シズ・デルタ、任務遂行中!   作:ミッドレンジハンター
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第1話

 聖王国での仕事を終え、帰りの馬車でシズ・デルタとのぎこちない会話を済ませたアインズは、聖王国から十分に離れたのを確認し、馬車から降りる。二つの季節の間に溜まった様々な仕事が待っていることに、少し憂鬱な思いを抱きながら<転移門>を唱える。行き先はもちろんナザリック(の地表部分にあるログハウス)だ。

 

「おかえりなさいませ、アインズ様!」

 

 転移門を出ると、セバスとペストーニャを中心に据えて、室内を埋め尽くす数のメイド達が待ち構えていた。アインズは思わぬ圧力に足を一歩引きそうになるところを、なんとか踏ん張って答える。

 

「ああ、ただいま。出迎えご苦労。……ところで、一体どうしたこの人数は」

「ご不快でしたでしょうか?……わん」

 

 ペストーニャが不安そうな面持ちで尋ねる。

 

「い、いや、そういうわけではないが……」

「長期に渡るアインズ様の素晴らしいご活躍は、デミウルゴスから耳に及んでおります。アインズ様の疲労を癒すため、メイド達を総動員し、今日に至るまで様々準備してまいりました。どうぞごゆっくり、おくつろぎください」

 

 セバスがそういうと、メイド達は一糸乱れぬ動作で頭を下げる。彼女達から、やる気オーラがほとばしるように見えた気がした。

 

(うう……。その気持ちは嬉しいけど、心休まるのかなぁ。不安しかない……)

 

 

 

 

 

ナザリック帰還から3日目の朝。アインズは執務室にて、机に溜まっている大量の書類を眺めながらぼーっとしていた。

 

(あの2日間のもてなしは案外、いやかなり良かったな。それに、プレアデスの意外な一面を見られたのは嬉しかった)

 

 一般メイド達に代わる代わる全身を揉まれながら鑑賞した、セバスとプレアデスによる戦隊ショー。脚本はたっち・みーさん譲りのセバスだろう。いつの間に練習していたのか、帰ってきたばかりのシズも出演していた。セリフも普段よりは感情が籠もっていた気がする。普段よりは。

 内容は録画してあるので、参加できなかったオーレオールにも見せてやろう。 

 

 そして特に良かったのはスライム風呂だ。流動する弱酸粘液で全身を包み込まれたときのあの程よい刺激は、言葉では言い表せないほどだった。そしていつも以上に丁寧に、というか舐めるように全身を洗ってくれた。三吉君も主人がいない間練習していたのか、と感心したものだ。しかし、たまに三吉君から声が漏れていた気がするが、発声も可能になったのだろうか。

 

「さて……。プレアデスの今後について、少し考えておくか」

 

 目の前にある書類にいつまでも手を付けないことを、今日のアインズ当番であるフォアイルに不審がられないよう、わざと独り言ちる。

 聖王国でヤルダバオトを討伐したことで、プレアデス全員が表で活動できるようになった。戦闘能力のある人型のNPCは貴重である。なるべく早急に、プレアデスを魔導国民に周知させ、活動の幅を広げたかった。

 

(ユリ、ルプスレギナ、ナーベラルはとりあえず現状のままでいいだろう。ソリュシャンとエントマは、人間を食料として見る節があるからな……。この二人はアルベドに相談してみるか。そして、有望株のシズだ)

 

 シズはカルマ値が+100であり、人間と友好に接することのできる貴重な人材である。実際、聖王国での仕事を終える頃には、あの殺人的な眼をしたネイア・バラハと友人になっていたのだ。これはアインズにとって非常に嬉しい誤算であった。

 これなら、シズを今すぐ街に送り込んでも、人間達と上手く付き合っていけるだろう。

 そこで、アインズの脳裏に一つのアイデアが閃いた。これはまさしく彼女に託すにふさわしい任務だろう。

 

「フォアイル、シズを呼んできてくれ。頼みたい仕事があると」

 

 

 

 

 

 朝食の時間。一般メイドに加え、今日は珍しくプレアデスの面々が、第九階層の食堂に集まっていた。普段は仲の良いグループ等に分かれて談笑しながら食事をする彼女達だが、今日は違う。ある人物を中心に集まり、大きな集団になっていた。

 ビュッフェで料理を取り終えたメイド達が、どんどん集団に混ざっていく。誰も彼もが3人前はありそうな大量の料理をお盆に載せている。ホムンクルスである彼女達は、その種族特性上、カロリー消費が高いのだ。

 全てのメイドが席に座ると、ルプスレギナが代表して音頭を取る。

 

