで楽しむ」ことがより重要になるでしょう。その流れに乗り遅れないようやっていきたいと思います。
赤川:そう言って頂けるのはスタートアップ冥利に尽きます。
人間は「たくさん触れているもの」と「濃く触れているもの」を好きになっていくと思います。昔は運営とユーザーのオンラインでの接点はTwitterだけでしたが今はYouTubeや、動画になってきています。今は運営側もより気軽に生配信するようになっていますよね。
最近の事例として、あるゲームに障害がおきたときにプロデューサーがMirrativをすぐ起動して「現在こういったトラブルを直しています。お待ちください」と配信で直接声を伝えた、というのがありました。真摯な対応ですよね。そうなるとTwitter上でユーザーも「待つわ―」とポジティブな反応になる。
あとは、ユーザーと同じ目線に立つのがキーになるでしょう。かっちりとしたYouTubeの公式動画はどのゲームもやられていて、それはもちろん情報として重要です。ただ、あえて崩した形というか、例えばプロデューサーがビールを飲みながら10連ガチャで爆死する様子を流し、「運営も人間なんだな」とユーザーに思わせる。そういった距離の取り方の変化が今年はより加速するのではないでしょうか。
ゲームに寄り添いながら愛されるためのサポートをするのが、Mirrativの役割だと思います。VTuberのように配信ができるアバター機能「エモモ」や、現在開発中のボイスチェンジャーなど、配信の気軽さを高める開発に力をいれています。何より、スタートアップとしてはいま世の中にない新しい流れを作るのが最高なので、日々テンション高く取り組んでいます(笑)。
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著者プロフィール:石徹白 未亜(いとしろ みあ)
ライター。著作に自身のネット依存の経験をもとにした『節ネット、はじめました』、男性向けスーツのすべてがわかる『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい』(ともにCCCメディアハウス)。
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