出典:写真AC(知財 本棚)
第6回戦でのコロプラの反論について解説記事を書き終わって改めて思った事だが、やっぱりコロプラの反論は最初の「いちゃもん付けるだけの時間稼ぎ」から随分と印象が変わっている。
任天堂がコロプラを訴えた裁判資料を読んだけど、コロプラの勝ち目が見えません
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振り返ると転機になったのはやはり第4回戦だろう。「信長の野望」やら「ファンタシースターオンライン(PSO)」やら「ザ・警察官」やら、往年名ゲームが突然に後出し無効資料として登場して来た。「今さらどうした?」と思ったものだが、その後に任天堂が特許訂正に追い込まれるなどかなりの効果を発揮した。
この第4回戦が転機になったと思いながら裁判全体を振り返ると気づく事がある。第4回戦を前にコロプラは筆頭弁護士が交代しているのだ。この弁護士交代が流れを変えたのか?
超エリート軍団の任天堂弁護団と、新人弁護士をぶつけたコロプラ弁護団
当時は随分批判されたものだが、最初の裁判資料を見て「コロプラの勝ち目が見えません」と私が感じたのは当然である。
改めて紹介すると任天堂の弁護団は6人である。弁護士5人、弁理士1人と少数だが精鋭揃いだ。筆頭弁護士であるM氏は裁判官として多数の知的財産訴訟に携わった後に弁護士に転職されており、まさに特許訴訟のプロ中のプロである。2018年には知的財産権制度への貢献が認められて経済産業大臣表彰を受けている。
そんなエリート弁護団に任天堂最強法務部(知財部)の全面パックアップが付いているのである。その訴状と証拠を見て勝ち目が無いと思うのは決して贔屓目では無い。
それに対抗するコロプラの弁護団は11名と数では上回っている。弁護士7名と弁理士4名というメンバーだ。知的財産訴訟では実績がある弁護士事務所であるようで、弁護士の中には多数の知財訴訟の経験を持ち数々の著書・論文を出されている人もいる。
しかし最初に筆頭弁護士になっていたI氏は、はっきり言って特許のど素人だったはずだ。
理由はシンプルでこのI氏は新人も新人、ど新人なのだ。知財訴訟の経験はほぼゼロのはずだ。
I氏が弁護士登録されたのが2016年である。I氏は第69期司法修習生なので、司法修習が終了して事務所に配属されたのが2017年の始め。そこからコロプラの代理人として第1回口頭弁論(2018年2月16日)に登場するまでわずか1年弱だ。その間に特許訴訟の実務を経験できたとしても精々1つだろう。
実務経験としては任天堂弁護団と比べるべくも無いどころか、特許訴訟を任せるには余りにも頼りない。
別に新人に対する偏見でもなんでもない。実際にI氏が担当していた第3回戦までのコロプラの反論は「スマホはゲーム機じゃない」とか「メッセージの送信はネットワーク通信じゃない」とか、「勝つ気あんのか」「書いたの素人か」という内容ばかりだった事も証明している。今となっては特許訴訟の素人が書いた準備書面だったとしたら納得だ。
2018年9月13日の第4回戦から突然にコロプラの筆頭弁護士が交代
そのI氏であるが、第4回戦から突然に名前を消してしまう。
その結果、コロプラ弁護団は1名減って弁護士6名と弁理士4名というメンバーになった。
どうやらI氏は弁護士事務所を辞めてしまったようである。調べると現在は違う弁護士事務所に所属しているようだ。前の事務所の経歴が一致しているので同姓同名という事はあり得ない。辞めた時期は第3回戦の2018年6月15日から第4回戦の9月13日の間のはずだ。
任天堂とコロプラの特許訴訟の筆頭弁護士と言えば、まさに日本を代表する訴訟を任された事になる。大役中の大役だ。おまけにこう言ってはなんだが、負けても経歴に傷もつかないだろう。そんなビッグチャンスを途中で投げ出してしまうとはちょっと不可解である。
転職した事務所は前の事務所と同じ東京都千代田区で、すぐ側にある。家庭の都合で引越しという訳では無さそうだ。おまけに転職後の事務所も特許訴訟を扱っているのだが、そこの担当弁護士にはI氏の名前が無い。
