日韓近代史資料集

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固有領土論異説 (4)

8 竹島の「無主地先占」は本当に「無主地先占」か
 
  ちょっと話は変わりますが、来る2月22日の第11回「竹島の日」記念式典で高井晋氏が講演をなさるようです。

2867  11回「竹島の日」記念式典、竹島・北方領土返還要求運動県民大会

 

 私はこの方の領土編入の説明に疑問を呈したことがあります。

「明治政府は竹島の歴史を知っていた?」
 
 

  私は、日本の1905年の竹島領土編入は「確かに無主地先占であった」と思っています。「確かに無主地先占であった」というのは何を言おうとしているのかというと、竹島(りゃんこ島)を編入する際の明治政府の関係者たちは「りゃんこ島は江戸時代には日本人が利用していた島だ」ということは知らなかった、ということであり、「歴史的に見れば日本領と言える要素があるな」とは考えなかったということです。本当に無主地だと思ってそれを先占するのだというつもりで領土編入をしたのだ、ということです。
 
 しかし、高井氏のように、編入時の明治政府の関係者たちには「りゃんこ島は日本が歴史的権原を持っている島だ」という認識があったという趣旨の説明をする人もいます。明治政府は竹島に対して「日本は歴史的権原を持っている」と認識しつつ、必ずしも確定的なものとはいえないその歴史的権原を確定的なものにするという意図で領土編入をしたのだ、というわけです。
こういう見解に立つならば、無主地先占と固有領土の関係の説明は私の理解するところとは違って来ます。具体的にいうと、韓国側が「固有の領土をなぜ領土編入したのか、矛盾ではないか?」と言って来たときの答え方が変わって来るでしょう。私なら、「編入するときは無主地だと思っていたから」と答えることになります。上の高井さんの場合だと、「国際法上の要件を明確にするための領土確認措置としてだった」ということになるのでしょう。どちらが正しいのでしょうか。「確認措置としてだった」というのが事実であるならばそれはそれで別に何も問題はないことなのでどちらであってもいいのですが、私は竹島の「無主地先占」は「本当に無主地先占だった」と思っています。高井氏は記念式典の講演でこの当たりのことも語られるのだろうか。
 

 
 
9 現実無視
 今回の池内論文から、もう一つ、何でそういう理解になるのだろうと思う部分を再掲します。
 
竹島問題における「学問的外皮をまとった「日本固有の領土」論」は、「1905年以前に韓国が竹島を支配した事実が有効に示されなければ「日本の固有領土」とする主張が成立する」という論理構造になっている。そうであれば、竹島が1905年以前に既に韓国の領土だったとする韓国側の主張を論破する必要はあっても、1905年より前に日本領だったとする論証を積極的になす必然性は全くない。1905年1月28日における日本領編入の事実さえきちんと明らかにすれば良いからである。
 ところが外務省ホームページの小冊子『竹島』(26p)では、「韓国側からは、我が国が竹島を実効的に支配し、領有権を再確認した1905年より前に、韓国が同島を実効的に支配していたことを示す明確な根拠は提示されていません」というように「学問的外皮をまとった「日本固有の領土」論」を強調しながら、一方で「我が国は遅くとも17世紀半ばには竹島の領有権を確立していました」と前近代に竹島が既に日本領であったことの論証(「素朴な「日本固有の領土」論」)にもこだわり続けている。
 
 
 上に再掲した文章は現実を無視していると言っていいようです。
純粋な理屈としてなら、池内さんの言うことに理はあります。「竹島が1905年以前に既に韓国の領土だったとする韓国側の主張を論破する必要はあっても、1905年より前に日本領だったとする論証を積極的になす必然性は全くない。1905年1月28日における日本領編入の事実さえきちんと明らかにすれば良いからである。」これは、理屈としてはそのとおりです。無主地先占理論に従えば、議論の仕方はそういうことになるわけで、それで足ります。
しかしながら、竹島問題というのは、韓国側が竹島の不法占拠をごまかすためにあらゆるウソを言い立てているという非常に現実的な問題です。理屈が分かる相手ではないのです。あらゆるウソの中には、竹島(独島)は古くから韓国の固有の領土だったというものもあります。日本側としては当然それを論破する議論を展開していますが、現実的に考えてそれだけでいいものでしょうか? 「竹島(独島)は古くから韓国の固有の領土だった」というウソを論破することの外に、古い時代に竹島を実際上日本の領土のように扱っていた時代があるのだから、それも併せて主張するのはこれは当然のことではないですか。それは、相対的なものではあるとしても、竹島の領有権は我が方にあることを訴える上でそれなりの効果があるものです。ついでながら言うと、池内さんは、この「それなりの効果があること」を指して、「「素朴な「日本固有の領土」論」は「固有の領土」という言葉を浸透させるには有用であり、それを残すことによって、竹島が日本領であることについての国民的合意は素朴な感覚に依拠しながら容易に獲得され広がりを持つことになる。」とまとめていますが、もちろんこれはそういう状況を肯定的に見ているのでなく否定的なニュアンスですね。しかし、争いごとをする場合に、しかも相手があらゆるウソを繰り出して来るという尋常ではない争いごとにおいて、主張できる主張をわざわざ自ら控える必要はないですね。普通、そんなことはしません。主張できることを外務省が主張しないならば、職務怠慢と言われるかも知れません。
だから、池内さんの指摘は理屈に偏っていて現実を無視していると思うのです。ただ、池内さんは、「素朴な「日本固有の領土」論」は近年の自分を始めとする研究者の歴史学的実証によって既に破綻している、という絶対の確信が基本にあるためにこういうことをおっしゃるという側面もあるでしょう。そのことについては後に書きます。


(続く)


 

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