日韓近代史資料集

韓国ニュー・ライトの応援+竹島問題

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固有領土論異説 (2)

4 本当に二つある?
  しかし、そもそも、この論文の前提となっている二つの固有領土論だが、外務省の主張の中には本当にそういう二つの固有領土論が存在(併存)しているのだろうか。
 まず「歴史的に古い時代から日本のものである」とする「素朴な「日本固有の領土」論」の方だが、これは外務省の主張の中にあると言っていいだろう。外務省の主張(例えば、外務省ホームページの「竹島問題10のポイント(Q&A付き)」)では、まず「竹島は、歴史的事実に照らしても、かつ国際法上も明らかに我が国固有の領土です」と宣言した上で、日本が竹島の存在を古くから認識していたことや17世紀に日本人が竹島を利用していたことが説明されているからである。
 一方、「1905年1月28日より前に竹島が韓国によって支配された史実が証明されない限り「日本固有の領土」なのだ」という「学問的外皮をまとった「日本固有の領土」論」というものが外務省の主張の中のどこにあるのか、私は分からない。
実は、要約では省略したが、この考えは木村幹氏が提示したものを、池内氏が大変有用な整理であるとして自分の見解としても採用したものだ。
木村氏の提示を引用する。
 
時に誤解されているが、竹島が日本の「固有の領土」である、と主張される時、そこで述べられているのは、竹島が「過去よりずっと日本により支配されてきた」という事ではない。「固有の領土」論とは、特定の領土がその領有権を巡る紛争が勃発する以前において――今日の日本に関わる領土問題において、それは多くの場合、「第二次世界大戦以前において」という事とほぼ同意義である――自国以外に支配された事のない、という主張である。従って、この主張は、特に1905年から1945年竹島を支配したことが明らかな日本にとっては、1905年以前に他国、つまりは韓国が、この島を支配した事が有効に示されなければ自らの「固有の領土」論が成立する、という論理構造になっている。(「書評 池内敏著『竹島問題とは何か』」 東洋史研究72巻4号 20143)
 
 
しかし、御両人は外務省の主張のどこを読んでそういう考えを読み取られるのだろうか。おそらくは、「竹島は、歴史的事実に照らしても、かつ国際法上も明らかに我が国固有の領土です」という宣言の後に「韓国側からは、我が国が竹島を実効的に支配し、領有権を再確認した1905年より前に、韓国が同島を実効的に支配していたことを示す明確な根拠は提示されていません」という説明があることに着目してのことなのだろう。
だとすれば、それは、読み間違いではないだろうか。少なくとも、論点がずれている、あるいはことさらにそういう解釈をする必要はないものだと思う。外務省が「韓国側からは、我が国が竹島を実効的に支配し、領有権を再確認した1905年より前に、韓国が同島を実効的に支配していたことを示す明確な根拠は提示されていません」と説明するのは、いわゆる無主地先占の法理の効果に関連する説明をしているものだ。日本は1905年に竹島を無主地先占の法理に基づいて日本領土に編入した。「誰のものでもないから先に取った者の勝ち」という単純な理屈なのだが、したがって、もし他の国(この場合は韓国)1905年よりも前に竹島を実際に支配していたことを証明するならば竹島編入の根拠は覆されるだろう。だが、韓国がそれを証明できない場合(現状はそうだが)はどういうことになるかというと、無主地先占には瑕疵がなかったものとして国際法上竹島は日本の領土であることが確定する、ということになる。そのときに、ことさらに「日本固有の領土であることが確定する」などと言う必要はない。領土であることが確定することによって、その結果、場合によっては「固有の領土である」という説明をすることもあるのかも知れないが、無主地先占に反証がない場合の法的効果は本来「領土であることの確定」だ。そこでは「固有の領土」であるかどうかは一義的な問題ではない。
だから、「学問的外皮をまとった「日本固有の領土」論」というのは、本質から外れた、本来いう必要のないことをいうものだ。そして、そういう議論をすることによる当然の結果として、池内教授の説明は「二つの固有領土論がある」とか、外務省はその二つを使い分けているとかいうようなあらぬ方向へ進む。
 
 
5 「固有の領土」論は一つ
 外務省のいう「竹島は日本の固有領土」の主張には、この論文を始めとして否定的な意見を述べる識者は多い。だが、外務省のいう竹島固有領土論はそんなに変なものなのだろうか。
池内氏は、「日本固有の領土」とはどういう意味内容を指すか良く分からないとおっしゃる。しかし、これは政府機関である外務省が国民に向かって(併せて世界各国に向けてでもあるが)竹島問題の基本を説明する中での用語だ。裁判の答弁書とか学術論文だというものではない。だから、常識的に理解される読み方で読めばそれで良いのではないだろうか。私が持っている辞典によれば、「固有」の意味としては「本来持っていること」、「そのものだけにあること」という説明がある。これで理解できることではないか。「竹島は日本の本来の、あるいはもともとの領土だ」ということだ。「本来の」というときには、そこには当然「古くから」という認識も入るだろう。どれくらい古くからなのかという具体的なことは「固有」という言葉の範囲外のことだから別途説明すれば良いわけで、実際、外務省は「遅くとも17世紀半ばには竹島の領有権を確立」というように時期についても説明している。
「日本固有の領土」という言葉はそういうふうに普通に読んで理解できるものだし、外務省もそういう意味において「固有領土」という用語を国民に理解してもらおうと考えて用いているものと思う。
4で述べたように「学問的外皮をまとった「日本固有の領土」論」なるものは存在しないのであり、竹島の「固有領土論」とは二つではなく一つであり、それは池内教授のいうところに従えば「素朴な「日本固有の領土」論」の方だろう。


(続く)


 

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