「それじゃあシズちゃん、聖王国での活動報告を頼むっすよ。いただきまーす!」

 

 いただきまーす!と、やたらと気合の入った挨拶が木霊する。しかしそれも当然である。一般メイド一番人気であるシズが語る、我らが支配者アインズ様の英雄譚を耳にしながら食事ができるのだから。彼女達にとって、これほどご飯が進むおかずはない。よくみると、キッチンにいる料理長も手を止めて耳を澄ませていた。

 

「「それでそれで!?」」

「……ネイアが泣いた。ハンカチで拭ってあげたら、また鼻水が付いた」

 

 うわぁ、と口々に不満が漏れる。至高の御方から頂いた装備品の一つに人間の体液が付くのは耐えられないようだ。特にナーベラルは。

 

「アインズ様を目の前にして泣き出すなんて、無礼にも程があるわ。……気持ちは、分かるけど」

「……大丈夫。もうきれいさっぱり」

 

 そういって懐からハンカチを取り出す。その迷彩柄は、彼女が持つと不思議と可愛らしいデザインに見える。

 シズは話の続きを語っていく。

 

「……アインズ様は、『無論!』と一言だけ返して……片手を挙げマントを翻しながら……悠然と、歩いていった」

 

 きゃー!と黄色い歓声が食堂全体を包む。本人が聞いたら身悶えするような内容だが、それはこの場にいる全員の心を打った。いつの間にか集まっていたエクレアの部下である男性使用人達は、エクレアを放り投げて両手にガッツポーズしていた。

 

 そのタイミングでアインズ様当番であるフォアイルが現れる。

 

「シズちゃん!アインズ様がお呼びです。頼みたい仕事があるそうですよ!」

 

 再び歓声があがる。多くのメイド達にとって妹分のような彼女が活躍することは、まるで自分のことのように嬉しいのだ。

 

「……ほんと?」

「凄いわシズ。聖王国での任務がよっぽど評価されたのね」

 

ユリに続いて次々と激励の言葉が送られる。一人を除いて。

 

「アインズ様からのご勅命、羨ましい……」

 

 エントマとシズはライバル関係である。聖王国でMVPを取られたこともあり、出世街道をゆくシズに対して焦りを感じていた。

 

「……任せて。私がお手本になる。……姉として」

 

 そういって勝ち誇ったような表情を見せる。エントマはぐぎぎとハンカチを噛み締め、そして決心する。次こそは立派に任務をこなし、必ずライバルに追いつくと。

 

「……じゃあ、行ってくる」

 

 そういって歩き出したシズの足取りは、どこか浮ついているように見えた。

 

 

 

 

 

「アインズ様、シズ・デルタ様が入室のご許可をお求めになっておられます」

 

 アインズは軽く頷いて入室を促す。

 

「……失礼します、アインズ様」

「うむ。話は聞いていると思うが、新しい仕事を頼みたいと思ってな。あちらで話そう」

 

 アインズはソファーに座り、続いて対面にシズが座る。虚空から一枚の写真を取り出し、机の上に広げた。写っているのは、フード付きの黒いローブに身を包む二人の男。

 

「つい先日のことだ。シャドウデーモンをエ・ランテルの僻地に送って市民の生活状況を調べさせていたとき、探知阻害系のマジックアイテムが散りばめられた空き家を見つけたとの報告があった」

 

 そのまま屋外から観察させていると、二人組の男が出てきた。その素性を調べてみると、どうやら商人として登録し、雑貨と称して多くのマジックアイテムを国外から持ち込んできたそうだ。商店街から遠く離れた空き家で、その商品をふんだんに使用している。やましいことがあるは明らかだ。

 

「探りを入れたいのはやまやまだが、シャドウデーモンでは荷が重いだろう。隠密任務ならハンゾウがいるが、できれば問題のマジックアイテムを無力化して潜入したい。それならば、遠距離攻撃手段を持ち、なおかつアイテムボックスを使って臨機応変に対応できるシズが適任だと思ったのだ」

 

 シズは無言で頷く。その顔はどことなく自信が満ちているようだ。

 

「危険な任務だが、やってくれるか?」

「……もちろんです。アインズ様の期待に、応えます」

「いい返事だ。護衛としてハンゾウを二体つけよう。連絡用にも使うといい。入念に準備をしてから向かってくれ。必要なものがあれば、気兼ねなく相談するんだぞ」

 

 

 "急襲突撃メイド"シズ・デルタによる、そこそこ壮大な物語が、始まろうとしていた。

 




シズちゃんって身長145cmしかないんですよ。抱き上げたい可愛さですよね。

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