| 次に、「内意は先述したように大谷家・村川家両家の松島渡海の調整作業に関わる意向のことである」という説明があるわけですが、これは実に理解しがたい。手紙には「来年より竹島の内にある松島へあなたの舟を派遣することについては、先年四郎五郎が御老中様から御内意を得たところです」と書いてあるわけです。これは松島に渡海することについての内意ではなくて、大谷・村川の利害調整に関わる内意なのだそうです。何でそういう読み方ができるんでしょうね。ここは、史料に書いてあるとおりに松島に渡海することについての内意だと理解するのが史料解釈としては素直でしょう。 そして、「幕府決定でも免許でもない老中の「内意」」という説明があります。この「内意」は、「免許」とは言えないでしょうが「幕府決定」とは言えますよ。阿部四郎五郎は、この件を老中に説明して了解を取っておく必要があると考えたのでしょうが、そういうときに、老中4名が同席する場を作ってもらっていきなりそこで説明するという方法を採るかというと、普通はそんなことはしないでしょう。まず、自分が最も話しやすい一人の老中に相談すると考えるのが常識的ですね。そして、相談を受けた老中は、それが重大なことであって自分だけで処理することはできないと判断したならば、「老中会議で協議して見る」とか「老中一同が揃っている場で改めて説明しろ」とか言うでしょう。しかし、比較的軽易な案件であって自分の責任において処理できることだと判断したならば、「分かった」とか「まかりならん」とか答えを言うはずです。 松島渡海計画について言えば、既に竹島渡海については免許が出ていて、松島はその手前にある小さな島だから、改めて松島を目指して船を出したいという相談を受けたならば、竹島行きを認めることに比べれば軽易な案件と言えます。だから、相談を受けた老中は、自分の判断で処理できると考えて「別にかまわぬ」とでも言ったのでしょう。そして、幕政の責任者の一人である老中が自分の責任で処理できることだと判断して何かを回答したのならば、それは「幕府の決定」と言って間違いではないですね。 次に、「名前も明らかにならない某老中」という説明もあります。名前が明らかでないから信憑性がないということなのでしょうかね。 その老中が誰であったか、亀山庄左衛門が大谷あての手紙に名前を書かなかったから現代の我々は分からないわけですが、阿部四郎五郎は当然知っていました。だから、問題は、亀山が名前を書かなかったことが怪しいのか怪しくないのかということです。名前を書かなかったのは老中の内意は作り話だから誰とも書けなかったのだと考える人もいるのでしょうが、作り話とは考えにくいという意見は前に書きました。日本人の感覚として、こういう場合にことさらに「老中の○○様」と上役(亀山さんから見れば自分の主君のそのまた上の人です)の名前を明記することは遠慮するということはあるのではないでしょうかね。名前を書かなかったことが特に怪しいとは思えません。 このように考えて来ると、「老中の内意」というものを否定できる明確な事情はありません。また、某老中が大谷の希望を認める「内意」を示したから希望したとおりに実行されたのでしょうが、もし「だめだ」と言ったならば松島渡海は取りやめられたでしょう。こういうものは、許可、了解、了承、承認、承諾、許諾、同意などと表現できるものです。そして、老中の決定は突き詰めれば「幕府の決定」とも言えるものです。だから、池内さんが、塚本さんの「幕府の公認」「幕府の許可」という説明を「暴論」だと非難するのは言い過ぎもいいところです。 結論としては、「松島渡海免許」と言えるようなものは無かったが、1661年以降は幕府の承認を受けての松島渡海が行われた、と言えます。このことは、中央政府(幕府)が「松島を日本国の領土として管理するのだ」と考えていたことまで意味するものではないですが、「日本人の松島利用には中央政府(幕府)の統制が及んでいた」とでも表現すればいいでしょうかね。(もっと簡潔なまとめ表現があればいいが、今は思いつかない。) 以上、長々と松島渡海免許関連のことを書いて来ました。「17世紀半ばごろの日本人の松島利用には中央政府の統制が及んでいた」ということを確認するのはいささかの意味があることと思いますが、本題は実はそのことではなくて、池内教授の「松島渡海免許は存在しない」という結論のその用い方です。 (続く)  おいおい、こんな細かい話をしないと竹島ってのは答が出ねーのか？ あっちのもんかこっちのもんか、っていう単純な問題だと思ってたんだがなあ。人間も大変だな。 |
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