これは想像だが、I氏は特許訴訟には自信が無かったと自覚していたのだが半ば無理矢理コロプラの弁護を押し付けられていた。しかし余りにも理不尽で勝ち目の無い裁判を押し付けられた状況に嫌気が差してしまったのでは。
そんな特許の素人でしかも乗り気じゃ無い弁護士を筆頭にしていたのだから、コロプラの最初の主張を見て「勝ち目が無い」と思うのはとても自然な事だったのだ。
しかしコロプラはどんな考えでそんな新人に弁護を任せる事を了解したのだろうか。はっきり言って社運が掛かっている訴訟だ、負ければ倒産だって現実味を帯びてくる。数億円積んででも最強弁護団を雇うのが普通だ。余りにも不自然過ぎる。
これは全くの想像であるが、コロプラは弁護士事務所に依頼だけをして、それ以降は全くチェックしていなかったのでは。そうでも無いと説明ができない。
弁護士交代後もコロプラの狙いは時間稼ぎの継続。だが効果は確実に増している
とはいえ弁護士が交代した第4回戦以降のコロプラ弁護団は頑張っていると思う。
無効資料を大量に用意し、しかもそれなりに的確なので任天堂の特許訂正を引き出した。
さらにぷにコンの仕様変更の情報をコロプラから引き出したり、コロプラにアドバイスしてシルエット表示の仕様変更をさせたりと、コロプラとの連携も強化されている。
特に無効資料はよく集めたと思う。任天堂の特許は2005年あたりのものなので、それ以前のゲームや本、特許を調べなければならない。そのためにWindows2000のPCとかゲームボーイアドバンスとかプレイステーション2とか、ハードもソフトも用意するのも一苦労だったはずだ。その努力は凄い。
私は第4回戦でのコロプラの無効資料を「後出し」と表現したが、交代後の弁護士にとっては「最初」だったのだ。
もっとも交代した筆頭弁護士のT氏は最初から弁護団に名を連ねてはいたので、第4回戦の遥か前から準備していた可能性はあるが。
とはいえ、印象としては「勝ち目無し」から「もしかしたら配信停止は免れるかも」に変わった程度だ。結局、無効資料頼みでは決定的なアドバンテージは奪えない。仕様変更もあくまで配信停止にしか効かず、過去の損害賠償を避ける決定的な情報は存在していない。
しかし「時間稼ぎ」と考えると、無効資料の追加は極めて効果的だ。第4回戦で出したのはもしかしたら最初だとしても、第6回戦でも出してきたのは間違いなく後出しだ。この後出しの目的は時間稼ぎが第1と考えるのが自然だ。
そしてその時間稼ぎは確かに効いている。任天堂とコロプラの特許訴訟は第1回口頭弁論から1年半近くが経過したが、全く終結に向かう様子を見せないのだから。
参照:任天堂に訴えられたコロプラが妙に強気な「真意」を分析してみた、任天堂がコロプラを訴えた裁判資料を読んだけど、コロプラの勝ち目が見えません、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第2回戦。タイトな解釈にねじ込むコロプラ、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第3回戦。遅延行為を繰り返すコロプラと怒れる任天堂、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第4回戦。コロプラの切り札(?)として『信長の野望』が出陣、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第5回戦。ユーザに内緒で『ぷにコン』の仕様が変わっていた!、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第5回戦。後出し無効資料でコロプラが会心の一撃、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第6回戦。またユーザに内緒で白猫の仕様が変わってた、任天堂 VS コロプラ特許訴訟・第6回戦。ソリティア!?止まらないコロプラの後出し無効資料の嵐