| 松島開墾の儀 池内教授は「以下は蛇足である」として、『竹島問題100問100答』のＱ83で塚本孝氏が1881年の「日本海内松島開墾之儀に付伺」を引用しながら太政官指令は現在の竹島について本邦外と決定したものではない可能性を述べていることに対して、まず、次のように述べます。 おそらく塚本の論証手順は以下のようになっている。明治9年太政官指令を添えて行われた明治14年伺書に対する内務省の明治15年返答書は、明治10年太政官指令に変更はない、つまり「竹島外一島」は日本の版図外であるとする判断が維持されている。しかも明治15年返答書では「松島の義」について「最前指令の通本邦関係これ無き義」としているのだから、この松島が「最前指令」における「外一島」に相当するだろう。そして、内務省15年返答書の前提たる外務省書簡には「蔚陵島即竹島松島」ともあるから、「松島」とは鬱陵島のことである。だから明治10年太政官指令における「外一島」とは松島とも称される鬱陵島のことになる。こんにちの竹島のことではない、と。(p119) ここで、「明治9年太政官指令」の「9年」は「10年」の単純な誤記でしょうかね。ただ、そう理解したとしても、「明治9年(10年)太政官指令を添えて行われた明治14年伺書に対する内務省の明治15年返答書」という言い方はちょっと不可解です。これだと島根県が内務省に提出した明治14年伺書(日本海内松島開墾之儀に付伺)に太政官指令が添付されていたと説明されているように読めますが、太政官指令が添付されていたのは島根県の伺書ではなく、それを受けた内務省が外務省に事情確認をするために質問した照会文書のほうですね。ちょっと不可解ですが、とりあえずこのことは置いておきます。 池内さんが想定した上の論証手順は、部分的な表現にちょっとどうかと思うところはありますが、大筋で言えば大正解です。これが太政官指令の真実なのです。しかし、「磯竹島略図には鬱陵島と今の竹島が描いてあるのだから外一島の松島は今の竹島以外には有り得ない」と決めつけている立場からは、上のような論理は絶対に認めることはできません。それで、池内さんはこの論証手順に強力な批判を加えます。その第一点は、この論証は「重大なすり替えがなされている」のだそうです。 何がすり替えなのかというと、上の論証では明治14年のやりとりのテーマとなった「松島」は明治10年太政官指令の「竹島外一島」の「外一島」である「松島」のことだということになるわけですが、池内さんは、明治14年のやりとりの「松島」は明治10年太政官指令の「竹島」のことなのだとおっしゃいます。そこをすり替えているのだ、ということでしょう。本では次のように説明されています。 そして、その折に述べられた「書面松島の義は最前指令の通本邦関係これ無き義」に言う「松島」は、明治10年太政官指令にいう「竹島外一島」の「竹島」に対応しているのであって、「外一島」に対応しているのではない。(p120) なぜそう言えるかという論拠として、池内さんは明治14年8月に外務省がまとめた『竹島版図所属考』を挙げます。次のような説明です。 塚本の指摘する島根県宛明治15年内務省返答書にいう「書面松島の義は最前指令の通本邦関係これ無き義と相心得べし」は、まさに明治14年8月における外務省の作業結果を踏まえたものにほかならない。その作業は従来「竹島」と呼ばれてきた島についての最終確認だから、明治10年太政官指令「竹島外一島」にいう「竹島」についての事実確認のことである。(p121) とおっしゃいますが、その言い方は、太政官指令の竹島は間違いなく従来から(江戸時代から)竹島と呼ばれて来た鬱陵島のことであるという前提に立っていますね。しかし、もともと、それが本当なのかどうか――太政官指令の竹島は確かに鬱陵島であり松島は今の竹島であるのかどうか――を議論しているのですからね。この意見の実質は「太政官指令の竹島は確かに鬱陵島である」ということを繰り返して言っているだけであって、全然有効な反論にはなりません。アルゴノート・ダジュレー説の立場から言えば、『竹島版図所属考』は「その当時に松島と呼ばれていた島についての検討だから、それは太政官指令の松島に対応している」ということだってできるのです。 しかし、こんな堂々めぐりというか水掛け論のようなというか、こういう議論を不要とする決定的な史料があります。例の「外一島ハ松島ナリ」です。 この件は「太政官指令「竹島外一島」が示していたもの」に詳しく書いたので、ここでは要点だけを短く書きます 「日本海内松島開墾之儀に付伺」に対して内務省は島根県に明治15年返答指令「書面松島の義は最前指令の通本邦関係これ無き義と相心得べし」を送ったのですが、その前に外務省に事情確認をしました。そのときに、内務省の西村さんは、外務省に送る質問書である島地第1114号に添付した別紙甲号(太政官指令の説明文書)に「外一島ハ松島ナリ」という書き込みを追加しました。 (続く) |
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